難病“線維症”の発症原理の一端を解明

難病“線維症”の発症原理の一端を解明

発症に関与する細胞SatMを発見、これを標的に新規薬開発に期待

2016-12-22

本研究成果のポイント

線維症 の発症には免疫細胞が関与していると考えられていたが、どの細胞が発症に関わるかは不明だった。
・今回、線維化期に患部に集まる単球が線維症の発症に関与していることを解明。またこの細胞はこれまでに報告のない新しい細胞であったため、SatM ( S egregated nucleus At ypical M onocyte)と名付けた。
・現在、線維症に有効な薬はないため、本細胞を標的にした線維症を抑制する薬の開発が可能に。

リリース概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センターの佐藤荘助教、審良静男教授らの研究グループは、新しい白血球である疾患特異的マクロファージ SatMを発見し (図1) 、この細胞による線維症発症メカニズムの一端を解明しました。

SatMを標的とした研究を行う事により、これまで有効な治療法のなかった線維症に対する創薬を開始することが可能となります。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature(ネイチャー)』(日本時間12月22日午前1時)にオンライン掲載されました。

図1 新しく発見されたSatMの形態

研究の背景

例えば多くの人が悩まされている疾患である癌を例に挙げると、stage2の肺癌患者の50~60%は完治します。しかし、肺線維症は有効な薬がないために発症すると完治する確率はほぼ0%であり、非常に大きな問題となっています。

これは、線維症の発症メカニズムが未解明であることが大きな原因の一つとして考えられています。

本研究成果が社会に与える影響

今回発見した線維症発症に関与する細胞SatMについては、発見当初の基礎研究の段階から中外製薬㈱と共同研究を行っています。本研究で得られた知見を利用してこのSatMを標的とした治療法が開発されれば、これまで有効な薬のなかった線維症に対して高い効果を示す薬が得られる可能性が期待されます。

また本研究成果は、研究チームが考えている“疾患特異的マクロファージ”の観点からも新たな示唆を与えることが期待されます。これまで研究グループが見つけてきたアレルギーに関わるマクロファージやメタボリックシンドロームに関わるマクロファージに異常を示すマウスに、線維化を起こす薬品を投与しても正常マウスと同様に線維化を発症しました。一方で、線維化が起こらない(SatMが欠損した)マウスはアレルギーやメタボリックシンドロームの異常は見られませんでした。このように、病気には病気ごとの“疾患特異的マクロファージ”が存在している可能性が考えられます。したがって、各病気の発症に対応する疾患特異的マクロファージを狙った創薬は、例えばがん治療の際に使用される副作用が著しい薬であっても、その細胞の疾患特異性の高さから副作用を著しく抑えた薬の開発に繋がると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2016年12月22日(木)午前1時(日本時間)英国科学誌「Nature(ネイチャー)」(オンライン版)に掲載されました。

【著者】Satoh T, Nakagawa N, Sugihara F, Kuwahara R, AshiharaM, Yamane F, Minowa Y, Fukushima F, Ebina I, Yoshioka Y, Kumanogoh A, Akira S.
【タイトル】Identification of an atypical monocyte and committed progenitor involved in fibrosis

本研究は、内閣府/日本学術振興会・最先端研究開発支援プログラムの支援を受けて行われました。

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)は、日本が科学技術の力で世界をリードしていくため「目に見える世界的研究拠点」の形成を目指す文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択されています。

参考URL

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)自然免疫学研究室HP
http://hostdefense.ifrec.osaka-u.ac.jp/ja/index.html

用語説明

線維症

肺、肝臓等、生命活動に重要な臓器が一旦ダメージを受け、修復の過程で誤ってI型コラーゲンなどの膠原繊維が集積した場合に、臓器が弾性を失って硬化し正常な役割が出来なくなる疾患。肺、心臓、肝臓、腎臓、皮膚等々、重要な臓器で起こりうる疾患である。現在、この病気に対する有効な薬は開発されていない。

疾患特異的マクロファージ

これまでマクロファージは体内には1種類しか存在しないと考えられてきた。しかし、本研究チームの近年のデータから、体内には現時点で少なくとも3種類以上のマクロファージのサブタイプが、疾患ごとに存在している可能性が考えられる。