音でガラスが結晶化する現象を発見
材料の超高強度化への新たなアプローチに
本研究成果のポイント
・特定の周波数の音(振動)を与えることで、ガラスが急速に結晶化する現象を発見
・これまでに提案されているガラスの結晶化モデルでは説明できない現象
・熱処理に代わる新しい結晶化技術の実現可能性が示され、超高強度材料開発への新たな可能性が開かれた
概要
大阪大学大学院基礎工学研究科の中村暢伴助教らの研究グループは、コロイドガラス と呼ばれる材料に対して周波数を変えながら振動を与えると、特定の周波数において結晶化が急速に進展する現象を発見しました (図1) 。原子や分子がランダムに配置したガラスを結晶化させる場合は一般的に熱処理が使われますが、本研究の成果は、特定の周波数の振動(音)を与えることで結晶化を引き起こすという、新たな結晶化手法の実現可能性を示しています。金属材料は一般に結晶粒と呼ばれる原子が規則的に配列した微小な粒子の集合体になっており、この粒子が小さいほど強度が増すことが知られています。
本研究の成果は、超高強度材料を作成する新たな手法につながると期待されます。
図1 コロイドガラスの結晶化の模式図(上)と実験結果(下)。30、70Hzでは振動を与えても変化がみられないが、75Hzの振動を与えたときのみ短時間に結晶化(規則化)が進行する。
研究の背景
原子や分子が不規則に配置したガラスは、加熱によって原子や分子が規則的に配列した結晶へと構造変化します。この現象を結晶化と呼びます。結晶化を利用するとナノ結晶材料のように高い強度を有する材料を作成することができます。固体を加熱すると固体中にはさまざまな周波数の原子振動・分子振動が励起され、これらの振動によって結晶化が引き起こされます。一般に固体を振動させると、同じように振動させても特定の周波数で振動振幅が大きくなります。この周波数は固体の形状・大きさに依存します。ガラスは一見不規則な原子・分子配置をしていますが、もしかしたらガラス内には原子・分子の充填率にばらつきがあり、疎・密な領域の大きさによってそれぞれの領域が特定の周波数で強く振動しているのではないか。そして、その周波数で振動させれば加熱することなく、結晶化を引き起こすことができるのではないかと考えました。そこで、本研究ではコロイドガラスを使って検証実験を行いました。
コロイドガラスとは、水溶液中において1ミクロン(10 -6 メートル)程度大きさの微粒子が集まってできた集合体で、微粒子はランダムに配置しています。その粒子配置はガラス内部の原子配置と似ています。コロイドガラスの特徴は、ガラスと同じランダム構造を有していながら、全ての現象がゆっくりと生じる点にあります。つまり、コロイドガラスでは、原子・分子振動に相当する微粒子振動の周波数が低いため、既存の装置を使ってアモルファスの結晶化を検証することが可能になります。この特徴を利用して実験を行ったところ、今回のサンプルにおいては70Hz付近の振動が結晶化を急速に進展させることが発見されました。これまでにも振動を与えてコロイドガラスを結晶化させる研究は行われていますが、今回の研究ではより細かく周波数を変えながら実験を行ったことで、上述の新しい現象が観測されました。この現象は、過去に提案されている結晶化理論では説明することはできず、メカニズムの解明は今後の研究課題です。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
結晶粒の大きさは強度などの機械的性質に大きく影響を与えるので、その制御は実用的に重要です。本研究の成果は、音を使って結晶化を引き起こす手法の実現可能性を示すものであり、熱処理にかわる新しい超高強度材料作成手法につながることが期待されます。また、熱処理で結晶化を引き起こす場合は、対象となる材料の広い領域が加熱されてしまうため、特定の領域だけを結晶化することが容易ではありません。ところが、本研究の知見をもとに振動を利用した結晶化技術が確立されれば、材料の一部分だけに超音波を照射し、微小な領域を選択的に結晶化させることが可能になります。また、超音波を材料内で収束させることによって、材料内部の焦点付近だけを結晶化させることも可能になります。最近では異なる材料を規則的に配列させ、熱や音の伝ぱを制御して効率的にエネルギーを利用しようとする研究が行われています。この材料はフォノニック結晶と呼ばれますが、局所的に結晶化を引き起こすことができるようになれば、ガラスと結晶で構成される新しいフォノニック結晶の開発にもつながると期待されます。
特記事項
本研究成果は、2017年5月2日(火)18時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Accelerated crystallization of colloidal glass by mechanical oscillation”
著者名:N. Nakamura, K. Inayama, T. Okuno, H. Ogi, and M. Hirao
なお、本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金15H05503の助成を受けて行われました。
参考URL
大学院基礎工学研究科 機能創成専攻 固体力学研究室
http://www-ndc.me.es.osaka-u.ac.jp/pmwiki/Main/HomePage
用語説明
- コロイドガラス
1ミクロン程度の大きさの微粒子を溶液中に高い充填率でランダムに分散させたもの。今回の研究では直径1.5ミクロンの微小ガラス球(~十数億個)からなるコロイドガラスを使用しました。