生命科学・医学系

2017年8月29日

研究成果のポイント

・ラクトフェリンの投与による臓器形成への作用や、血中投与による放射線障害の抑制作用を発見
・これまでラクトフェリンは経口サプリメントだったため、臓器に対し作用を十分発揮できないなどの課題があった
・ラクトフェリンを初めとする既存薬やサプリメントによる臓器再生医療への応用に期待

概要

大阪大学大学院歯学研究科の阪井丘芳教授らの研究グループは、ラクトフェリン※1が胎生期の唾液腺形成を誘導し、放射線照射時の唾液腺損傷に対する修復治療に有効であることを世界で初めて明らかにしました。

これまでラクトフェリンは、サプリメントとして市販されてきましたが、一般的に健康食品と考えられており、臓器の発生や放射線障害に対する効果については解明されていませんでした。

今回、阪井教授らの研究グループは、胎生期マウスの唾液腺の器官培養にラクトフェリンを添加すると臓器形成が誘導されること(図1)、また、放射線照射直後の成体マウスの腹腔内にラクトフェリンを注射すると唾液腺の障害が抑制されることを解明しました。これにより、将来的にはラクトフェリンを初めとする既存薬やサプリメントによる臓器再生医療の開発が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Scientific Reports」に、8月29日(火)午後6時(日本時間)に公開されました。

図1 ラクトフェリンによって発達が誘導された胎仔の唾液腺

研究の背景

頭頚部癌に対する放射線治療は有効な治療法の1つですが、周辺臓器である唾液腺が障害されるために口腔乾燥症、摂食嚥下障害等の口腔機能障害が問題になっています。対症療法があるものの、機能回復を図るための根本的な治療法はなく、新しい再生医療の開発が期待されています。

ラクトフェリンは、母乳とくに出産後数日間に分泌される初乳に多く含まれており、授乳により免疫グロブリンやラクトペルオキシダーゼ※2とともに母体から新生児に取り込まれます。ラクトフェリンは、これらの因子とともに新生児を外敵から防御していると考えられてきました。健康食品としての抗酸化作用や骨誘導作用、さらに、脂質代謝や創傷治癒などに様々な効果が報告されています。近年、西村義一氏(元放医研基盤技術センター)らによってラクトフェリンの放射線障害を防護する効果が報告されていましたが、各臓器に対する作用について不明な点が多く、経口投与すると消化管で代謝されることから、臓器に到達しても作用を十分に発揮できないなどの課題がありました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

阪井教授らの研究グループは、ラクトフェリンの投与が臓器の形成や障害の抑制に対して効果を発揮することを示しました。本研究成果により、将来的にはラクトフェリンを初めとする既存薬やサプリメントによる臓器再生医療の開発が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年8月29日(火)午後6時(日本時間)に米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Identification of the protective mechanisms of Lactoferrin in the irradiated salivary gland”
著者名:Manabu Sakai, Takumi Matsushita, Ryoko Hoshino, Hitomi Ono, Kazuki Ikai and Takayoshi Sakai

なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業、基盤研究(A)の助成によりなされたものです。

用語説明

※1 ラクトフェリン(別名:ラクトトランスフェリン)
母乳・涙・汗・唾液などの外分泌液中に含まれる鉄結合性の糖タンパク質です。1939年に牛乳中に含まれる「赤色タンパク質(レッド・プロテイン)」として初めて報告されました。その後、1960年にヒトとウシの乳より精製され、アミノ酸配列が決定されました。ウシの場合689アミノ酸、ヒトの場合692アミノ酸から成っており、Nローブ・Cローブと呼ばれる球状のドメインが一本のポリペプチドで連結された構造を有しています。各ローブは1個の鉄イオンと強力に結合します。この2つのローブから成るラクトフェリンの立体構造は、血漿中の鉄輸送タンパク質であるトランスフェリンや、卵白の鉄結合タンパク質であるオボトランスフェリン(コンアルブミン)と共通ですが、ラクトフェリンの鉄イオンに対する親和性はこれらのタンパク質より100倍以上高く、ラクトフェリンは、生体内で鉄輸送タンパク質というよりも、鉄を捕捉し周囲の環境から取り除くことで、その機能を発揮する場合が多いとされています。

※2 ラクトペルオキシダーゼ
乳中の酸化還元酵素で、過酸化水素を分解して水にする反応を触媒します。体内で細菌が増殖するためにはグルコースやアミノ酸などの栄養素が必要ですが、ラクトペルオキシダーゼはグルコースやアミノ酸の輸送を妨げて、結果的に細菌の増殖を防ぐといわれています。

研究者のコメント

既存薬剤の新しい機能を探索し、再利用の機会を見いだすことにより、年々増加する医療費の削減や難病で悩む方々のQOL向上に役立てればと願っています。

参考URL

大阪大学 大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室
https://www.dent.osaka-u.ac.jp/admission/admission_000311.html

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