自然科学系

2017年9月22日

研究成果のポイント

・高速MRIにより粉体層内部の非定常な粒子群運動をリアルタイムに観察可能に
・並列画像法、人工カプセル粒子等を組み合わせることにより高速撮影を可能に
・粉体が関係する自然現象の理解促進や工業装置への応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の辻拓也准教授、スイス連邦工科大学チューリッヒ校のChristoph Müller教授、Alexander Penn博士課程学生、チューリッヒ大学のKlaas Pruessmann教授らの研究グループは、MRI※1を高速化させることにより、通常観察が困難な粉体層※2内部の非定常な粒子群運動を、リアルタイムに観察することに成功しました。高い粒子濃度のため、通常粉体層内部を観察することは容易でなく、特に高い時間分解能を必要とする非定常な運動については困難でした。今回、研究グループでは、医療用のMRI装置をベースに、複数の受信コイル、並列画像法※3と人工的に作成したカプセル粒子を組み合わせて用いることにより、層内部の非定常な粒子群運動を、リアルタイムに撮影することを可能としました。また、流動層※4内において自発的に発生する気泡※5の成長・合一・分裂挙動(図1)や、粉体層内における衝撃波の伝播の様子などを詳細に観察することに成功しました。

本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、9月16日(土)にオンライン公開されました。

図1 流動層内気泡の瞬時分布
粉体を充填した容器に下方から空気を吹き込むと、粉体は流動化し、気泡群が自発的に発生する。層内で黒く見えるのが気泡、容器下部では気泡は小さいが、層上部に移動するに従い大きな気泡へと成長していることがわかる。

研究の背景・内容

固体粒子の集合である粉体は、火砕流、雪崩や地滑りなどの自然現象として、また様々な工業装置中において広く見られます。例えば、化学産業において用いられる原材料の2/3は粉体であると言われており、その運動を把握することは、各種化学プロセスの高効率化・省エネルギー化を行う上で重要です。特に粉体が、気体や液体と混合状態にある場合、振る舞いは大変複雑であり、これまでその取り扱いの多くを経験に頼ってきました。MRIは、撮影対象を乱すことなく撮影することが可能であるため、粉体内部の流動構造の観察に用いることが長年期待されてきましたが、時間分解能が低いという欠点があり、非定常な運動を観察することは困難でした。今回研究グループは、医療用のMRI装置をベースに、16個の受信コイル、並列画像法と、特別に作成した中鎖脂肪酸オイルを内包するカプセル粒子を組み合わせて用いることにより、粉体層内部を数ミリ秒の時間分解能で高速撮影することを可能としました。本手法を用いることにより、200×300平方ミリメートルの観察領域に対して、空間分解能3×5×10立方ミリメートル、時間分解能7ミリ秒での撮影が可能です。

本手法を流動層に適用することにより、層内部において自発的に発生する気泡群の成長・合一・分裂など、非定常性が強く従来手法では観察が困難な現象の詳細を明らかにしました(図1)。また本手法は、速度計測も可能であり、浮上する気泡まわりの瞬時の粒子速度分布計測も併せて行いました(図2)。撮影対象を乱すこと無く、瞬時の粒子群速度分布を任意の断面で得られることは画期的であると言えます。

粉体層中に粗大な物体を貫入させた際、粉体中に衝撃波が発生すると言われていました。高速な現象であるため、これまでその詳細は明らかになっていませんでしたが、本手法を適用することにより、衝撃波の空間分布も含めた詳細な観察が可能となりました。

図2 浮上する気泡まわりの瞬時の粒子速度分布
気泡後方において粒子群が大きな速度を持つことがわかる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で提案した高速計測手法を用いることにより、粉体の物理現象に対する理解をより深めることが可能であると考えられ、今後、粉体が関係する様々な自然現象の把握や、最適な設計や運用に基づく各種粉体工業プロセスの高効率化・省エネルギー化が期待されます。

近年粉体のコンピュータシミュレーションが盛んに行われていますが、このようなシミュレーションに用いられる数理モデルの評価や改良にも利用できるものと期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年9月16日(土)に米国科学誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されました。タイトル:“Real-time probing of granular dynamics with magnetic resonance”                                   著者名:A. Penn, T. Tsuji, D. O. Brunner, C. M. Boyce, K. P. Pruessmann and C. R. Müller                   掲載誌:「 Science Advances 」 Vol. 3, no. 9, e1701879                                          DOI:10.1126/sciadv.1701879

用語説明

※1 MRI
磁気共鳴画像法:核磁気共鳴現象(NMR:nuclear magnetic resonance)を利用して、撮影対象物体中に含まれる任意の原子核の濃度分布を画像化する手法。撮影対象として、一般には水素原子が用いられる。

※2 粉体層
一つ一つは固体である粒子群の集合体。粉体層は状況に応じて、固体的から流体的へとその性質が変化する。粒子濃度が高いため、通常その内部の様子を観察することは困難である。

※3 並列画像法
信号を複数のコイルで同時に受信することにより、撮像時間を大幅に短縮する手法。

※4 流動層
容器内に充填した固体粉体群に下方から気体を流入すると、粉体は流動化を始める。一旦流動化が始まると、粉体はあたかも流体のように振る舞うため流動層と呼ばれる。流動層は、優れた固体-気体間の接触や、良好な粒子混合等の特性を持つため、様々な産業プロセスにおいて用いられている。

※5 気泡
一般に「気泡」と言えば、炭酸飲料など液体中の気体の塊を想像するが、流動層に代表される固体粒子群と気体が混在した固気二相流中における気体の塊も「気泡」と呼ばれる。

研究者のコメント

・本研究は、スイス-日本間の国際共同研究の成果です。実験は、すべてスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)まで足を運んで行いました。
・小麦粉や化粧品など、粉体は私達の生活にとても身近な存在ですが、その物理的な振る舞いについては、実はよく解っていません。本研究で開発した技術は、これまで“見たくても見えなかったもの”を直接観察出来るようにしたものであり、今後、粉体の物理に対する理解が進むものと期待されます。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 複合流動工学領域
http://www-cf.mech.eng.osaka-u.ac.jp/

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