生命科学・医学系

2017年6月15日

本研究のポイント

・日本語にない音の違いを学習できるニューロフィードバック技術の開発に成功
・RとLの音の違いを学習しようと意識しなくても、英単語のリスニング能力向上が可能
・日本人の苦手な発音の聞き分けに効果的な英語教育手法の開発にもつながる可能性

概要

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長:徳田英幸)脳情報通信融合研究センター常明らの研究グループと国立大学法人大阪大学(大阪大学、総長:西尾章治郎)大学院情報科学研究科では、国立大学法人北海道大学(北海道大学、総長:名和豊春)と共同で、無意識に英単語のリスニング能力を向上できるニューロフィードバック技術※1の開発に成功しました。

これまでの英単語のリスニングの学習は、聞いた音(例えば、rightもしくはlight)に対してどちらの音であるかというテストを行い、それが正解か不正解かを学習者に伝えて学習を促す場合が多く、このような学習では成果が出るのに時間がかかることが一般的でした。それに対して、本手法では、rightとlightの音を聞いている時の脳波から音の聞き分けに関連する脳活動パターンを取り出し、その大きさを円としてフィードバックし、学習者にはその円を大きくするようにイメージしてもらいました。その結果、本人は、音の聞き分けの学習をしているつもりがなくても、無意識にrightとlightの音の聞き分けが5日間程度で出来るようになりました。これが実用化されれば、効率よくリスニング能力を向上できる教育手法となることが期待されます。

本研究の一部は、大阪大学COI(センター・オブ・イノベーションプログラム)の支援を受けて行いました。なお、本研究成果はPLOS ONEのOPEN ACCESSに6月15日(木)に掲載されました。

背景

社会のグローバル化に伴い、グローバルなコミュニケーション力を向上させるためには、英語能力の向上が重要な課題となっています。英語のリスニングにおいて、日本人の困難の一つが日本語にない音の聞き分け(例えば、rightとlightの違い)です。これまでの英単語のリスニングの学習は、聞いた音(例えば、rightもしくはlight)に対してどちらの音であるかテストを行い、それが正解か不正解かを学習者に伝えて学習を促す場合が多いのですが、このような学習では、時間がかかるという問題がありました。

今回の成果

本研究では、音の違いに対して反応する脳活動(Mismatch Negativity:MMN※2)を強化するニューロフィードバック技術を開発し、これにより、5日間程度の学習で英単語のリスニング能力が向上することを明らかにしました(図1)

このニューロフィードバックによる英単語の学習法の特徴は、聞いている英単語に注意を向ける必要はなく、あくまでも音の違いに対して反応するMMNを大きくするように努力すればよいということです。本研究においては、学習者の前に設置したディスプレイにMMNの大きさに対応した緑の円が提示されます。学習者は、この緑の円を大きくするようにイメージすることで自分のMMNを大きくすることができ、その結果、リスニング能力を向上させることができます。この時、学習者は聞こえてくる音に注意を向ける必要はなく、あくまでも緑の円を大きくするイメージをすればよいだけということがポイントです。

現在は、基礎的な検討を行うための研究であったため、MMNの大きさを緑の円の大きさで学習者に提示していますが、例えば、MMNの大きさをレーシングカーのスピードに対応させたレーシングゲームを開発することで、学習者は単にレーシングカーのスピードを上げて前の車を抜くことに集中しているだけで、気が付いたら英単語のリスニング能力が向上しているというニューロフィードバックゲームなどを作ることが可能となります。

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図1 無意識的に英語のリスニング能力を向上出来るニューロフィードバック技術

今後の展望

現在はRとLに関しての結果のみですが、日本人の苦手な英語の発音は他にもあるため、日本人の苦手な様々な発音を効率よく学習できるシステムを産学官の連携により構築し、新しい英語リスニング学習法として社会実装を目指していきます。

掲載論文

掲載誌:PLOS ONE
DOI:10.1371/journal.pone.0178694
URL:http://journals.plos.org/plosone/
掲載論文名:Unconscious Improvement in Foreign Language Learning Using Mismatch Negativity Neurofeedback: a preliminary study
著者名:Ming Chang, Hiroyuki Iizuka, Hideki Kashioka, Yasushi Naruse, Masahiro Furukawa, Hideyuki Ando, Taro Maeda

研究グループ

NICT:常明、成瀬康、柏岡秀紀
大阪大学:古川正紘、安藤英由樹、前田太郎
北海道大学:飯塚博幸

今回の実験概要

本研究におけるニューロフィードバックトレーニングの概略を図2に示します。ニューロフィードバックトレーニングにおいては、実験参加者には脳波計を装着させ、イヤホンを通して”light”と”right”という英単語を聞かせました。“light”と“right”は、それぞれ4:1の比率でランダムに出現するようにしました。実験参加者の前に設置したディスプレイには、その実験参加者のMMNの大きさに対応した緑の円を提示し、実験参加者には「音を流しますが、音を無視して、何を考えてもよいので、緑の円を大きくするようにしてください」という指示を与えました。

このようにニューロフィードバックを行った実験参加者をニューロフィードバックグループと呼びます。

図2 本研究で行ったニューロフィードバックトレーニング
実験参加者は、聞こえてくる音は単に聞いているだけで、目の前に提示された緑の円を大きくするようにイメージする。

これに対して、コントロールグループの実験参加者には、ニューロフィードバックグループの実験参加者と同様に、脳波計を装着させ、イヤホンを通して英単語を聞かせましたが、目の前に設置されたディスプレイに提示される緑の円の大きさは自分のMMNの大きさではなく、代わりにニューロフィードバックグループの実験参加者のMMNのデータを用いて緑の円の大きさを変化させました。つまり、コントロールグループの実験参加者に与えられるフィードバックは自分のMMNの情報ではないため、自分のMMNを大きくするように努力しても大きくすることができません。なお、実験参加者は、自分がニューロフィードバックグループに所属しているか又はコントロールグループに所属しているかについては知らされていませんでした。

ニューロフィードバックグループ及びコントロールグループの実験参加者は、共に一日当たり1時間程度のトレーニングを行い、それぞれ合計5日間のトレーニングを行いました。その結果、ニューロフィードバックグループの認知テスト(聞いた音がrightかlightかを答える)の結果は日々向上したのに対して、コントロールグループの結果は向上しませんでした(図3参照)

図3 ニューロフィードバックトレーニングによる学習の効果
学習前はニューロフィードバックグループ、コントロールグループ共に正答率が60%前後で、コントロールグループの正答率は向上しなかったのに対して、5日間の学習後には、ニューロフィードバックグループの正答率は約90%に向上した。

コントロールグループの実験参加者もニューロフィードバックグループの実験参加者と同様に音を聞いているにもかかわらず、ニューロフィードバックグループの実験参加者のテスト結果のみが向上したということは、単に音を聞いているだけではなく、MMNを大きくするというニューロフィードバックが英単語の聞き分け能力を向上させるために重要であることを意味しています。

用語解説

※1 ニューロフィードバック技術
脳から脳活動パターンを取り出し、その情報を本人に伝えることで、その脳活動パターンを所望のパターンに近づけるための学習を可能とする技術。本研究では、音の違いに対して反応する脳活動(MMN)を脳波から取り出し、その大きさを実験参加者にフィードバックすることで、MMNを大きくするというニューロフィードバック技術を開発した。

※2 Mismatch Negativity:MMN
2種類の音の頻度を変えてランダムに聞かせた場合(例えば、音Aが出現する確率が20%で音Bが出現する確率が80%)、頻度が低い音を聞いたときに見られる脳波パターン。このMMNは2種類の音の違いが大きいときは大きく出て、音の違いが小さいときは小さく出るという特徴がある。また、音に対して注意を向けていなくてもMMNが見られるということも特徴である。

参考URL

大阪大学大学院情報科学研究科 前田研究室
http://www-hiel.ist.osaka-u.ac.jp/cms/index.php

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