日本初!経皮的補助人工心臓を用いた急性心不全の治療に成功!

日本初!経皮的補助人工心臓を用いた急性心不全の治療に成功!

2017-10-26生命科学・医学系

本治療のポイント

・薬物療法抵抗性の心原性ショック等による急性心不全に対して、経皮的補助人工心臓を用いた治療に成功
・本治療を行ったのは日本初
・薬物療法抵抗性の心原性ショック等による急性心不全に対する新たな治療法として期待

概要

薬物療法抵抗性の心原性ショック 等による急性心不全 に対しては、補助循環装置 を用いた治療が施行されることが多いですが、過去20年間で補助循環装置における新しいテクノロジーは出現しておらず、治療の選択肢は限られていました。既存の補助循環装置では血行動態の改善と心筋の負荷軽減を同時に、且つ低侵襲に行うことは難しく、それらを実現できるテクノロジーの出現が待ち望まれていました。左心室から大動脈へ直接血液を送り出す経皮的補助人工心臓「IMPELLA(インペラ) 」は低侵襲に血行動態の改善と心筋の負荷軽減を目指すことが可能となる装置です。大阪大学大学院医学系研究科の澤芳樹教授(心臓血管外科)らのグループは今回の症例(50歳代、男性)においてIMPELLA(インペラ)を使用することにより身体への侵襲を最小限に留め、薬物療法抵抗性の心原性ショック等による急性心不全に対する治療を日本で初めて成功させました。今後、薬物療法抵抗性の心原性ショック等による急性心不全に対する新たな治療法として期待されます。

本件に関しては2017年10月26日(木)15:30–17:00に東京・日本橋ライフサイエンスビルディング10階「1004会議室」で、日本アビオメッド株式会社が主催するメディアセミナー「〜急性心不全治療の最前線〜世界最小のハートポンプIMPELLAによる最新治療」内において澤教授が発表致しました。

背景

薬物療法抵抗性の心原性ショック等による急性心不全は非常に治療が困難であり、多くの症例で機械的循環補助が必要になります。これまでの機械的循環補助として大動脈バルーンポンピング経皮的心肺補助装置 が挙げられますが、これらの装置は圧補助、逆行性送血など循環補助の方法に問題点があり、十分な血行動態の改善と心筋の負荷軽減を出来ない場合があります。また流量補助、順行性送血が可能であり、多くの症例で十分な循環補助が期待できる体外式/埋込式補助人工心臓 は侵襲性の強い外科的手技が必要であり、心原性ショックに陥った急性期ではその侵襲に耐えられない症例があるなどの問題点がありました。澤教授らの研究グループは、身体への侵襲を抑え、流量補助、順行性送血により十分な循環補助が行える経皮的補助人工心臓「IMPELLA(インペラ)」を使用し、薬物療法抵抗性の心原性ショック等による急性心不全を治療し成功しました。

図1 大動脈弁位に留置された経皮的補助人工心臓

本治療の成果

研究グループでは、本年10月2日に薬物療法抵抗性の心原性ショック等による急性心不全に対して、日本で初めて経皮的補助人工心臓「IMPELLA(インペラ)」を使用した治療を行い、血行動態の著明な改善が見られました。IMPELLA(インペラ)の使用は安全に行われ、十分な治療効果を示し、日本の補助循環治療の新たな幕開けとなりました。

本治療成果が社会に与える影響(本治療成果の意義)

本治療法により、薬物療法抵抗性の心原性ショック等による急性心不全に対して、低侵襲でありながら十分な循環補助が可能となり、新たな治療法として期待されます。今後このテクノロジーが日本で適正に普及することにより、急性心不全患者の救命率や治療成績の向上が期待されます。

メディアセミナー

本件に関しては日本アビオメッド株式会社が主催するメディアセミナー「〜急性心不全治療の最前線〜世界最小のハートポンプIMPELLAによる最新治療」内において澤教授が発表致しました。
日時:2017年10月26日(木)15:30–17:00
場所:東京・日本橋ライフサイエンスビルディング10階「1004会議室」
http://www.nihonbashi-lifescience.jp/asset/pdf/NihonbashiLifeScienceBuilding_MAP.pdf
発表者:澤芳樹教授

コメント<澤教授>

心原性ショック等による急性心不全において、初期治療はその後の心機能や全身状態に大きく関与しており、非常に重要です。充分な循環補助を低侵襲に行えるインペラを適切に使用することで、今まで治療に難渋していた重症心不全症例に対してもより安全で効果的な治療が行えるようになると思っております。

この治療法が患者さまやご家族にとって大きな福音になるように願いながら、適切な使用、およびその普及に尽力する所存です。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科学
http://www2.med.osaka-u.ac.jp/surg1/

用語説明

心原性ショック

心臓のポンプ機能の低下により、全身における循環不全が生じ、低酸素、アシドーシス、毛細血管透過性亢進などを来たす重篤な病態。

急性心不全

虚血性心疾患など様々な要因により心臓の機能が低下することで、心臓を含めた各種臓器(脳、肝臓、腎臓など)に十分な酸素や栄養を送ることができずに、急激に全身状態が悪化していく病態。

補助循環装置

低下した心臓のポンプ機能を機械で補助する装置。これまでは、一時的に使用する装置としては大動脈バルーンポンピングや経皮的心肺補助装置があり、長期間使用する装置としては体外式/埋込式補助人工心臓がある。

IMPELLA(インペラ)

開胸手術をせず、経皮的/経血管的にポンプカテーテルを挿入し、ポンプ内のインペラ(羽根車)を高速回転することで左心室内に挿入・留置したポンプカテーテル先端の吸入部から血液を吸引して、上行大動脈に位置した吐出部から送り出すことにより、順行性の血液体循環の補助を行う。(* 図1 インペラの作用機序)

大動脈バルーンポンピング

大腿動脈などからバルーンを挿入し、下行大動脈に留置したバルーンを心臓の動きに合わせて開いたり縮めたりする装置。心臓にとって圧補助を行うことにより、全身への血液供給量を上昇させ、心臓の後負荷を低下させる。

経皮的心肺補助装置

大腿静脈などに挿入した脱血管からポンプを使用して血液を導き出し、人工肺で血液を酸素化させて大腿動脈などに挿入した送血管から体内に送り込む装置。流量補助を行うことにより全身への血液供給量を上昇させるが、逆行性送血のため心臓の後負荷を上昇させる。

体外式/埋込式補助人工心臓

心室に挿入した脱血管からポンプを使用して血液を導き出し、大動脈へ血液を送り出す装置。流量補助、順行性送血であり、心臓を補助する力は非常に強い。しかし、装着には開胸手術が必要であるため身体への侵襲が大きい。