生命科学・医学系

2017年6月2日

研究成果のポイント

・遺伝子解析により、腎臓の難病:1型髄質嚢胞腎(MCKD1)の新しい遺伝子異常部位を発見
・異常部位が解析困難な遺伝子配列の中に存在することから、従来は遺伝子解析による診断が非常に困難であったが、今回の発見により、正確な診断を実現
・今回発見された遺伝子の異常配列により、異常タンパク質の解析が可能になることで、難病の発症メカニズムの解明が期待される

概要

大阪大学大学院医学系研究科の山本聡子大学院生(腎臓内科学)、貝森淳哉寄附講座准教授(先端移植基盤医療学)、猪阪善隆教授(腎臓内科学)らの研究グループは、腎臓の難病である、1型髄質嚢胞(のうほう)腎(MCKD1)※1について、新しい遺伝子異常部位を明らかにしました。また、この異常遺伝子から生じる異常タンパク質(図1)の性質を初めて明らかにしました。

1型髄質嚢胞腎は、ほとんど症状がないにも関わらず突然腎機能が低下し、透析治療が必要となる難病で、これまでに原因遺伝子は見つかっていましたが、異常部位が解析困難な遺伝子配列の中に存在し、治療はおろか、診断もほとんど不可能と考えられていました。

今回、貝森寄附講座准教授らの研究グループは、患者さんから提供された遺伝子を次世代シークエンサー※2で詳細に解析することにより、従来とは異なった部位に異常が存在することを明らかにしました。これにより、この病気の正確な診断が可能になりました。また、発見された遺伝子配列を元に、異常タンパク質の詳しい性質が明らかになり、今後、難病MCKD1が引き起こされる仕組みの解明が期待されます。

本研究成果は、欧州腎臓学会誌「Nephrology Dialysis Transplantation」に、6月2日(金)に公開されました。

図1 新しく発見された変異MUC1タンパク質

研究の背景

通常、腎臓の機能低下は、蛋白尿や血尿がサインとなって表れます。1型髄質嚢胞腎(MCKD1)は、検尿での異常が見られないにも関わらず突然腎機能が低下する、家族性の間質尿細管腎炎※3の一つです。主に成人で発症し、これまで正確に診断する方法がありませんでした。2013年に原因遺伝子がMUC1※4であることが報告されましたが、MUC1遺伝子の異常は、GC(グアニン・シトシン)を多く含んだ、個人によって数の異なる繰り返し配列(VNTR※5)に、シトシンが1塩基のみ挿入されるというもので、従来の手法では遺伝子解析が困難でした。また、このような複雑な遺伝子変異であるため、原因遺伝子が発見されてからも異常タンパク質の性質などは明らかではなく、病気の仕組みは謎のままでした。

本研究の成果

貝森寄附講座准教授らの研究グループは、腎移植の経験の多いご家族から提供された遺伝子について、次世代シークエンサーを用いた全エクソーム解析※6を行いました。その結果、MUC1遺伝子において、VNTRより上流にあるAG(アデニン・グアニン)が欠失していることを突き止めました。これは、既報のVNTR中の遺伝子欠失とは異なる、新たな遺伝子異常部位の報告です。また、患者さんのMUC1の遺伝子異常配列を培養遠位尿細管細胞に発現させると、正常なMUC1タンパク質は細胞膜に存在するのに対して、異常MUC1タンパク質は細胞質に存在することが判明しました(図2)。また、異常MUC1タンパク質の生化学的な性質を詳細に解析したところ、異常タンパク質はグリコシル化(糖鎖付加)※7が極端に減少していること、自己凝集を生じることが判明しました。さらに、エクソソーム※8抽出およびウエスタン・ブロット解析※9によって、患者さんの尿から異常MUC1タンパク質が検出できることを確認しました。

図2 正常MUC1タンパク質は細胞膜上に認められ(左)、変異MUC1は細胞質に認められた(右)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、遺伝子解析で診断できる1型髄質嚢胞腎が存在することが判明しました。今後、このMUC1遺伝子異常配列や異常タンパク質について研究を進めることで、この病気の仕組みが明らかになることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年6月2日(金)に欧州腎臓学会誌「Nephrology Dialysis Transplantation」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】“Analysis of an ADTKD family with a novel frameshift mutation in MUC1 reveals characteristic features of mutant MUC1 protein”
【著者名】 Satoko Yamamoto1, Jun-Ya Kaimori1,2,*, Takuji Yoshimura3, Tomoko Namba1, Atsuko Imai4,5, Kaori Kobayashi4,6, Ryoichi Imamura7, Naotsugu Ichimaru2, Kazuto Kato8, Akihiro Nakaya4, Shiro Takahara2, Yoshitaka Isaka1. (*責任著者)
1.大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学
2.大阪大学 大学院医学系研究科 先端移植基盤医療学
3.大阪大学 医学部附属動物実験施設 生殖工学ユニット
4.大阪大学 大学院医学系研究科 ゲノム情報学
5.大阪大学 大学院医学系研究科 循環器内科学
6.NEC医療ソリューション事業部
7.大阪大学 大学院医学系研究科 泌尿器科学
8.大阪大学 大学院医学系研究科 医の倫理と公共政策学

用語説明

※1 1型髄質嚢胞(のうほう)腎(MCKD1:Medullary cystic kidney disease type1)
家族性間質尿細管腎炎※3の種類の一つで、MUC1※4の遺伝子異常により発症する。腎臓に水膨れ状の嚢胞を生じ、線維化が起こる。主に、20~30代で発症する。

※2 次世代シークエンサー
遺伝子の塩基配列を高速に読み出す装置。数千万から数億のDNA断片に対して大量並列に処理することにより、解析のスピードは以前より大きく向上し、大きなゲノム領域を対象とする研究が可能になった。

※3 家族性間質尿細管腎炎
常染色体優性遺伝形式をとる、間質尿細管腎炎。家族性があり遺伝的要因で発症すると推測されるが、原因の多くはまだ解明されていない。尿タンパク質、血尿などの検尿の異常は無く、腎機能の低下や末期腎不全に陥る。現在、UMOD、REN、MUC1、HNF1-beta、SEC61A の5つの遺伝子異常が知られている。

※4 MUC1(マックワン)
ムチン1タンパク質をコードする遺伝子。MUC1タンパク質は上皮細胞のメインテナンスを行う機能を持つ。

※5 VNTR: Variable Number Tandem Repeat(縦列反復配列多型)
少数のDNA配列(数塩基~数十塩基)がゲノム中で何回も繰り返して存在するもの。繰り返す回数は個体によって異なる(多型が見られる)。

※6 全エクソーム解析
全ゲノムのうち、タンパク質に翻訳される領域(エキソン配列)のみを濃縮して、網羅的に解析する方法。遺伝病等の疾患遺伝子を解析・同定できる方法として注目されている。

※7 グリコシル化(糖鎖付加)
タンパク質が合成された後に糖が結合すること。タンパク質のフォールディング、局在、安定性、相互作用などを調節し、タンパク質の機能に大きな影響を与える。

※8 エクソソーム(exosome:細胞外小胞)
細胞外に分泌される小胞(直径 40nm~150nm 程度)。

※9 ウエスタン・ブロット解析
抗体を用いてタンパク質の存在を検出する方法。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科ホームページ
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/index.html

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top