サリドマイド誘導体分子の抗炎症作用の解明

サリドマイド誘導体分子の抗炎症作用の解明

リウマチ等の炎症性疾患への応用に期待

2016-9-7

概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センターの岸本忠三教授らの研究グループは、サリドマイドの抗炎症作用メカニズムを解明することに成功しました。

研究の背景

サリドマイドは細胞内のセレブロン というタンパク質に結合して骨髄腫細胞に抗腫瘍効果を発揮することが知られています。一方で、インターフェロンやIL-6 , TNF 等の炎症性サイトカイン の産生を抑えて抗炎症効果を発揮することも知られていました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回同研究グループは、次のことを示しました (図) 。

・IL-6等の産生にかかわるRabex-5 というタンパク質がセレブロンに結合しており、この結合をサリドマイド誘導体がブロックしてRabex-5を遊離させる。
・遊離されたRabex-5はインターフェロン遺伝子の阻害剤として働き、結果的に炎症の抑制効果を発揮する。

以上より、サリドマイド分子をリウマチ等の炎症性疾患にいかに応用するかを考えるきっかけになることが期待されます。

図 サリドマイド誘導体がセレブロンからRabex-5 を解離させインターフェロンを抑制する

特記事項

本研究成果は、米国の科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Science of the USA (PNAS)』(米国科学アカデミー紀要)(9月6日付け:日本時間9月7日)にオンライン掲載されました。
著者名:David Millrine, Mami Tei, Yohannes Gemechu, and Tadamitsu Kishimoto.
タイトル:Rabex-5 is a Lenalidomide targetmolecule that negatively regulates TLR induced type-1 interferon production.

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)は、日本が科学技術の力で世界をリードしていくため「目に見える世界的研究拠点」の形成を目指す文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI) に採択されています。

参考URL

免疫学フロンティア研究センター 免疫機能統御学研究室
http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/laboratory/immuneregulation/

用語説明

セレブロン

Rabex-5 に結合することで、その機能を奪う性質のタンパク質。Rabex-5はインターフェロン遺伝子に結合できなくなりタンパク質が多く作られ、リウマチなどの原因になる。

IL-6

(インターロイキン6):

大阪大学の岸本忠三研究室で発見された代表的な炎症性サイトカイン。特に関節リウマチの原因として有名であり、そのブロック剤は広く世界で治療薬として使われている。

TNF

Tumor Necrosis Facto(腫瘍壊死因子)の略であり、癌細胞を攻撃する炎症性サイトカイン。ただし、TNFが作られすぎるとリウマチなど炎症性自己免疫疾患を引き起こす。

炎症性サイトカイン

もともと外来微生物や癌細胞を排除するために免疫細胞から分泌されるタンパク質で、IL-6、TNF、インターフェロンなどがその代表。多く出すぎると自らの身体を攻撃しさまざまな自己免疫疾患を引き起こす。

Rabex-5

説転写因子と呼ばれるタンパク質の一種で、インターフェロンのDNAに結合することでインターフェロン(タンパク質)の発現を抑える性質がある。