生命科学・医学系

2017年6月3日

研究成果のポイント

・マラリアから回復後も、長期的な骨の異常や低成長に悩まされる患者がいる
・マウスモデルを用いて、マラリア感染で骨恒常性が阻害され黒く変色し密度が減少する仕組みを解明
・ビタミンD3類縁体であるアルファカルシドール※1の補給によりマラリア感染による骨量減少を改善

概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)のCevayir COBAN(ジョヴァイア・チョバン)教授らの研究グループは、骨にマラリア原虫の生成物が蓄積することで骨に慢性的な炎症が起き、それが骨量減少の原因となっていることを発見しました(図1)。また、ビタミンD3類縁体であるアルファカルシドールの補給によってマラリア感染による骨量減少を防ぐことができ、マラリア感染による骨量減少を回復させる方法も示すことができました。

マラリア治療後にこの骨療法を用いることで、マラリア感染者における骨状態が改善されることが期待されます。本研究成果は、米国の科学雑誌『Science Immunology』(6月2日(金)付け:日本時間6月3日(土)午前1時)にオンライン掲載されました。

図1 正常な骨(左)とマラリア原虫の生成物が骨髄ニッチ※2に蓄積して黒く変色し密度が減少した骨(右)

研究の背景

マラリア原虫が宿主に寄生することで引き起こされるマラリアは、生命を脅かす感染症であり、毎年2億人を超える人々が感染しています。ときには、脳性マラリア、呼吸困難、重度の貧血といった合併症が発症、急速に進行し、死に至ることがあり、少なくとも年間43万人が死亡しています(WHO2016年)。それでも、大部分の患者は病気から回復しますが、生存者はこの感染が原因で、いままで良くわからなかった「隠れた」長期的症状に悩まされることが示唆されてきました。

本研究の成果

今回チョバン教授が率いる研究グループは、マウスマラリアモデルを用いて、マラリア感染によって、骨形成を行う骨芽細胞と骨吸収を行う破骨細胞※3がバランスを取ることで維持されている骨恒常性が阻害されることを示しました。1回のマラリア感染でも、病気が完全に治癒したか、慢性的低レベル感染にあるかに関わらず、慢性的な骨量減少が起こります。

マラリア原虫の生成物が骨吸収を行う破骨細胞によって「食べられ」、その結果として、骨恒常性が阻害されます。この生成物は、マラリア原虫の主な生成物であるヘモゾイン※4やタンパク質、その他の因子が考えられます。これらの生成物が、破骨細胞および骨芽細胞の前駆細胞に対してMyD88※5に依存する炎症応答を誘導し、破骨細胞分化を誘導するRANKL※6の発現を高め、骨吸収を促進する破骨細胞形成への過剰な刺激を与えているのです(図2)。一方、ヘモゾインのような生成物ができないよう突然変異したマラリア寄生虫をマウスに感染させた場合には、骨量減少は観察されませんでした。この結果は、骨量減少の原因となる生成物が存在しないためであると考えられ、チョバン教授らの研究結果を裏付けています。また、今回ビタミンD3類縁体であるアルファカルシドールの補給によってマラリア感染による骨量減少の阻止と骨量回復の方法も示すことができました。

図2 マラリアは、治癒後でさえ、Plasmodium 残存物の持続的な蓄積による慢性的な骨量減少を引き起こす。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

慢性的な炎症状態が骨障害を促進することはこれまでも知られていました。しかし、今回の研究によって、初めてマラリアが骨組織に残した「遺留物」が同様のことを引き起こしていることがわかりました。今までマラリアの治療によって完全に回復したと考えられていた状態においても、この寄生虫生成物の長期的かつ持続的な蓄積が起こり、骨は慢性的な炎症状態になり長期的な骨量減少が起きています。これは特に若年者で顕著であり、骨の成長が阻害されることによる成育不良や骨が脆弱になることによる骨粗しょう症の原因となっていることが考えられます。

この研究で重要なのは、マラリア感染による骨量減少を回復させる方法も示すことができた点です。ビタミンD3類縁体であるアルファカルシドールの補給によってマラリア感染による骨量減少を防ぐことができます。したがって、マラリア治療とこの骨療法を併用することで、マラリア感染者における骨状態が改善されることが期待されます。

用語解説

※1 アルファカルシドール
ビタミンD欠乏症、骨粗鬆症などに用いられている薬剤の一種。経口で投与される。

※2 骨髄ニッチ
脊椎動物の骨中にある骨髄中の微小な環境。「ニッチ」はもともと隙間の意味。

※3 破骨細胞
骨を破壊・侵食することに特化した免疫細胞。本来は骨の再生を促し、その新陳代謝に重要だが、強く働きすぎると骨粗鬆症の原因となる。

※4 ヘモゾイン
マラリア原虫がヒト赤血球に寄生しヘモグロビンを消費した結果生じる代謝産物。免疫系を活性化する働きがある。

※5 MyD88
免疫細胞の内部に存在するタンパク質の一種。細胞が病原体に接触すると自然免疫の炎症反応を活性化する。

※6 RANKL
骨を破壊する細胞(破骨細胞)の形成に関わるタンパク質。RANKLとその受容体RANKが結合することで、破骨細胞が作られる。

特記事項

本研究成果は、米国の科学雑誌『Science Immunology』(6月2日(金)付け:日本時間6月3日(土)午前1時)にオンライン掲載されました。

【論文タイトル】Plasmodium products persist in the bone marrow and promote chronic bone loss.
(マラリア副産物が骨髄に蓄積し、慢性的な骨量低下を引き起こす)
【著者】Michelle S. J. Lee, Kenta Maruyama, Yukiko Fujita, Aki Konishi, Patrick M. Lelliott, Sawako Itagaka, Toshihiro Horii, Jing-wen Lin, Shahid M. Khan, Etsushi Kuroda, Shizuo Akira, Ken J. Ishii, Cevayir Coban.

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)は、日本が科学技術の力で世界をリードするため「目に見える世界的研究拠点」の形成を目指す文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の一員です。

参考URL

Malaria Immunology
http://malimm.ifrec.osaka-u.ac.jp/

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