2017年1月31日

本研究成果のポイント

・ロタウイルスの人工合成に世界で初めて成功
・これまでロタウイルスの人工合成は不可能であったが、ウイルス合成を促進する因子として、細胞融合性タンパク質「FAST」※1 および「RNA キャッピング酵素」※2 を利用することで成功
・ロタウイルスの人工合成技術を用いることでウイルス遺伝子への任意の変異導入が可能となり、病原性や抗原性を制御した新規ワクチン開発が可能に

概要

 

大阪大学微生物病研究所の金井祐太特任講師(常勤)、小林剛准教授らの研究グループは、藤田保健衛生大学との共同研究により、ロタウイルスの人工合成に世界で初めて成功しました(図1)。この技術により、ロタウイルスの遺伝子を任意に改変することが可能となり、ウイルスの増殖機構の解明や新規ロタウイルスワクチンの開発研究が飛躍的に進むと期待されます。

 

本研究成果は、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に、1月30日(月)の週に公開されました。

図1 遺伝子組換えロタウイルスの人工合成

研究の背景

RNAをゲノムに持ったウイルス(RNAウイルス)のリバースジェネティクス法とは、大腸菌の持つプラスミド※3 にクローン化したウイルスゲノム由来のcDNA※4 などを培養細胞に導入することで、感染性の組換えウイルスを人工的に合成する技術です。この技術により、ウイルス遺伝子を任意に改変することが可能となり、ウイルス学研究の発 展に大きく寄与してきました。ロタウイルスは乳幼児に下痢や嘔吐(おうと)を引き起こすウイルスで、医療の発展が遅れている開発途上国では、ロタウイルス感染によって死亡する乳幼児が多く存在しています。ロタウイルスについては、これまで実用性の高いリバースジェネティクス法が確立されていなかったため、病原性の解析や新規ワクチン開発の大きな障壁となっていました。

研究の成果

金井祐太特任講師(常勤)、小林剛准教授らの研究グループは、ロタウイルスの11分節のRNAゲノムを発現するプラスミドに加えて、組換えウイルスの人工合成を促進する因子として、細胞融合性タンパク質FASTとRNAキャッピング酵素を利用し、人工的に組換えロタウイルスを作製することに成功しました。さらに、この技術を応用 し、ロタウイルスの一部の遺伝子(NSP1※5)に変異を加えることで増殖能が低下したロタウイルスや、発光酵素であるルシフェラーゼを発現するロタウイルスの作製に成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、ロタウイルスの増殖機構の解明とともに、新規ロタウイルスワクチンの開発研究が飛躍的に進展することが期待されます。現行のロタウイルスワクチンとしては弱毒化した生ワクチン※6 が世界的に利用されており、ロタウイルスによる乳幼児の死亡率低下に貢献しています。一方で、感染力が強く、容易に拡大するロタウイルスには、より安価で予防効果を向上させた新規ワクチンの開発も望まれています。これまでにない、ロタウイルスのリバースジェネティクス法の開発・技術により、任意の改変を加えることで人工的に病原性を制御したロタウイルスや、異なる国・地域で流行しているロタウイルス株に対して、より抗原性が適応したワクチン候補株を迅速に開発することが可能と考えられます。

特記事項

本研究成果は、2017年1月30日(月)(米国東部時間)の週に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Entirely plasmid-based reverse genetics system for rotaviruses”
著者名: Yuta Kanai, Satoshi Komoto, Takahiro Kawagishi, Ryotaro Nouda, Naoko Nagasawa, Misa Onishi, Yoshiharu Matsuura, Koki Taniguchi and Takeshi Kobayashi

なお、本研究は、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(厚生労働省)の一環として行われ、藤田保健衛生大学(谷口孝喜教授、河本聡志講師)との共同研究により行われました。

用語説明

※1 FAST(Fusion-Associated Small Transmembrane)タンパク質
ロタウイルスと近縁のレオウイルスの一部のグループが持つ細胞融合性タンパク質。ロタウイルス感染時にFASTを同時に発現することで、ロタウイルスの増殖を顕著に促進する。

※2 RNAキャッピング酵素
ワクシニアウイルス由来RNAキャッピング酵素(D1R、D12Lサブユニット)により、細胞質内でロタウイルスRNAの5’末端がキャップ構造と呼ばれる修飾を受けることで、RNAからタンパク質の翻訳効率が上昇する。

※3 プラスミド
細菌が自身の染色体とは別個にもつ環状DNA。遺伝子のクローニング技術によりウイルスゲノム由来のcDNAをプラスミド中にクローニングし、任意の遺伝子変異を導入することが可能。

※4 cDNA
相補的DNA。ロタウイルスRNA ゲノム配列に相補的なDNA。

※5 NSP1
ロタウイルスのNSP1タンパクは宿主細胞の免疫を抑制する機能を持ち、ウイルスの増殖には必須ではない。そのためNSP1を欠損したロタウイルスは宿主の免疫により増殖能が低下する。

※6 生ワクチン
病原性の低下したウイルスを投与(感染)することで、感染者に症状を引き起こすことなく、本来の感染時と同様に病原体に対する免疫反応を誘導できる。そのような目的で作られた弱毒化ウイルス株を弱毒生ワクチンと呼ぶ。

研究者のコメント

11分節の2本鎖RNAゲノムを有するロタウイルスの人工合成法の開発は、世界中の研究者が取り組んでいたにもかかわらず、ゲノム構造の複雑さからこれまで困難を極めていました。私たちの研究グループは、ロタウイルスと近縁のコウモリ由来レオウイルスの研究を行っている過程で、このウイルスが持つFASTタンパク質がロタウイルスの増殖を爆発的に促進することやRNAキャッピング酵素がレオウイルス科の人工合成法の効率を飛躍的に向上させることを見いだし、これらの知見の応用が今回の発見につながりました。

参考URL

微生物病研究所 ウイルス免疫分野
http://www.biken.osaka-u.ac.jp/lab/viral-replication/index.html

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