生命科学・医学系

2017年9月11日

研究成果のポイント

・よりキズの小さな手術を求める声が高まるなか、手術機器の多くが「ダウンサイジング化」(10mm→5mm→3mm)されてきました。しかしながら「手術用綿棒」のダウンサイズは、製法上の制約から、長い間 5mm が限界となっていました。綿棒は臓器の把持※1、挙上※2、組織の鈍的剥離※3等の目的で様々な外科手術に用いられるものであり、さらなる細径化が望まれていました。このたび大阪大学国際医工情報センター次世代内視鏡治療学共同研究部門の中島清一特任教授(常勤)らの研究グループは、綿棒メーカー 株式会社山洋と共同で、手術用綿棒を製法面から見直し、世界ではじめてその極細径化(3mm)に成功しました。
・日本独自の綿棒製造製法により、従来の限界を超える細径化と、さらに自由な形状(凸凹型)のデザインを可能にしました。極細径化により、低侵襲(傷跡がほぼ残らない)、術中の視野を妨げない、細かい作業を愛護的に行える、等多くのメリットが期待されます。
・今回採用した製法で作成した綿棒は、微粒子数計測検査※4により、先発品よりも1000倍以上「コットン屑(溶出物)が少ない」ことが確認されました。体液中への異物溶出が少ないことによって、感染リスクが軽減されると期待されます。

概要

大阪大学国際医工情報センター次世代内視鏡治療学共同研究部門の中島清一特任教授(常勤)らと、株式会社山洋(本社:大阪府、代表取締役:中谷洋)の研究グループは、中小企業庁「平成26年度補正 ものづくり・商業・サービス革新補助金」のサポートを得て、中島特任教授(常勤)の指導のもと、腹腔鏡手術※5でニーズが高い「極細径化された綿棒5mm→3mm」を共同開発し、臨床評価を行い、「Dr.HUBY micro 3mm医療用綿棒」として実用化しました。

従来の5mmの先発品はコットン糸を巻いて作られたもので、それ以下のダウンサイジングは技術的に不可能と考えられていました。一方、山洋の綿棒はコットンパウダーを軸にふきつけた後、一定の型に立体造形するという、他社にない特殊な独自技術で製造されています。

そこで、中島特任教授(常勤)らの研究グループは、山洋の技術を用いて、現行のものよりさらに自由度の高い、極細径(3mm)の腹腔鏡手術用綿棒の開発に成功しました。

産学官連携による共同開発の成功事例である本綿棒は、平成29年9月15日に発売開始されます。


図1 規格


図2 腹腔鏡手術イメージ


図3 3mm、5mm綿棒の比較


図4 臨床評価(小腸、胃)


図5 術中視野の比較


図6 術後切開部の比較

共同開発の背景

綿棒は臓器の把持、挙上、組織の鈍的な剥離目的に様々な外科手術の場面で活用されています。一方、外科手術そのものは小さなキズによる腹腔鏡手術(患者への身体的ストレスが少ない、術後疼痛※6が軽く、回復も早いため)が主流となってきました。キズのサイズも、数年前までは10mm径前後であったものが、最近では5mm、さらには3mmと、どんどん小さくなってきています。

腹腔鏡手術のダウンサイジングにともない、手術器具の細径化も進んでいますが、綿棒に関しては欧米製の5mmのものが依然主流であり、より細径のもの(極細径綿棒)は現在の市場には存在しません。これには、従来の製造法では5mm以下のダウンサイジングが困難であるという技術的な背景も存在しました。

中島特任教授(常勤)らの研究グループは、独自の製造技術を有するものづくり企業と連携すれば、不可能とされてきた極細径(3mm)綿棒の開発が可能なのではないかと考え、綿棒メーカーである(株)山洋との連携に着手しました。

本共同開発が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本共同開発の結果、これまでにない極細径綿棒を世に出すことでキズの小さな手術のさらなる普及を促します。この綿棒は、単なる器具の細径化ではなく、安全・安心の技術に基づいた極細径化であり、手術効率の向上、患者負担の軽減、ひいては医療費削減効果も期待できるため、その潜在的効果、波及効果は極めて大きいと期待されます。

また、本共同開発は、産学官連携により日本の中小企業が医療機器分野に参入する良い例となりました。

特記事項

本研究開発は、中小企業庁の平成26年度補正「ものづくり・商業・サービス革新補助金」支援を得て、(株)山洋と共同でカタチにした、産学官連携による共同開発の事例です。

今回、共同開発を行った山洋は綿棒一筋50年の製造メーカーです。昨今、生産拠点を海外に移設する企業が多い中、山洋は日本でのモノ作りに重きをおき、付加価値の高い商品を作り続けていました。ただ、その高度な技術が医療分野に届いておらず、山洋においても医療業界の壁の高さに参入を足踏みしていましたが、今回の産学官連携によって、その壁を払拭することができました。お互いに歩みよることで、高い壁も共同作業で解決でき、最終的に両者にとって良い結果となりました。このような産学官連携の成功事例を広めることにより、「日本のモノ作り」の活性化に繋がると期待しています。

研究者のコメント

日本が誇る「ものづくり技術」は、国際的に見れば「オーバースペックを招きがち」、との批判があります。しかしながら、真に優れた技術を適切に活用すれば、他の国には決して真似することのできない素晴らしいモノを創出し、発信することができるはず。本製品は、そのような医師とものづくり職人の「熱い思い」が結実した革新的な医療機器です。これからも、我々は医療機器開発を通じて「日本の技術はまだまだ活かせる」ことを訴えていきたいと思っています。

用語説明

※1 把持(はじ)
しっかり持つこと

※2 挙上(きょじょう)
持ち上げること

※3 鈍的剥離(どんてきはくり)
剥離層を確認して、鉗子等で剥がすこと

※4 微粒子数計測検査
液体中にある埃や不純物などの微粒子を計数する検査方法

※5 腹腔鏡手術
腹腔鏡とは内視鏡(小型カメラ)の1つで、内視鏡を体内(腹腔)に入れて手術をする方法

※6 疼痛(とうつう)
ずきずきとうずくように痛むこと

参考URL

大阪大学国際医工情報センター次世代内視鏡治療学共同研究部門
http://www.project-engine.org/

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top