2016年8月31日

本研究成果のポイント

・統合失調症患者の認知機能全般を推定し、かつ機能的転帰※1 の予測にも有効な簡略版を作成した。
・多施設で統一基準による認知機能評価が可能になり、全国規模で統合失調症患者の社会復帰促進に役立つ。

リリース概要

大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、福島大学人間発達文化学類の住吉チカ教授らは、統合失調症患者の認知機能及び機能的転帰(日常生活技能や社会機能の回復)を予測する簡便な手法(簡略版)を開発しました。具体的には、汎用の知能検査バッテリ※2 から、認知機能全般を予測でき、かつ日常生活技能や社会機能と強い関連を持つ最適な検査課題の組み合わせを見出しました。この簡略版の特長として、1)短時間(約10分程度)で統合失調症患者の認知機能全般を評価し得る、2)日常生活技能・社会機能状態も推定できる、3)国内多施設で統一した基準による認知機能評価が可能となることが挙げられます。

ヒトの知能は、広汎な認知機能領域の総体として捉えられています(図1)。その認知機能の評価に、汎用の知能検査バッテリの簡略版(検査課題数を減らす)がよく用いられますが、それらは、精神疾患患者を対象としたものではありませんでした。本研究で示す簡略版の活用により、全般的な認知機能のみならず、患者の機能的転帰を予測し、患者の社会復帰可能性についての有用な情報が得られる可能性があります。また、国内多施設で統一した基準による認知機能評価が可能になり、全国規模で統合失調症患者の社会復帰を促進すると期待されます。本研究成果は、米国科学雑誌Psychiatry Researchの電子版に8月9日(土)に掲載されました。

図1 知能の模式図

研究の背景

統合失調症は約100人に1人が発症する精神障害です。幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状、認知機能障害が中核的な症状であり、多くは慢性・再発性の経過をたどります。特に認知機能障害は、精神症状が軽快した後も残存することが多く、患者の自立した生活や社会への復帰を困難にしています。従って、統合失調症患者の認知機能を的確に評価することは、社会復帰を支える上で重要です。しかし今まで、施行時間・機能的転帰との関連まで視野に入れた簡便な認知機能評価法は開発されていませんでした。

研究の内容

大阪大学医学部附属病院神経科・精神科では統合失調症専門外来を行っており、この疾患の診断と治療に従事してきた橋本准教授と、統合失調症の認知機能・機能的転帰について研究を進めてきた住吉教授が、短時間の施行で知能(認知機能)全般及び機能的転帰を反映する簡便な方法を検討しました。そして、ウェクスラー式知能検査※3 の「類似」・「記号探し」2課題の組み合わせが最適であることを明らかにしました。この簡略版の施行時間は10分程度であり、また機能的転帰の予測における有用性も確認されました(図2)

図2 簡略版の成績と機能的転帰との関連

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で提示した簡略版は、日常生活技能や社会機能の基盤となる知能・認知機能(図3赤枠)を高い精度で評価し得るとともに、さらに上位の転帰(日常生活や地域社会への復帰)を予測できる可能性があります(図3矢印方向)。このような社会復帰可能性について情報提示は、患者の治療への動機付け・遵守や、その家族まで含めた生活の質の向上にも大きく貢献すると考えられます。

本研究は、国内の多施設共同研究体制(COCORO;特記事項参照)の枠組みで取り組まれたものであり、国内共通の評価基準を与えるものです。今後、国内多施設の大規模データによる統合失調症患者の認知機能分布を作成するなど、患者の社会復帰支援に有用な情報の発信が期待されます。

図3 機能的転帰の連続性

特記事項

本研究は、大阪大学医学部附属病院神経科・精神科にて、今までに集積してきた日本随一の精神疾患のリサーチリソース・データベース「ヒト脳表現型コンソーシアム」を活用して得られた成果です(図4)。臨床研究における中核的な拠点である大阪大学医学部附属病院では、トランスレーショナル・リサーチを推進していますが、神経科・精神科では、詳細な脳機能データの付随する血液サンプルを3000例以上集めています。ヒト脳表現型コンソーシアムを発展させ、COCORO(Cognitive genetics collaborative research organization:認知ゲノム共同研究機構)を設立しALL JAPANの共同研究体制で、統合失調患者の認知機能・知能の分布作成など、様々なプロジェクトに取り組んでいます。

図4 ヒト脳表現型コンソーシアム

用語解説

※1 機能的転帰
社会的予後、すなわち身辺管理・社交・仕事(就労・家事・学業)への復帰(獲得)まで広汎にわたる活動の回復・獲得を意味します(図3参照)

※2 検査バッテリ
複数の検査課題を組み合わせたものを指します。※3のウェクスラー式知能検査もその一つです。

※3 ウェクスラー式知能検査
ウェクスラー式知能検査は、13の検査課題から構成される検査バッテリで、国際的に最も広く使われている知能評価法です。客観的指標(IQや群指数)が確立していることが特徴です。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室分子精神医学研究グループHP
http://www.sp-web.sakura.ne.jp/lab/index.html

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