敗血症ショックを増悪させる分子を発見
細菌感染によるショック症状の抑制に期待
リリース概要
大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫機能統御学の岸本忠三特任教授らの研究グループは、敗血症ショック を増悪させるメカニズムを明らかにしました。
研究の背景
敗血症は、細菌感染による細菌毒素によって体内の細胞から炎症を誘導する物質(サイトカイン)が大量に放出されることによる全身性の炎症反応ですが、約3割の患者は致死的であり有効な治療法は存在しません。
研究の内容と本研究成果が社会に与える影響
今回同研究グループは、Arid5a というタンパク質がγ-インターフェロン を産生するヘルパーTリンパ球(Th1) に必須の分子T-bet をコードする遺伝子転写産物Tbx21mRNAに結合してγ-インターフェロンの産生を亢進させ、敗血症ショックを増強することを新たに見出しました( 図1 、 図2 )。
こうした結果からArid5a分子の発現を抑制する分子を開発すれば、敗血症ショックの治療につながると期待されます。
図1 エンドトキシンショック後のArid5a分子による生体内サイトカイン上昇機構
Arid5aがγ-IFNのmRNAを安定化することでγ-IFNの産生が上昇し、ショック状態に陥る。
図2 LPS投与後のエンドトキシンショックによるArid5aノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスの生存率比較
Arid5aの遺伝子が働かないKOマウスでは、毒素投与後も炎症が抑制され生存する。
特記事項
本研究成果は、米国の科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Science of the USA (PNAS)』(米国科学アカデミー紀要)に9月27日(日本時間)にオンライン掲載されました。
著者名:Mohammad Mahabub-Uz Zaman, Kazuya Masuda, Kishan Kumar Nyati, Praveen Kumar Dubey, Barry Ripley, Kai Wang, Jaya Prakash Chalise, Mitsuru Higa, Hamza Hanieh, and Tadamitsu Kishimoto.
タイトル:Arid5a exacerbates symptoms of Septic shock.
大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)は、日本が科学技術の力で世界をリードしていくため「目に見える世界的研究拠点」の形成を目指す文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されています。
参考URL
大阪大学 免疫学フロンティア研究センターHP
http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/
用語説明
- 敗血症ショック
敗血症により引き起こされる多臓器不全や血圧低下
- Arid5a
(アリッドファイブエー):
岸本研究室で発見された分子で転写因子と呼ばれるタンパク質の一種。炎症性サイトカイン、インターロイキン6(IL-6)のmRNAに結合してこのmRNAを安定化させ、IL-6産生を亢進させる。
- γ-インターフェロン
γ-IFN(ガンマインターフェロン):
代表的な炎症性サイトカインであり、もともとは免疫機能に必須の分子。ただし、作られ過ぎると自己を傷つける。
- ヘルパーTリンパ球
骨髄より産生される造血幹細胞に由来し、胸腺において選択を受けた免疫機能のかなめとなる細胞
- T-bet
γ-IFN遺伝子の構造を部分的に緩めて他の転写因子の結合を助けるタンパク質