生命科学・医学系

2017年8月10日

研究成果のポイント

・常染色体劣性遺伝性多発性嚢胞(のうほう)腎(ARPKD)の多彩な病態を説明出来るメカニズムを発見
・遺伝子異常によりユビキチンリガーゼを制御する分子が適切に機能しなくなり、ユビキチンリガーゼが正常に輸送されず、腎臓嚢胞形成などの疾患を引き起こすことを示唆
・今まで治療法の無かった新生児の腎臓難病に対する治療法の確立に期待

概要

大阪大学 大学院医学系研究科の貝森淳哉寄附講座准教授(先端移植基盤医療学)、猪阪善隆教授(腎臓内科学)らの研究グループは、新生児にみられる腎臓の難病、常染色体劣性遺伝性多発性嚢胞腎(ARPKD)※1における、のう胞形成、高血圧、肝繊維化の病態を統一的に説明するメカニズムを明らかにしました。

今回、貝森准教授らの研究グループは、消去されるべきタンパク質に目印を付ける「ユビキチンリガーゼ」※2という分子に着目し、ARPKDのモデル動物や患者組織では、多くのユビキチンリガーゼが正常に輸送されないために、本来消去されるべきタンパク質に目印が付けられずに残ってしまうことを発見しました。この結果、「細胞の骨格を制御するタンパク質」、「塩分の再吸収を行うタンパク質」、「繊維を細胞に作らせるように指令するタンパク質」が過剰に残ってしまい、のう胞形成、高血圧、肝繊維化につながるという可能性を示唆しています。今後、この研究成果を基に、新生児の腎臓難病への治療応用が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、8月10日(木)18時(日本時間)に公開されました。

図1 PD1をコードする遺伝子に異常が起こると、ユビキチンリガーゼを制御するNDFIP2がユビキチンリガーゼを正常に輸送出来なくなり、結果的にのう胞形成、高血圧、肝臓繊維化の病態が引き起こされる。

研究の背景

常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)は成人に発症する遺伝性疾患で、腎臓や肝臓に嚢胞(のうほう)が形成されます。ARPKDは新生児に見られる病気で、腎臓に嚢胞形成が見られる他、さらに本体性高血圧、肝臓の繊維化を伴います。ARPKDとADPKDは、同じような病気であるのに、出現する病態がなぜこのように異なるのかは、これまで不明でした。

本研究の成果

貝森准教授らの研究グループでは、モデル動物や患者さんの組織を用いて、ARPKDの原因遺伝子からできるタンパク質分子(PD1)を含む小胞体を詳細に分析しました。その過程で、多くのユビキチンリガーゼ(SMURF1, SMURF2, NEDD4-2)を制御する分子NDFIP2がPD1と同じ小胞体に存在し、PD1をコードする遺伝子に異常が起こるとNDFIP2によるユビキチンリガーゼの制御ができなくなり、ユビキチンリガーゼを正常に輸送出来なくなることを発見しました。これにより、細胞骨格を制御する分子(RhoA)※3、腎尿細管で塩分の再吸収を行う分子(ENac)※4、細胞に繊維質を作らせる分子(TGF-β受容体)※5を正常に消去することが出来なくなり、のう胞形成のような細胞骨格の異常、塩分過剰な蓄積による高血圧、肝臓の繊維化を引き起こすと考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、ARPKDの特徴的な病態である腎臓嚢胞形成、本体性(原因不明の)高血圧、肝臓の繊維化が統一的に説明出来ることになり、今まで治療法の無かった新生児の腎臓難病に対する治療法の確立が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年8月10日(木)18時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“NEDD4-family E3 ligase dysfunction due to PKHD1/Pkhd1 defects suggests a mechanistic model for ARPKD pathobiology”
著者名:Jun-Ya Kaimori1,2*, Cheng-Chao Lin3, Patricia Outeda4, Miguel A Garcia-Gonzalez5, Luis F Menezes3,Erum A. Hartung6, Ao Li7, Guanqing Wu7, Hideaki Fujita8, Yasunori Sato9, Yasuni Nakanuma10, SatokoYamamoto1, Naotsugu Ichimaru2, Shiro Takahara2, Yoshitaka Isaka1, Terry Watnick4, Luiz F. Onuchic11,Lisa M. Guay-Woodford12, Gregory G Germino3,13*(*責任著者)
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 先端移植基盤医療学
3. 米国 NIH
4. 米国メリーランド大学 医学部腎臓内科
5. スペインサンチアゴ病院
6. 米国フィラデルフィア子供病院
7. 中国北京協和医科大学
8. 長崎国際大学 薬学部
9. 金沢大学 医学部病理学
10. 静岡がんセンター
11. ブラジルサンパウロ大学 腎臓内科
12. 米国国立小児病院
13. 米国ジョンズホプキンス大学 医学部腎臓内科

用語説明

※1 常染色体劣性遺伝性多発性嚢胞腎(ARPKD)
新生児の1/20,000に見られる遺伝性の病気。常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)でも見られる、腎臓での多数の嚢胞(のうほう)形成の他に、本体性高血圧、肝臓の繊維化を伴う。原因遺伝子はPKHD1で、その遺伝子からPD1タンパク質ができる。

※2 ユビキチンリガーゼ
消去されるべきタンパク質に目印(ユビキチン)を付けるタンパク質分子。

※3 RhoA(ローエー)
アクチンという細胞骨格を制御するタンパク質分子。

※4 Enac(epithelial sodium channel, 上皮ナトリウムチャネル)
腎臓集合管で、ナトリウムの再吸収を行うチャネル分子。

※5 TGF-β受容体
生理活性物質であるTGF-β(トランスフォーミング増殖因子・ベータ)が結合した後に活性化し、シグナルを細胞内に伝える。主に、組織繊維化に関わることが知られている。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 先端移植基盤医療学
http://www.att.med.osaka-u.ac.jp/

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