2017年4月10日

研究成果のポイント

・抗体医薬品である抗TNF抗体とその抗原であるTNF(Tumor Necrosis Factor:腫瘍壊死因子)※1のヒト血清中での相互作用様式※2を解析した。
・血清中には様々なタンパク質や代謝物が混在しているため、従来、抗原-抗体相互作用様式の解析は困難だったが、近年開発された蛍光超遠心分析法※3により血清中での抗原-抗体複合体の検出に成功した。
・抗TNF抗体の種類や抗原と抗体の濃度比によって異なるサイズの抗原-抗体複合体が形成されていた。
・抗体の受容体であるFc受容体を発現させた組換え細胞を用いたアッセイ※4により、抗原-抗体複合体のサイズが大きくなると細胞内での信号伝達が強くなることが明らかとなった。
・本手法が抗体医薬品のin vivoでの有効性や副作用発現の予測に利用され、より安全かつ薬効の高い抗体医薬品が創出されることが期待される。

概要

大阪大学大学院工学研究科のクラユヒナエレナ特任助教、野田勝紀特任研究員、内山進准教授らの研究グループは、蛍光超遠心分析法により血清中におけるTNFと抗TNF抗体の相互作用様式を世界で初めて解明しました。血清中には様々なタンパク質や代謝物が混在しているため、in vivo環境に近い状態での抗原-抗体の相互作用の定量的な解析は不可能でした。しかし、近年開発された蛍光超遠心法により、生体内に近い状態での抗原-抗体複合体の検出が可能となりました。今回の研究により、抗TNF抗体は、抗体の種類、や抗原と抗体の濃度比により、異なったサイズの抗原-抗体複合体を形成することが明らかとなりました(図1)。さらに、抗体に結合するFc受容体を細胞に発現する組換え細胞を用いたアッセイにより、抗原-抗体複合体の大きさが大きくなると細胞内での信号伝達が強くなることが分かりました。今後、本手法が抗体医薬品のin vivoでの有効性や副作用の予測に利用されることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「mAbs」に、2017年4月8日(土)に掲載されました。

図1 蛍光超遠心分析法により、抗TNF抗体は、血清中で異なったサイズの抗原-抗体複合体を形成することが明らかとなった。

研究の背景

これまで、バイオ医薬品※5の一種である抗体医薬品の有効性や副作用発現を分子レベルで理解するため、抗原と抗体間の結合メカニズムに注目した研究が盛んに行われてきました。抗体医薬品が実際に投与されるのは血液中ですので、血液中での抗体医薬の振る舞いを知ることが重要です。ところが、血液は多くのタンパク質が存在する複雑な環境であるため、血液中での抗体や抗原の振る舞いを正確に調べることは難しく、実際のin vivo環境での抗原-抗体結合様式には多くの不明点がありました。

今回、内山准教授らの研究グループは、3種類の抗TNF抗体と抗原であるTNFを用いて、リン酸緩衝液とヒト血清中におけるTNF-抗TNF抗体の相互作用様式を、抗原と抗体の濃度をin vivoと同様の濃度に設定した上で、蛍光超遠心分析法により解析しました(図2(A))。その結果、血清中での複合体の結合様式とサイズ分布は、リン酸緩衝液と異なっており、抗TNF抗体の種類と抗体と抗原の濃度比によってサイズ分布が異なることが明らかとなりました(図2(B))。一方、抗体の受容体であるFcγRを発現させた Jurkat 細胞を用いたレポーターアッセイにより、超遠心分析で観測された複合体サイズとFcγRを介したシグナル伝達の強さには、高い相関があることが確認されました。これらの結果により、抗原-抗体複合体のサイズと生体内での免疫反応との関連が示唆されました。

図2 蛍光超遠心分析法により、血清中における測定データ(A)とその解析により得た沈降係数分布(B)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

体内と類似の濃度と環境での抗原抗体複合体のサイズ分布の評価は、抗体医薬品のin vivoでの有効性や副作用発現をin vitroの結果から予測するために有効であり、今後、本手法を用いることで、より安全で薬効が高い抗体医薬品が創出されることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年4月8日(土)に米国科学誌「mAbs」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Analytical ultracentrifugation with fluorescence detection system reveals differences in complex formation between recombinant human TNF and different biological TNF antagonists in various environments”
著者名:Elena Krayukhina, Masanori Noda, Kentaro Ishii, Takahiro Maruno, Hirotsugu Wakabayashi, Minoru Tada, Takuo Suzuki, Akiko Ishii-Watabe, Masahiko Kato, and Susumu Uchiyama

なお、本研究は、国立医薬品食品衛生研究所およびシスメックス社との共同研究のもと、以下の助成を受けて行われました。

・日本学術振興会科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究 15K14457、新学術領域研究 16H00770、26102530)
・岡崎統合バイオサイエンスセンター共同研究プロジェクト(Bio-NEXT)
・日本医療研究開発機構(医薬品等規制調和・評価研究事業)

用語説明

※1 TNF
Tumor Necrosis Factor腫瘍壊死因子の略。免疫細胞から分泌されるタンパク質であるサイトカインの1種である。α、β、LT-βの3種類がある。TNFは、固形癌に対して壊死を生じさせるサイトカインとして発見されたが、後に炎症に関わる主要なサイトカインであることが判明し、関節リウマチ、乾癬、糖尿病、高脂血症、敗血症、骨粗鬆症などの疾病に関与していることが明らかになったため、多くの医薬品のターゲット分子として注目されている。

※2 相互作用様式
タンパク質分子同士が何対何で結合するか、さらに結合の強さの程度のこと。今回の研究では、抗TNF抗体と抗原であるTNFが、血清中でどの程度の強さで、どのように結合しているのかを明らかにした。

※3 蛍光超遠心分析法
超遠心分析法は1920年代にSvedbergにより開発された手法であり、遠心力場における粒子の沈降挙動から分子量や分子形状を解析する手法である。

※4 アッセイ
分析、評価を行うこと。今回の研究では、Jurkat細胞と呼ばれる細胞の表面上にFcγRを発現させ、その細胞表面上のFcγRとタンパク質が結合するとルシフェラーゼ(ホタル由来の蛍光タンパク質)が発現するシステムを使用して、抗TNF抗体と抗原であるTNFからなる複合体とFcγRとの結合を分析、評価した。

※5 バイオ医薬品
組み換えDNA技術、細胞融合法、細胞大量培養法などのバイオテクノロジーで製造された医薬品であり、タンパク質性医薬品(ホルモン、酵素、抗体など)、遺伝子治療に用いる遺伝子組換えウイルス、培養皮膚などの細胞性治療薬、核酸医薬品などのことである。

参考URL

工学研究科 生命先端工学専攻生物工学コース 細胞動態学領域
http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/cl/top.php

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top