2016年12月6日

本研究成果のポイント

・大面積でナノサイズの穴が同じ方向を向いた多孔質MOF薄膜の合成に世界で初めて成功
・従来法とは一線を画し、ナノサイズの無機結晶が配列した基板を用いることで金属有機構造体(MOF)がエピタキシャル成長する事を発見
・大面積で配列したMOFのナノサイズの穴に向きを揃えて蛍光分子を導入することで、異方的な蛍光特性の発現
・向きが揃ったナノサイズの穴に機能性分子・高分子、金属ナノ構造体、イオン等を詰め込むことで、新規多孔質薄膜としての利用に期待

リリース概要

大阪府立大学(学長:辻洋)大学院工学研究科および21世紀科学研究機構/ナノメゾ材料国際共同研究所の高橋雅英教授、徳留靖明准教授と、大阪大学大学院工学研究科の岡田健司助教(2015年11月まで上記大阪府立大学の研究グループに在籍し、本成果の研究に注力)、オーストラリア(オーストラリア連邦科学産業研究機構、モナッシュ大学、アデレード大学)、オーストリア(グラーツ工科大学)の研究者らから成る国際研究チームは、無機結晶の表面でナノ多孔性の金属有機構造体(Metal organic framework: MOF※1)をエピタキシャル成長※2させる技術を開発し、ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの穴がすべて同じ方向を向き、かつ規則正しく並んだMOF多結晶薄膜の合成に成功しました。

ナノサイズの穴を持つナノ多孔性材料は、その穴の中に機能性分子を詰め込むことで、触媒や電子あるいは光機能性材料としての応用が期待されています。機能性の分子は向きを揃えて並べることで、電子的あるいは光学的な機能性が大きく向上することがすでに知られています。長年、穴の配列を制御して機能向上を目指す試みがなされてきましたが、これまでほとんど実現されていませんでした。今回の研究成果により、cmスケール以上の大きな基板の上で規則正しく整列しているナノサイズの穴の中に、一つの穴に一つずつ機能性分子を詰め込むと、向きを揃えて規則的に並べることが可能となり、これまでに無い機能性薄膜が実現します。

なお、本研究成果は2016年12月5日16:00(ロンドン現地時間)に、英国Nature Publishing Group「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されました。

ナノサイズの穴を持つMOFを大面積で向きを揃えて成長させる技術を開発。今までの多孔性薄膜はドメイン化しており、穴の向きが揃っていない(右)。そのため、機能性分子を入れてもドメイン間で分子の向きが異なり、高い機能性を得ることが困難であった。それに対して本研究の配向MOF薄膜(左)では、すべての機能性分子を配列して入れることが可能となり、外部刺激に対する応答性が薄膜面内で同一であることで高い機能性の発現が可能となる。

研究概要

多孔材料である金属有機構造体(Metal organic framework: MOF)は規則正しいナノメートルサイズの穴を持ち、その穴一つ一つに向きを揃えて物質を導入することで物質の機能を効率よく引きだし多彩な物性を実現することが可能となるため、大きな注目を集めている材料です。しかしながら、MOFの結晶は大きくても数マイクロメートル(100万分の1メートル)程度であり一つの結晶内で穴の向きは揃っているのですが、数センチメートルの薄膜にすると、結晶が様々な方向を向くことで、穴の配列の規則性を失います。電子・光学特性をもつ物質を導入することで、電子・光学デバイスへの利用が試みられていましたが、大きな障壁の一つとなっていたのが、大面積でMOFの穴の向きを一方向に揃える「配向成長」の実現でした。本研究では、これまで試みられてきた手法、アイデアとは一線を画し、無機結晶(金属水酸化物)を基板として利用することで、世界で初めてMOFの配向成長に成功しました。

本手法で得られるMOF薄膜は、大面積でかつナノサイズの穴が一方向に向いており、機能性分子、高分子、金属ナノ構造体、イオン等を導入することでMOFを用いた高機能電子・光学デバイスの実現や、基板の無機結晶との相互作用を積極利用することで新物性の開拓が期待されます。

背景

シリカゲル、ゼオライト、メソポーラスシリカなどの多孔質材料は、ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの穴が多数内包されているため、わずか数グラムでサッカーグラウンドの面積に相当する表面積を持っています。このために、表面特性が重要な触媒、電子、光学材料としての応用が期待されています。近年、新規機能性多孔質材料として金属有機構造体(Metal organic framework: MOF)が注目を集めています。MOFは金属イオン、有機配位子の自己組織化によって形成され、規則正しく配列したナノサイズの穴を有し、比表面積は最大で約5000m2/gと非常に高い値を示します。

MOFは金属種や有機配位子の種類を様々に選択できるため、穴の大きさや形だけではなく化学的特性も広く制御できます。そのため、既存のゼオライトやメソポーラス材料では実現できない機能性の設計が可能となることから、次世代の高機能性多孔材料として期待されています。

機能性の分子、金属ナノ粒子、イオン性物質などは、向きを揃えて並べることで、全体で全く同じ応答を示し、電子的あるいは光学的な特性が大きく向上することがすでに知られています。MOFはそのナノサイズの穴の中にサブナノ~数ナノメートルの物質を向きを揃えて導入することができ、包括物質の特性を最大限引き出すことが可能となります。そのため、長年、穴の配列を制御して機能向上を目指す試みがなされてきましたが、これまでほとんど実現されていませんでした。MOFの結晶は大きくても数マイクロメートル程度であり一つの結晶内で穴の向きは揃っているのですが、数センチメートルの薄膜にすると、結晶が様々な方向を向くことで、穴の配列の規則性を失います。そのため、cmスケールの大面積でMOFの穴が同じ方向に配列する「配向成長」の実現が切望されていました。本手法は既存の方法と一線を画し、ナノサイズの無機結晶を基板として用いる革新的な方法を用いることにより、世界で初めてMOFの配向成長に成功しました。

研究手法と成果

MOFの配向成長の手法としてこれまで、ラングミュラーブルジット法(LB: Langmuir-Blodgett法)や自己組織化単分子膜(SAM: Self-Assembled Monolayer)を足場とした方法が提案されていましたが、いずれの方法も大面積でMOF結晶の向き、すなわちMOFの穴の向きを揃える事はできていませんでした(図1左)

そこでMOFを配向成長させるための基板として無機結晶(金属水酸化物)を用いてエピタキシャル成長させたところ、基板上のすべてのMOF結晶が同じ方向を向いた配向成長することに成功しました(図1右)。本研究のキーとなったのは、無機結晶表面の水酸基の周期性に着目したことです。我々の先行研究で、この無機結晶表面の水酸基を足場とすることでMOFの結晶を形成出来ることはわかっていました。研究を進めているうちに、この水酸基の周期性と、MOFの有機配位子の周期性が合えば、MOFが無機結晶の特定の方位を向いて成長する「エピタキシャル成長」するはずだという着想に至りました(図2)。最適な無機結晶とMOFの組み合わせを選択することで様々なMOFが配向成長することを明らかにしました(図3)

図3の顕微鏡写真から視覚的にもわかるように、MOF結晶(長方形の物質)が全て同じ方向に配列しています。結晶がすべて同じ向きを向いている事は、X線回折実験によっても証明しました。

また、一般的なエピタキシャル技術(一般的には大きな単結晶基板を用いる。大きな単結晶基板は作製が困難で高価である。)とは逆転の発想で、MOF成長の足場となる無機結晶をナノサイズ化して基板上に向きを揃えて並べることで(図3左)、cmスケール以上の基板全面で配向したMOF薄膜を形成出来ることを見いだしました。ナノサイズの無機結晶を並べて足場形成できるので、半導体業界で使われるシリコン基板や変形可能なフレキシブルな基板など様々な基板の上で配向したMOF薄膜を形成できることも実用上の大きな利点です。

本研究で得られた配向MOF薄膜は、図1で模式的に示したように既存の手法で合成したMOF薄膜と異なり、大面積(cmスケール以上)でナノメートルサイズの穴の向きが一様に揃っています。そのため、異方的な形状の機能性分子を同じ向きを揃えてMOFの穴の中に導入することが可能となります。

異方的な形状をしている蛍光色素をMOFの穴の中に向きを揃えて入れることで、試料に入射する偏光角度を変えることで色素が光ったり、光らなかったりする、蛍光をON・OFFスイッチング可能な薄膜を作製することにすでに成功しています(図4)

図1 既存の手法と本手法で得られる配向MOFの比較

図2 本手法のアイデアの模式図
無機結晶(金属水酸化物)表面の水酸基の周期性とMOFの有機配位子の周期性の整合。

図3 基板上に配列したナノサイズの無機結晶(水酸化銅)(左)、無機結晶上にエピタキシャル成長した2次元MOF結晶(中央)および3次元MOF結晶(右)の電子顕微鏡画像

図4 配向MOF薄膜中でのゲスト分子の配列モデル
薄膜全領域で全分子が配列しており、外部刺激に対する応答性が薄膜面内で同一であり、高い機能性の発現が期待される。蛍光分子を入れることでスイッチングが可能な光学デバイスの形成に成功(左下)。

今後の期待

MOFの配向制御は、高機能な電子・光学デバイス実現のためには非常に重要な課題でした。本研究手法により大面積でMOFの穴の向きが揃った配向薄膜を作製することができ、今後、規則正しく整列しているナノサイズの穴の中に、機能性分子・高分子、金属ナノ構造体、イオン等を詰め込むことで、これまでに無い機能性をもつ多孔性薄膜の実現が期待されます。また、基板となる無機ナノ結晶とMOF結晶は原子/分子レベルで整合しており、新しい有機/無機界面としての利用も期待されます。

研究助成資金等

本研究は科学研究補助金、JSPS頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラムからの支援を受けて行われました。

発表雑誌

論文名:Centimetre scale micropore alignment in oriented polycrystalline Metal-Organic Framework films via hetero-epitaxial growth
著者:Paolo Falcaro1,2,3,4*, Kenji Okada5,6, Takaaki Hara5, Ken Ikigaki5, Yasuaki Tokudome1,5, Aaron Thornton2, Anita J. Hill2, Timothy Williams7, Christian Doonan4, Masahide Takahashi1,5*
1大阪府立大学ナノメゾ材料国際共同研究所 2オーストラリア連邦科学産業研究機構 3グラーツ工科大学 4アデレード大学 5大阪府立大学工学研究科 6 大阪大学工学研究科 7モナッシュ大学)
掲載誌:Nature Materials
web速報版公表日時:2016年12月5日16:00(ロンドン現地時間)

用語解説

※1 MOF
金属イオンと有機配位子により形成されるネットワーク構造をもつナノ多孔性材料。

※2 エピタキシャル成長
薄膜結晶成長技術のひとつで、基板となる結晶の上に結晶成長を行い、下地の基板の結晶面に揃えて配列する成長の様式。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科 町田研究室HP
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/machida-lab/

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