2016年10月31日

本研究成果のポイント

・微粉炭とアンモニアの混焼の詳細な燃焼挙動を明らかに
・ハイスピードカメラと長距離顕微鏡により、高い時間・空間分解能を有する撮影を実現
・再生可能エネルギー起源の水素エネルギーの利用技術への応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の赤松史光教授らの研究グループは、微粉炭※1 とアンモニア※2 の混焼※3 の様子を、高い時間・空間分解能で可視化することに世界で初めて成功しました。水素は、再生可能エネルギー・化石燃料からの製造が可能で、エネルギー供給源の多様化にも寄与します。アンモニアは、水素を効率よく輸送・貯蔵するエネルギーキャリアとして注目されていますが、水素に再変換するのではなく直接燃料として利用することに関連する技術の研究も推進されています。本研究成果により、燃焼工学の分野でこれまでよく分からなかった、人の毛髪の太さ以下の数10μmの大きさの微粉炭の燃焼過程の解明が、大きく進捗しました。本研究成果は、現在の微粉炭を利用した火力発電所や工業炉における燃焼効率の向上・排ガスのクリーン化や、将来再生可能エネルギーで生産された水素から製造したアンモニアを微粉炭と混焼させたときの燃焼現象の解明に活用されます。

今後、大規模実証試験の知見が得られれば、本研究成果と融合させることで、地球規模の課題であるCO2削減と、エネルギー資源小国の日本の将来を左右する水素社会実現に大きく貢献することが期待されます。

この成果は、日本燃焼学会第54回燃焼シンポジウム(平成28年11月23日~25日開催)において、発表されます。

研究の背景

本研究テーマでは、微粉炭とアンモニアの混焼を対象としています。微粉炭は、国内では石炭火力発電所のボイラーやセメント製造などの窯業・土石産業の燃料として使用されています。微粉炭を燃料として用いた際の燃焼の様子は、燃焼炉に設けられた観察窓からの直接撮影や、小型モデルを用いた大気開放燃焼実験に対して種々の光学計測技術を適用することにより観察が行われてきましたが、詳細な燃焼挙動は明らかにされていませんでした。これは、微粉炭の詳細な燃焼挙動を観察することに適した場を形成する知見が今まで存在しなかったことによります。本研究室は、微小な燃料の粒から成る噴霧の燃焼場を安定的に形成する技術を有しており、その技術を応用することで、微粉炭の詳細な燃焼挙動を観察することに適した場の形成を成し遂げました。

研究の内容

本研究では、微粉炭とアンモニアの混焼の基礎的な物理現象を明らかにするための燃焼観察場として、光学計測に適し流速が遅い大気開放の層流対向流バーナ(図1図2 参照)を用いた“層流対向流場※4 ”を採用しました。その層流対向流バーナで燃焼する微粉炭に対して、高い時間・空間分解能を有する計測を適用することを可能としました。具体的には、高い時間分解能の実現のために、1秒間に10,000コマ(標準的なテレビの動画は1秒間に60コマ)のハイスピードカメラによる撮影を行いました。高い空間分解能の実現のために、高倍率で焦点距離の長い“長距離顕微鏡※5 ”を合わせて使用しました。これにより図3 に示すように、数10μmの微粉炭粒子一粒の揮発分※6 放出時や揮発分燃焼時の運動の様子や、揮発分のアンモニアとの混焼によって生じたすすの流動や凝縮・凝集過程、揮発分放出後の微粉炭の表面燃焼の過程などを詳細に観察することができました。今まで提唱されたことがなかった現象である“揮発分の非等方的な放出”や、“揮発分の燃焼過程において非球形粒子が燃焼ガスからの外力を受けることで、気相中で複雑な回転・並進運動をすること”を明らかにしました。

図1 層流対向流バーナのフロー図

図2 層流対向流バーナの写真

図3 アンモニアと混焼している微粉炭の詳細な燃焼挙動

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、実機の微粉炭焚き火力発電ボイラー燃焼器や工業炉における燃焼シミュレーション用のデータベース(検証用の基礎データ)として活用されることで、実機検証機会の削減に寄与し、研究開発の加速化・低コスト化が期待されます。さらに本研究成果は、微粉炭とアンモニアの混焼時の窒素酸化物(NOX)の低減メカニズムの解明の第一歩に位置付けられます。この技術は、将来の微粉炭とアンモニアの混焼技術の開発のみならず、現在の微粉炭火力発電の多品種石炭採用時の開発に大いに役立つものと期待されます。

特記事項

本研究成果は、日本燃焼学会第54回燃焼シンポジウム(平成28年11月23日~25日開催)において、発表されます。
タイトル:“層流対向流場において水素拡散火炎により保炎される微粉炭粒子とアンモニアの混焼挙動”
著者名:福井淳平, 中塚記章, 泰中一樹, 東野秀隆, 林潤, 赤松史光

本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」(管理法人:国立研究開発法人科学技術振興機構【理事長濵口道成】)の委託研究課題「アンモニア直接燃焼」において実施されました。

用語解説

※1 微粉炭
数10μmの微粉砕石炭粉。

※2 アンモニア
分子式がNH3で表される窒素と水素の化合物。常温常圧では無色の気体で、特有の強い刺激臭と毒性を持つ。水素を高い割合(重量で18%)で含む水素キャリアの一種で、加圧することで容易に液化し(20℃では8.5気圧で液化)、貯蔵・輸送が比較的容易であるため、その利用が期待されている。

※3 混焼
複数の燃料を混合して燃焼させる技術。

※4 層流対向流場
乱れのない2つの気体の流れを正対させて衝突させることで形成される流れ場で、気体の流速が0になるよどみ面が安定的に形成されるという特徴がある。

※5 長距離顕微鏡
被計測物から約30cm離れたところから最大10倍の拡大撮影が可能である特殊なカメラレンズ。

※6 揮発分
固体燃料が熱を受け取ることで放出する燃料成分を含む気体。

参考URL

大学院工学研究科 機械工学専攻 燃焼工学領域
http://www-combu.mech.eng.osaka-u.ac.jp/

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