2016年10月4日

本研究成果のポイント

・四重極型の電子スピン配列に由来する電気磁気効果の実験的検出に世界で初めて成功
・このスピン配列による電気磁気効果は理論的に予測されていたが、これを検証するための物質はなかった
・四重極型電子スピン配列に由来する電気磁気効果を利用した新規な電子デバイスの開発に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の木村健太助教、木村剛教授を中心とする大阪大学,東京工業大学,スイス連邦工科大学ローザンヌ校,ポールシェラー研究所,ラザフォード・アップルトン研究所の国際共同研究グループは、正四角台塔形状のスピンクラスター(図1) ※1 を基本構造ユニットに持つ銅酸化物Ba(TiO)Cu4(PO4)4において、四重極型の電子スピン配列(図2) ※2 が誘起する電気磁気効果※3 の世界初の実証に成功しました。

四重極型スピン配列が電気磁気効果を誘起する可能性は理論的に予測されていましたが、そのようなスピン配列を実現する物質はこれまでに無く、実験的には確立されていませんでした。

今回、木村健太助教らの研究グループは、正四角台塔スピンクラスターが四重極型電子スピン配列の実現に適しているという独自のアイディアのもと、このスピンクラスターを内包する銅酸化物Ba(TiO)Cu4(PO4)4の純良試料を合成しました。この物質中のミクロなスピン配列を中性子回折法※4 により調べたところ、実際に四重極型スピン配列が実現していることが分かりました(図3) 。さらに、誘電特性の磁場に対する応答を調べることにより、四重極型スピン配列が電気磁気効果を誘起することを実験的に明らかにしました(図4)

本研究成果により、四重極型スピン配列に基づく電気磁気効果の解明が大きく進展すると予想され、この電気磁気効果を利用した新規な電子デバイスの開発につながると期待できます。さらに、本研究を成功に導いた独自の物質探索アイディアは、今後の電気磁気結合物質の新規開拓における指針となるものです。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、10月4日(火)18時(日本時間)に公開されました。

図1
正四角台塔スピンクラスター。4つの磁性イオン(青丸)と12個の配位子(緑丸)で構成される。

図2
左:4つの棒磁石から成る四重極磁石。右:棒磁石をミクロな電子スピンで置き換えた四重極型電子スピン配列。

研究の背景・研究内容

近年、電気と磁気を相互変換する電気磁気効果が、物質科学における基礎・応用の両面から注目を集めています。電気磁気効果は、物質中の電子スピンが特殊な空間的配列を有する場合にのみ現れる現象です。本研究では、図2に示すような四重極型スピン配列に着目しました。これは、荷電粒子ビームの収束等に用いられている四重極磁石における電磁石を、ミクロな電子スピンで置き換えたものに相当します。四重極型スピン配列が電気磁気効果を示すことは理論的に予測されていましたが、このようなスピン配列を示す物質はこれまで見つかっておらず、実験的な実証は成されていませんでした。

木村健太助教らの研究グループは、図1に示すような正四角台塔スピンクラスターが四重極型スピン配列を実現し得る可能性に着目しました。この可能性を検証するため、銅イオン(磁性イオン)と酸素配位子から成るCu4O12正四角台塔スピンクラスターを持つ銅酸化物Ba(TiO)Cu4(PO4)4の純良試料を合成し、そのミクロなスピン配列を中性子回折法により詳細に調べました。その結果、-264℃以下においてCu4O12クラスターが実際に四重極型スピン配列を示すことを確認しました(図3) 。さらに、磁場中に試料を置いて誘電特性を測定したところ、四重極型スピン配列が生じる温度域において、磁場の印加により誘電特性が劇的に変化することを観測しました(図4) 。この実験結果から、四重極型スピン配列に由来する電気磁気効果の存在が世界で初めて実験的に確立されました。

図3
中性子回折により決定したCu4O12正四角台塔スピンクラスターのスピン配列。平面内に投影したスピン成分が四重極型スピン配列を成す。

図4
磁場中で測定した誘電率の温度依存性。四重極型スピン配列の出現温度域において、磁場の印加により鋭い誘電率ピークが現れる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、四重極型電子スピン配列に由来する電気磁気効果の解明が大きく進展すると予想され、この電気磁気効果を利用した新規な電子デバイスの開発につながると期待できます。電気磁気結合物質は、電気と磁気の相互変換という特性に加えて、マジックミラー効果のような特異な光学応答を示す可能性が知られています。そのため、四重極型スピン配列に由来する光学応答にも関心がもたれます。また、正四角台塔スピンクラスターが四重極型スピン配列を実現する有力な構造ユニットであるという本研究の知見は、今後の電気磁気結合物質の新規開拓における重要な指針となると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2016年10月4日(火)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Magnetodielectric detection of magnetic quadrupole order in Ba(TiO)Cu4(PO4)4 with Cu4O12 square cupolas”
著者名:K. Kimura, P. Babkevich,M. Sera,M. Toyoda, K. Yamauchi, G.S. Tucker,J. Martius, T. Fennell, P. Manuel, D.D. Khalyavin, R.D. Johnson, T. Nakano, Y. Nozue, H.M. RønnowandT. Kimura

用語解説

※1 正四角台塔スピンクラスター
複数の磁性イオンを内包する構造ユニットをスピンクラスターと呼ぶ。本研究で着目したスピンクラスター(図1) では、磁性イオン(銅イオン)に配位した酸素イオンが正四角台塔(正三角形4枚、正方形5枚、正八角形1枚を構成面とする立体)の頂点上に位置するため、我々はこれを正四角台塔スピンクラスターと呼んでいる。

※2 四重極型スピン配列
2つずつのS極とN極が並んだ磁気的構造を磁気四重極と呼ぶ。四重極の作り方は様々であるが、例えば4本の棒磁石を(図2) に示すように並べることで得られる(四重極磁石)。四重極型スピン配列とは、この棒磁石をミクロな電子スピンで置き換えたものに相当し、時間反転と空間反転対称性を同時に破る性質を有している。なお、電磁石を使った四重極磁石は、荷電粒子ビームの収束等に用いられている。

※3 電気磁気効果
物質に対して電場を印加することにより磁化が誘起される、あるいは磁場を印加することにより電気分極が誘起される現象のこと。この効果の利用により電気と磁気を相互変換できることから、新たなデバイス原理として活発に研究されている。四重極型スピン配列のように、時間反転対称性と空間反転対称性を同時に破るスピン配列は、電気磁気効果を誘起する可能性を秘める。

※4 中性子回折法
中性子がスピンを持つことを利用して、物質内部のスピン配列を調べる実験方法のこと。物質に中性子線を照射すると、物質内部の原子配列およびスピン配列を反映した中性子回折パターンが現れる。この回折パターンを解析することにより、物質内部の原子配列のみならず、スピン配列を決定することができる。

参考URL

木村研究室HP
http://www.crystal.mp.es.osaka-u.ac.jp/index.html

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