生命科学・医学系

2017年6月23日

研究成果のポイント

・世界的問題となっている薬剤耐性菌(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)※1,2,3の迅速簡便検出法を開発
・発展途上国など設備の整っていない臨床現場においても低コストかつ簡便に導入可能
・迅速簡便に薬剤耐性菌を検出することにより、耐性菌の伝播拡散防止への貢献に期待

概要

大阪大学医学部附属病院の明田幸宏講師、朝野和典教授らの研究グループは、大阪大学微生物病研究所と協同で、世界的問題となっている薬剤耐性菌問題において特に重要視されているカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)を迅速簡便に検出する方法を開発しました。この方法はSTH-PAS技術※4をベースとしてCREのカルバペネム耐性に関わる複数の遺伝子群を同時に特異的に検出するものです(図1)

CREは、細菌感染症治療において最後の切り札とされるカルバペネム系抗生物質に対しても耐性を示す腸内細菌科細菌で、その拡散伝播防止対策が臨床的にも公衆衛生学的にも最重要課題となっています。これまでのCRE検出では高価な機器や長時間の反応が必要なため、CREが問題となる臨床現場での利用が困難でしたが、本技術を用いることで、発展途上国などの十分な設備が整っていない環境においても、容易にCREに対する感染対策、伝播防止につなげることが可能となります。

本技術は、我が国に限らずグローバルな医療現場におけるCRE対策に貢献するものと考えられます。

本研究成果は、米国科学誌「Antimicrobial Agents and Chemotherapy」6月号(2017年5月24日発行)に掲載されました。

図1

研究の背景

抗菌薬に耐性を持つ薬剤耐性菌の社会的インパクトは甚大であり、対策がなされなかった場合、2050年には薬剤耐性菌を起因とする死亡者が世界で年間1000万人にも達すると報告されています。そこで、薬剤耐性菌の拡散伝播を阻止するための方策が世界各国で推進されており、日本では、関係閣僚会議により2016年4月に「薬剤耐性 (AMR)対策アクションプラン」※5が決定されました。対策が必要な薬剤耐性菌には様々なものが存在しますが、特に喫緊の対応が必要とされているものに、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)があります。CREは、細菌感染症治療において最後の切り札とされるカルバペネム系抗生物質に対して耐性を示す腸内細菌科細菌ですが、カルバペネムのみならず殆どの抗菌薬に対して耐性を示すため、CREに感染すると重篤化しやすく、血流感染の場合、その致死率は50%にも至ると報告されています。またカルバペネム耐性を担うカルバペネマーゼ遺伝子群※6は、細菌の染色体DNAではなくプラスミド※7上に存在するため、容易に薬剤耐性を持たない他の腸内細菌科細菌にカルバペネム耐性を付与することが可能であり、その拡散伝播防止対策が臨床的にも公衆衛生学的にも最重要課題となっています。

研究の成果

本研究で開発された手法は、便などの臨床検体を直接用いて、耐性菌のDNA増幅後15分以内といった非常に短時間でCREの保持する複数種のカルバペネマーゼ遺伝子を目視で検出することが可能となります(図1)。また複数の検体サンプルを混合しても正確にカルバペネマーゼ遺伝子の存在を判定することが可能であることから、CREの拡散伝播が危惧されるような環境にいる複数の患者に対しても低コストでCRE保菌の有無を判定することができます。

本研究成果が社会に与える影響

日本以上に薬剤耐性菌が問題となっている発展途上国では、real time PCR装置をはじめとする高価な遺伝子検査装置など臨床検査に必要な機器、設備が不足していますが、そのような環境においてこそ、本手法は力を発揮すると考えられます。本手法は、日本国内に限らず海外諸国でも利用できるCRE検出手法であり、これを利用したCRE拡散伝播防止対策の推進がグローバルな薬剤耐性菌問題解決の一助になると考えられます。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「Antimicrobial Agents and Chemotherapy」6月号(2017年5月24日発行)に掲載されました。(Antimicrob Agents Chemother. 2017 May 24;61(6). pii: e00067-17. doi: 10.1128/AAC.00067-17.)

タイトル:“PCR-Dipstick Chromatography for Differential Detection of Carbapenemase Genes Directly in Stool Specimens.”
著者名:Shanmugakani RK, Akeda Y, Yamamoto N, Sakamoto N, Hagiya H, Yoshida H, Takeuchi D, Sugawara Y, Kodera T, Kawase M, Laolerd W, Chaihongsa N, Santanirand P, Ishii Y, Hamada S, Tomono K.

なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究国際展開戦略プログラム(JGRID)の一環として行われました。

用語説明

※1 薬剤耐性菌
抗菌薬に対して耐性を示す細菌の総称。様々なタイプの抗菌薬に対して薬剤耐性示す、いわゆる、多剤耐性菌も多く出現しており、これらを起因菌とする感染症は使用できる抗菌薬が限られ治療が難渋する傾向にあります。現在、世界中の医療現場で薬剤耐性菌が大きな問題となっており、WHO や世界各国政府が主導となって、その拡散伝播、新たな薬剤耐性菌の出現等を阻止する方策が進められています。

※2 腸内細菌科細菌
このグループに属する細菌には、大腸菌や肺炎桿菌、エンテロバクター属菌等が含まれており、ヒト糞便からも多く分離されます。細菌感染症起因菌としても上位に位置します。

※3 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌
カルバペネム系抗生物質に耐性を持つ腸内細菌科細菌。カルバペネム系抗生物質はその構造にβラクタム環を持つβラクタム系抗生物質の1種で、殺菌活性を示す対象細菌が広く、細菌感染症治療の“最後の切り札”として使用されています。

※4 STH-PAS(Single-stranded Tag Hybridization – Printed-Array Strip)法
ターゲットとなる遺伝子(ここではカルバペネマーゼ遺伝子)に標識となる一本鎖DNAを結合させて増幅したサンプルを、検出用のメンブレンストリップに展開して検出する方法。メンブレンストリップにはターゲット遺伝子に付加された標識一本鎖DNAが特異的に結合する相補タグがライン状に固定されており、ターゲット遺伝子が増幅されていれば標識一本鎖DNAと相補タグ結合するのでストリップ上で目視により検出できる。

※5 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/pdf/yakuzai_honbun.pdf

※6 カルバペネマーゼ遺伝子
カルバペネムを分解する酵素。CREはこの遺伝子を産生することでカルバペネムを分解し、耐性を示す。今回の検出方法では、主要なカルバペネマーゼ遺伝子4種(NDM,KPC,IMP,OXA-48)を検出する。

※7 プラスミド
細菌などの細胞質内に存在し、細胞分裂や染色体のDNAとは独立して複製できる。細菌の個体間でプラスミドの授受も可能である。

参考URL

大阪大学医学部附属病院感染制御部
http://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/hp-infect/

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top