2016年10月10日

概要

金沢大学子どものこころの発達研究センターの三邉義雄センター長(医薬保健研究域医学系教授),菊知充教授,長谷川千秋博士研究員らの研究グループは,大阪大学大学院工学研究科の浅田稔教授らの研究グループ(脳磁計(Magnetoencephalography:MEG)(図1) の同時計測システムの実装を担当)と協力し,世界で唯一金沢に設置されている,親子同時測定が可能な脳磁計を活用し,自閉スペクトラム症幼児とその母親が見つめ合っている最中の脳の活動を調べたところ,以下の3つのことが明らかになりました。

  • 1. 症状が重い自閉スペクトラム症では,「見つめ合う」ことで生じる脳の反応が低下している
  • 2. 自閉スペクトラム症幼児の脳の反応が低下している場合,母親の脳の反応も低下している(図2)
  • 3. 見つめ合い中の母親が子どもに合わせてうなずくといった動作をした場合,母親の脳の反応が強い

親と子どもが見つめ合っている間,無意識の間にも,膨大な量の社会的な情報のやり取りがなされています。すなわち,相手の表情を理解し,新たに感情が生まれ,そしてそれが自らの表情に表れ,相手に影響を与えるという双方向性の情報交換が絶え間なく続いています。親子が見つめ合っている間の双方向性の交流は,子どもの社会性の成長において,とても重要な役割を果たしていると考えられています。

今回,親子が見つめ合う状態で脳機能を同時測定できたことにより,子どもの社会脳の発達を解明する一つのステップになると期待されています。

本研究成果は,米国の科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に日本時間10月10日午後6時に掲載されました。なお,本研究は,文部科学省の「特別推進研究:代表浅田稔教授」および一部,科学技術振興機構「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」(サテライト金沢大学代表研究者:三邉義雄教授)により行われた研究の成果です。

研究の背景

幼児用脳磁計(Magnetoencephalography:MEG)とは,超伝導センサー技術(SQUID磁束計)を用いて,脳の微弱磁場を頭皮上から体に全く害のない方法で計測,解析する装置である脳磁計を,幼児用として特別に平成20年に開発したものです(図1) 。幼児用MEGでは超伝導センサーを幼児の頭のサイズに合わせ,頭全体をカバーするように配置することで,高感度で神経の活動を記録することが可能になりました(現在日本では1台のみ存在)。さらに成人用MEGと同時に測定することができるシステムは,平成26年に大阪大学との共同研究で開発したものであり,世界でも金沢に唯一存在するだけです。

MEGは神経の電気的な活動を直接捉えることが可能であり,その高い時間分解能(ミリ秒単位)と高い空間分解能において優れているため,脳のネットワークを評価する方法として期待されています。さらにMEGは放射線を用いたりせず,大きな音もせず,狭い空間に入る必要がないことから,幼児期の脳機能検査として存在意義が高まっています。

これまで,親子が見つめ合っているときの脳の活動についてはよく調べられていませんでした。理由は,幼児の脳機能を測定することが困難なうえに,母子が見つめ合っている状態で脳機能を精度よく同時に測定するシステムを構築することは困難でした。平成26年に金沢大学が大阪大学と共同で開発した親子同時MEG測定システムは,親子が見つめ合った状態で,非侵襲的に測定できるシステムで,静かでリラックスした状態で脳全体の活動を母子ともに同時に測定することを可能にしました(システムができたことは平成26年に発表済み)。今回は,その装置を用いた世界で初めての医学研究報告です。

研究の概要

今回,4歳から7歳の自閉スペクトラム症幼児13人とその母親13人を対象に,幼児用MEGを搭載した親子同時MEG計測システムを用いて,母子が見つめ合っている間の脳の神経活動を記録しました(うち,母子ともに脳の反応を測定できたのは8組)。その結果,母子が見つめ合っているときに生じる特別な脳の反応(ミューサプレッション※1 )が自閉スペクトラム症幼児の症状が重い場合に,より低下していることを発見しました。さらに自閉スペクトラム症幼児の反応が弱い場合には,母親のこの反応も弱いことを発見しました。そして,この脳の反応が強い母子間の頭部の運動パターンを分析すると,見つめ合い中の母親の頭の動きが,子どもの頭の動きに追随するようなパターンが多いことを発見しました。このことは,母子間の見つめ合い中に起きる脳の反応には,自閉スペクトラム症の特徴が反映されること,そして母子間の関係性も反映されていることを示しています。

研究成果の意義について

これまで,同様の研究報告がなかったため,社会性をはぐくむ母子間の脳活動についてまだなにも解明されていません。このような研究は今始まったばかりです。今回の成果は,母親の子どもに追従した動作パターンが,子どもの社会脳の活性化と連動していることを意味します。健常児の子どもの場合の母子関係でも同様な現象が観察されるかは,現在研究中です。この研究は,子どもの脳の社会性(社会脳)の発達を「見える化」する,一つのステップになると期待されます。将来的には社会脳を育む療育の効果評価などに応用されることを期待しています。

なお,今回の研究は,親の関わり方が自閉スペクトラム症の原因になっていることを示しているわけでないことにご注意ください。

掲載論文

タイトル: Mu rhythm suppression reflects mother-child face-to-face interactions: a pilotstudy with MEG simultaneous recording(母子の対面コミュニケーションに関わる脳活動:親子同時MEG測定研究)
著者: Chiaki Hasegawa,Mitsuru Kikuchi,Yoshio Minabe et al.(長谷川千秋,菊知充,三邉義雄他)
所属: 金沢大学医薬保健研究域医学系,子どものこころの発達研究センター

参考図

図1
実際のMEGを用いた親子同時測定の様子(写真は健常児)

図2
母の反応が小さいと,子どもの反応も低下

用語解説

※1 ミューサプレッション
人が人の動きを観察しているときに,まるでその動きを自分でもシミュレーションするかのように,人の運動野皮質周辺で生じる脳の反応。実際に自分の体を動かすときにも同様の反応が起きます。

参考URL

大学院工学研究科 知能・機能創成工学専攻 創発ロボティクス研究室(浅田研究室)
http://www.er.ams.eng.osaka-u.ac.jp/asadalab/

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