2016年11月8日

本研究成果のポイント

・大腸がんの転移は、がん細胞の代謝で重要な役割を担っているオンコメタボライト※1 (D-2HG)により影響されることが分かった。
・脳腫瘍等ではオンコメタボライトを標的とした治療法が関発されていたが、大腸がんでのオンコメタボライトの関与は不明だった。
・遺伝子の変異に加え、がんの代謝メカニズムにも焦点を当てることにより、がん転移の新しい診断法や治療法の開発が期待される。

概要

大阪大学のヒュー・コルビン大学院生(大学院医学系研究科消化器外科、生体統御ネットワーク医学教育プログラム)、石井秀始特任教授(常勤)(癌創薬プロファイリング学共同研究講座)、森正樹教授(大学院医学系研究科消化器外科)らのグループは、がん細胞で産生されるオンコメタボライトD-2HGが大腸がんの転移を促進することを発見しました(図)

今後、がんに対して、ゲノム医療に代謝など新たな視点を加えることにより、画期的な診断や治療法につながることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、11月8日(火)19時(日本時間)に公開されました。


グルタミン代謝から産生されるオンコメタボライト(D-2HG)はがん細胞の浸潤性を増し、血流からの遠隔転移に関わっている。

研究の背景

最近のがんの研究では、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の異常と関連して、がん細胞の代謝が、がんの形成や進行に影響を及ぼすことが明らかになってきました。

脳腫瘍や白血病の細胞では、エネルギー代謝に関与するイソクエン酸脱水酵素(IDH)※2 の遺伝子が変異し、2-ヒドロキシ・グルタール酸(2HG)が大量に蓄積されます。2HGは、細胞をがんへと導く「造腫瘍性代謝物(オンコメタボライト)」として知られています。欧米では、IDHの酵素活性を標的として、オンコメタボライトの蓄積を防ぐことにより、がんの進行を抑える治療法がいくつか関発され、一部は臨床試験が行われています。

一方で、腎臓がん(腎細胞がん)では、IDHの遺伝子変異の頻度が低いようながん細胞にも、このオンコメタボライトが微量ながら存在していることが報告されています。

今回、研究グループは、毎年70万人が亡くなると言われており3番目に多いがんである「大腸がん」について、2HGの役割を調べました。大腸がんについても、細胞内の様々な代謝産物の濃度に異常がみられることが分かっていましたが、代謝産物の濃度変化が単に病気の結果として表れているのか、それがさらに病気の進行を促進する役割をもつのかについては明らかではありませんでした。

本研究の成果

研究グループは、大腸がんの細胞にオンコメタボライトである2HGが蓄積していることを明らかにしました。この蓄積した2HG(D/L異性体)のうち、D型の2HG(D-2HG)は、エピゲノム※3 (遺伝子の発現制御)の変化を誘導して、上皮‐間葉転換(EMT)※4 によって周りの細胞に浸潤し、血流に入り、離れた組織へのがん転移を引き起こすことを見出しました。

研究グループは、さらに、臨床検体から得られたがん細胞を用いて、IDHの変異のない場合でも、D-2HGの濃度が通常の細胞と比べて高いことを示し、D-2HGのレベルが高いほど、がんのステージが高く、遠く離れた臓器等に転移(遠隔転移)している確率が高いことを示ました。

今回の研究の成果は、転移を伴う大腸がんに対して新たな治療法を開発する上で、有用な手がかりになると考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

① がんでは遺伝子変異が高頻度に発生するため、DNAの塩基配列を読み取って遺伝子変異を診断(臨床シークエンス)することも重要ですが、ゲノムのシークエンスに加えて、代謝を含めた多彩な側面からアプローチすることが重要であることが示唆されました。

② がんの転移メカニズムが新たに分かったことにより、既存薬として開発されているものの中から治療に応用できる可能性が示唆されました。

特記事項

本研究成果は、2016年11月8日(火)19時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】
Oncometabolite D-2-Hydroxyglurate Directly Induces Epithelial-MesenchymalTransition and is Associated with Distant Metastasis in Colorectal Cancer
【著者名】
Hugh Colvin1,2,*, Naohiro Nishida2,*, Masamitsu Konno2, Naotsugu Haraguchi1, Hidekazu Takahashi1, Junichi Nishimura1, Taishi Hata1, Koichi Kawamoto1,2, Ayumu Asai3, Kenta Tsunekuni1,2,4, Jun Koseki3, Tsunekazu Mizushima1, Taroh Satoh2, Yuichiro Doki1,2,3, Masaki Mori1,2,3,+, Hideshi Ishii2,3,+
(+責任著者、*同等貢献)
【所属】
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 先進癌薬物療法開発学
3. 大阪大学 大学院医学系研究科 癌創薬プロファイリング学
4. 大鵬薬品工業 株式会社

用語解説

※1 オンコメタボライト(oncometabolite)
がん細胞において特徴的にみられる代謝産物。がん細胞で代謝酵素が変異することにより異常に蓄積され、細胞を腫瘍形成へと導く。

※2 イソクエン酸脱水酵素(isocitrate dehydrogenase; IDH)
糖を分解した物質からアミノ酸を生産するときに働く酵素。イソクエン酸をαケトグルタル酸に変換する。

※3 エピゲノム
DNAの塩基配列を変えることなく、DNAメチル化やヒストン修飾により遺伝子のはたらきを決めるしくみをエピジェネティクスとよび、その情報の集まりをエピゲノムと言う。エピゲノムによって、どの遺伝子が働くかが切り替わる。

※4 上皮‐間葉転換(epithelial-mesenchymal transition; EMT)
強固な細胞間接着をもつ上皮性のがん細胞が、より運動性の高い間葉系細胞の性質を獲得し、転移を起こしやすい状態になること。

参考URL

大学院医学系研究科 癌創薬プロファイリング学 共同研究講座
http://www001.upp.so-net.ne.jp/CancerProfiling/index.htm

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