2017年9月19日

成果のポイント

・[6]ヘリセンの内側に酸素官能基を含む基盤骨格である1-[6]へリセノールを世界で初めて合成し、この基盤化合物かららせん型リン含有不斉配位子、硫黄含有らせん化合物合成に展開。
・光学活性ヘリセンを大量合成することは困難で、内部に官能基を有するものも殆どなかった。
・らせん型分子を鍵とする合成化学、材料科学への応用が期待される。

概要

大阪大学産業科学研究所の鈴木健之准教授、周大揚助教らの研究グループは、岩手医科大学薬学部河野富一教授、辻原哲也助教との共同研究により、らせん型機能分子の実用的合成法を確立しました。

この基盤技術を基に創製したらせん型不斉配位子※1は高い不斉認識能を有することが明らかとなりました。また含硫黄複素環を有するヘテロヘリセン※2の合成にも成功しました。

ベンゼン環をオルト位で縮合すると6個で一周し、ヘリセン※3というらせん型構造をとる分子になります。このらせん構造由来の右巻き、左巻き分子は光学的に逆の性質を示します。

このたび、本研究グループは、ヘリセンの内側に酸素官能基を含む基盤骨格である1-[6]へリセノールを世界で初めて合成し、光学活性体として数グラムスケールで合成する方法を発表しました。この技術を基に合成された、リン元素を含有するハイブリッドヘリセンは、パラジウムを用いる不斉触媒反応の不斉配位子として高い選択性を示します。また今回、硫黄元素を含むヘテロヘリセンの合成にも成功しました。(図1)硫黄元素を[6]ヘリセンの内側に含む化合物は世界初の例となります。

このようにらせん型構造を有する機能性分子の鍵化合物合成が可能になったことで、従来の不斉炭素を基盤とする機能性材料とは異なる性質を有する機能性分子が開発されると期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Organic Letters」に、6月7日(水)に公開されました。

図1

研究の背景

これまで、ヘリセン骨格を有する不斉配位子等の機能性分子の研究はヘリセン骨格の外側に官能基を有するものなどが知られていましたが、内部に機能性官能基を有するものはごくわずかでした。我々はヘリセン特有のらせん型不斉環境の特長を活かすには内部に機能性官能基を有する化合物が重要と考え検討を重ねた結果、最近その基盤骨格となる1-[6]へリセノールを光学活性体として数グラムスケールで合成する方法を見出しました。鍵となったのはNi触媒を用いる3個の三重結合を有する前駆体からの10グラムスケールでの環化反応の成功です。本環化反応はヘリセンを合成する一般的な手法の一つですが、我々が行ったヘリセン合成は現在のところ世界最大のスケールでの実施となります。なお、この前駆体合成には当研究所で開発された萩原-薗頭クロスカップリング※4反応が利用されています。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「Organic Letters」に、6月7日(水)に公開されました。

タイトル:“Helically Chiral 1-Sulfur-Functionalized [6]Helicene: Synthesis, Optical Resolution, and Functionalization”
著者名:Tsujihara, T.; Zhou, D.-Y.; Suzuki, T.; Tamura, S.; Kawano, T.

なお、本研究は物質・デバイス領域共同研究拠点:人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンスにおける基盤共同研究の一環として、岩手医科大学 薬学部河野富一教授の協力を得て行われました。

研究者のコメント

最近、名古屋大学の伊丹健一郎教授により発明されたカーボンナノベルト等美しい形を有する機能性分子の開発研究が注目されています。一見、単純な形を有する低分子も実際の合成は簡単ではなく、困難を伴うが挑戦しがいのある課題です。今回見出したらせん型分子を基にした新たな美しい機能性分子が続々生まれてくることが楽しみです。

用語解説

※1 不斉配位子
錯体の中心金属原子に配位結合している原子団を配位子(リガンド)といい、その配位子の鏡像と重ね合わせることができない、すなわち鏡像異性体を持ちうる場合、不斉配位子という。ノーベル化学賞を受賞した野依良治博士が発明したBINAP配位子が代表的な例。

※2 ヘテロヘリセン
ヘテロ元素は有機化学の分野で炭素、水素以外の元素の総称を指し、ヘリセンを構成する元素のうち炭素、水素が他の元素で置き換わったものをヘテロヘリセンという。

※3 ヘリセン
5個以上のベンゼン環が互いにオルト位で縮環すると末端ベンゼン環上の水素またはベンゼン環自身の立体反発のために平面構造が取れずらせん構造を持つことになる。このような分子の総称。5個のベンゼン環からなるヘリセンは室温で徐々にラセミ化する。2015年に東京大学藤田誠教授、山形大学村瀬隆史准教授が合成した[16]ヘリセンが40年ぶりに記録を更新。それまでの最高は1975年のMartinらによって合成された[14]ヘリセン。

※4 萩原(はぎはら)-薗頭(そのがしら)クロスカップリング反応
パラジウム触媒を用いた末端アルキンとsp2炭素のクロスカップリング反応。ノーベル化学賞を受賞した鈴木-宮浦クロスカップリングや根岸クロスカップリング、溝呂木-ヘック反応等の代表的なクロスカップリング反応と同タイプの反応。

参考URL

大阪大学産業科学研究所 総合解析センター
http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/cac/

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