2016年9月9日

本研究成果のポイント

・肝細胞増殖因子(HGF)活性化の分子メカニズムは不明な点が多い。
・HGFに対する阻害抗体および成熟型特異的抗体を作製することに成功。
・新規の抗体医薬品の開発に貢献できる可能性。

リリース概要

東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成(かとうゆきなり)教授、金子美華(かねこみか)准教授、小笠原諭(おがさわらさとし)助教(地域イノベーション分野)の研究グループは、大阪大学蛋白質研究所の高木淳一(たかぎじゅんいち)教授、海津正賢(うみつまさたか)特任助教および金沢大学がん進展制御研究所の松本邦夫(まつもとくにお)教授、酒井克也(さかいかつや)助教の研究グループと共同で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療やがんの進行とも深く関わりのある肝細胞増殖因子(HGF)に対するモノクローナル抗体を作製することに成功しました。本研究で活性を持つ成熟型HGFのみを特異的に認識できる抗体や、活性を阻害する抗体の産生に成功したことにより、今後これらの抗体を利用してHGFシグナリングの活性化に必要な分子メカニズムを明らかにできることが期待されます。

本研究成果は、2016年9月9日午前10時(現地時間、日本時間9月9日午後6時)、英科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)に掲載されました。

本研究の一部は、AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)、文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム、AMED革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業、文部科学省科学研究費補助金、次世代がん医療創生研究事業によってサポートされました。

研究内容

肝細胞増殖因子(HGF)※1 は日本で発見されたタンパク質で、その受容体であるMet※2 に結合することで、細胞の増殖や生存促進、遊走といった生物学的活性を引き起こします(図1)。HGFは運動神経の生存を促すことから、HGFによる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療を目的とした臨床試験が東北大学と大阪大学の別の研究グループで進められています。一方、Met受容体の異常な活性化はがんの進行に関わっており、Metを標的とした阻害剤やHGFとMetの結合を阻害する抗体医薬品※3 の開発が進められています。HGFは、最初活性のない一本鎖の前駆体タンパク質として細胞から分泌され、その後、タンパク質分解酵素による切断を受けて二本鎖の活性を持つ成熟型となります(図2)。一本鎖の前駆体HGF、二本鎖の成熟型HGF、両者はともにMet受容体(鍵穴)に結合します。にもかかわらず、不思議にも受容体を活性化できるのは二本鎖成熟型HGFだけです。一本鎖前駆体HGFが二本鎖への切断によってどのような構造変化が生じ、Metを活性化するのか不明のままでした。

この問題を解明するために、本研究グループは、はじめにHGFの切断部位を人為的な切断配列に変えることで、未切断型(前駆体)および切断型(成熟型)両方のHGFタンパク質を産生しました。さらに、これらのHGFタンパク質を用いて結合部位や活性阻害効果の異なる抗HGFモノクローナル抗体※4 を6種類樹立し、HGF前駆体と成熟型HGFの構造の違いを見分ける抗体(t8E4)やMetの活性化を強く阻害する抗体(t1E4)を作製することに成功しました(図3)。今後、これらの抗体を利用したHGF構造解析を通して、HGFの構造変化と受容体Metへの結合を介したシグナリングの分子メカニズムについてのさらなる理解が進み、新規の抗体医薬品の開発などに貢献することが期待されます。

本研究の一部は、AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)、文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム、AMED革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業、文部科学省科学研究費補助金、次世代がん医療創生研究事業によってサポートされました。

文献情報

論文題目:Probing conformational and functional states of human hepatocyte growth factor by apanel of monoclonal antibodies
「肝細胞増殖因子の活性化機構解明に向けた特異的抗体の開発」
著者:Masataka Umitsu, Katsuya Sakai, Satoshi Ogasawara, Mika K. Kaneko, RyokoAsaki, Keiko Tamura-Kawakami, Yukinari Kato, Kunio Matsumoto, Junichi Takagi
掲載誌:Scientific Reports

参考図

図1 本研究で作成されたHGFに対する阻害抗体と成熟型特異的抗体

図2 HGFの活性化メカニズム

図3 作製した6種類のHGF抗体は異なる結合部位とシグナル阻害能を有する

用語解説

※1 肝細胞増殖因子(HGF)
692アミノ酸もしくは697アミノ酸からなる糖タンパク質。アミノ末端領域(N)、4つのKringle(K1-K4)領域、カルボキシル末端の活性を持たないセリンプロテアーゼ領域(SP)からなる。活性化に伴う切断はK4領域とSP領域の間で生じる。

※2 受容体型チロシンキナーゼMet
HGFに結合し、リン酸化酵素活性を持つ膜タンパク質。膜貫通型チロシンキナーゼ受容体であるMetは、細胞外にHGF結合領域、細胞内にキナーゼ領域およびリン酸化部位を持つ。細胞外での成熟型HGFが結合するとMet受容体同士が近づき、自身のキナーゼ領域の活性化によりリン酸化される。その結果、細胞内のシグナル活性化を経て、細胞の脱着および遊走といった生物学的応答がおこる。

※3 抗体医薬品
抗体は、リンパ球のうちB細胞が産生するタンパク質で、特定の分子(抗原)を認識して結合する。血液中や体液中に存在し、細菌やウイルスなどの微生物に結合すると、白血球による貪食が起こる。また、がん細胞に結合しがん細胞を殺す働きもあり、臨床でも使用されている。

※4 モノクローナル抗体
単一抗体のこと。血清から精製するポリクローナル抗体と異なり、抗体産生細胞から無限に生産が可能であり、抗体医薬に使われている。

参考URL

大阪大学 蛋白質研究所 高木研究室HP
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/rcsfp/synthesis/

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top