2016年8月4日

本研究成果のポイント

・安くて高効率なペロブスカイト太陽電池の開発が行われているが、性能を左右する因子の特定が難しく、高速かつ因子の特定が容易な評価法の開発が望まれていた。
・新たにデータ科学的統計法と高速スクリーニング法を融合し、素子の性能を決める因子を今までの10分の1以下の時間で評価することが可能となった。
・次世代太陽電池の実用化につながるエネルギー変換材料の開発と基礎物性評価への応用が期待される。

概要

JST戦略的創造研究推進事業の一環として、大阪大学大学院工学研究科佐伯昭紀准教授と同石田直輝(博士前期課程2年)、京都大学化学研究所若宮淳志准教授は、次世代太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池※1 (図1) において、生成した正孔を電極へ運ぶ正孔輸送材※2 の性能をデータ科学的統計法と組み合わせて高速に評価する新たな手法を開発しました。

軽く、低価格で高い変換効率を持つペロブスカイト太陽電池は、実用化に向けて世界中で研究が行われています。ペロブスカイト太陽電池は光を吸収し、電荷(正孔と電子)に変えるペロブスカイト層や、正孔と電子をそれぞれ陽極と陰極に分別するための正孔輸送層などから構成されます。太陽電池の光電変換効率※3 を高めるには、高性能な電荷輸送層の開発が重要です。しかし、素子の性能は多くの因子が関与してくるため、有機高分子(ポリマー)や低分子材料から成る正孔輸送層の開発と性能評価には、長い時間と繰り返し実験が必要でした。

今回、スマートフォンの通信などで使われているマイクロ波※4 と精密部品の生産で使われている短パルスレーザーを組み合わせた測定装置を用いて、ペロブスカイト発電層から正孔輸送層への正孔移動効率を直接評価できる方法を確立しました(図2) 。通常の素子評価に比べてより安定に、かつ10分の1以下の時間ですばやく評価することが可能です。さらに、データ科学的統計法※5 を融合することで、“性能を決める変数”を抽出することに成功しました(図3) 。今後は、この変数を基に、マテリアルズ・インフォマティクス※6 を用いた高性能な正孔輸送材の設計と開発に生かすことができます。

本研究成果は、アメリカ化学会誌「ASC Photonics」のオンライン速報版で公開されました。

研究の背景と経緯

現在、住宅屋上や大規模太陽光発電所で用いられている太陽電池の価格は、この20年でかなり下がってきましたが、化石燃料や他の自然エネルギーに対してコスト競争力を持つには、さらなる高効率化や低価格化が必要です。2012年に、変換効率が10%程度のペロブスカイト太陽電池と呼ばれる全固体型の有機・無機ハイブリッド太陽電池が登場しました(図1) 。その後の開発により、2016年現在では、無機太陽電池に匹敵する22%の変換効率が達成されています。しかもペロブスカイト太陽電池は、印刷・低温プロセス※7 への適応性により低価格・軽量化につながるため、次世代太陽電池として実用化が非常に期待されています。

近年、佐伯准教授の研究(参考論文1)によって、スマートフォンの通信や電子レンジなどで使われているマイクロ波の一種を用いたマイクロ波伝導度法※8 が、ペロブスカイト発電層の電気物性の評価に有効であることが分かりました。さらに、太陽電池素子と同じようにペロブスカイト発電層の上に正孔輸送層を塗布することで、マイクロ波信号が大きく変化することを見出しました(図2a) 。しかし、どのような材料が正孔輸送材として適しているのか、またマイクロ波測定の結果をどのように解釈して材料設計へ反映させるのか、不明なままでした。

研究の内容

今回、数種類の高分子を個別にペロブスカイト層に塗布し、マイクロ波法を用いてナノ秒~マイクロ秒※9 での電荷の時間挙動を評価しました。青緑色のレーザー光パルスを照射すると、ペロブスカイト中に瞬間的に正孔と電子が生成し、大きなマイクロ波信号が観測されます。しかし、正孔輸送層である高分子膜を塗布した2層膜ではマイクロ波信号は大きく減少し、減衰速度も速くなることが観測されました(図2b) 。このマイクロ波信号の減少量を解析することで、正孔移動効率※10 の時間変化を定量することに成功し、さらに詳しく解析することで、1つの材料につき4つの実験変数を抽出することができました。一方で、それぞれの高分子を正孔輸送層に使ったペロブスカイト太陽電池素子を作製し、素子性能を評価したところ、ペロブスカイト発電層そのものは同一であるにも関わらず、変換効率は1%程度から17%程度まで大きく異なりました。しかし、素子性能とマイクロ波信号の間にどのような関係があるのか、すぐには分かりませんでした。

そこで、実験変数を個々に扱うだけでなく、和や積などの組み合せを検討し、今回評価を行った8種類の高分子だけでなく、過去に行った低分子材料(参考論文2)のデータを加え、データ科学的統計法を用いて素子性能との相関を調べました。その結果、実験変数のうち、初期正孔移動効率と移動速度の積が、太陽電池素子の短絡電流密度に最も相関することが分かりました(図3) 。今回明らかになった実験指標を用いることで、今後の新規な正孔輸送材開発と評価が格段に容易になり、高効率化に向けた研究を加速できます。

本研究では高分子の種類によって正孔移動効率が異なり、その結果、素子性能が大きく変化することを解明しただけでなく、添加剤※11 の有無と大気への暴露時間が正孔移動効率に影響を与えていることも明らかにしました。ペロブスカイト太陽電池は大気中の水分に反応して劣化するだけでなく、光照射や酸素の影響で逆に時間とともに性能が向上する場合もあり、ペロブスカイト太陽電池の挙動の謎の1つとされてきました。しかし、本研究で、大気への暴露時間とともに正孔移動効率が徐々に上昇していることが初めて定量され、残された他の多くの謎を解く手がかりとなることが期待できます。

今後の展開

現在最も変換効率の高いペロブスカイト太陽電池は、人体や環境にとって有害とされる鉛を含んでいるため、鉛を使わない非鉛ペロブスカイト太陽電池の開発も大きな関心を集めています。しかし、現状では非鉛系の変換効率はかなり低く、耐久性や安定性にも課題が山積しています。また、非鉛ペロブスカイトと鉛ペロブスカイトとは光学特性・電気物性が異なるため、個々の材料に適した正孔輸送層と電子輸送層の開発を並行して行わなければなりません。そのため、本研究で確立した指標に加えてマテリアルズ・インフォマティクスを活用することで、新たな電荷輸送層の材料探索が効率的に行えます。

また、ペロブスカイト太陽電池には、長期劣化機構、ヒステリシス※12 などの多くの謎が残されています。本研究を足がかりとして、実験的な解を与え、次世代太陽電池をはじめとする太陽光を利用した多角的なエネルギー変換材料の性能診断にも展開することで、素子性能向上や基礎物性解明研究を加速することが期待されます。

特記事項

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)
研究領域:「理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築」(研究総括:常行真司東京大学大学院理学系研究科教授)
研究課題名:「超高速スクリーニング法を駆使したエネルギー変換材料の探索」
研究者:佐伯昭紀(大阪大学大学院工学研究科准教授)
研究実施場所:大阪大学大学院工学研究科
研究期間:平成27年12月~平成31年3月

本研究領域では、これら実験科学、理論科学、計算科学、データ科学の連携・融合によって、それぞれの手法の強みを生かしつつ相互に得られた知見を活用しながら新物質・材料設計に挑む先進的マテリアルズ・インフォマティクスの基盤構築と、それを牽引する将来の世界レベルの若手研究リーダーの輩出を目指します。

また、科学研究費補助金基盤研究(A)「非鉛ペロブスカイト太陽電池の探究と基礎物性の包括的解明(16H02285)」、新学術領域:元素ブロック「有機・無機太陽電池の異種界面ホール輸送材料の探索(15H00747)」の支援を受けて行われました。

論文タイトル

“Quantifying Hole Transfer Yield from Perovskite to Polymer Layer: Statistical Correlation of Solar Cell Outputs with Kinetic and Energetic Properties”
(ペロブスカイトから高分子層への正孔移動効率の定量:太陽電池性能とエネルギー・速度論特性との統計的相関)
DOI:10.1021/acsphotonics.6b00331

参考論文

1) “Improved Understanding of the Electronic and Energetic Landscapes of Perovskite Solar Cells: High Local Charge Carrier Mobility, Reduced Recombination, and Extremely Shallow Traps”
J. Am. Chem. Soc. 136 (2014) 13818-13825.
DOI: 10.1021/ja506936f

2) “Hole-Transporting Materials with a Two-Dimensionally Expanded π-System around an Azulene Core for Efficient Perovskite Solar Cells”
J. Am. Chem. Soc. 137 (2015) 15656-15659.
DOI: 10.1021/jacs.5b11008

参考図

図1 ペロブスカイト太陽電池の構造

図2 マイクロ波法による正孔移動効率の直接評価
a)マイクロ波法による測定概念図。レーザー光パルスが当たった瞬間に、電気の流れやすさに比例してマイクロ波の強度が時間的に変化する。
b)ペロブスカイト膜のみのときのマイクロ波信号(黒色)と、正孔輸送層を塗布したときのマイクロ波信号(青色と赤色)。青色と赤色では、正孔輸送層の高分子の種類が異なる。矢印の大きさが正孔移動効率に相当し、赤色(高分子A)の方が青色(高分子B)より高い。

図3 データ科学的統計の結果、得られた相関図。各点は1つの材料に対応。

用語解説

※1 ペロブスカイト太陽電池
ペロブスカイトはロシアの研究者ペロブスキーが発見した鉱物の結晶構造に由来し、カチオン、金属イオン、アニオンの比率が1:1:3で構成されている。2009年に、桐蔭横浜大学の宮坂力教授のグループによって液体電解質を使う色素増感太陽電池の色素として初めて導入され、その後2012年にイギリス・韓国のグループから、完全固体型のペロブスカイト太陽電池が報告された。従来の無機系太陽電池に比べて材料や製造コストが安く、軽量で曲がるものも作れるため、次世代型太陽電池として注目されている。

※2 正孔輸送材
ペロブスカイト層は太陽光を吸収し、すぐさま正孔と電子の電荷に分離する。太陽電池として電力を取り出すには、正孔と電子をそれぞれ陽極と陰極に分離しなければならない。ペロブスカイト層の上部に作製される正孔輸送材は、正孔のみを受け取って陽極へ輸送し、電子は通さない性質を持つ。したがって、正孔の受け取りと輸送の効率が100%に近いことが望ましい。

※3 変換効率
変換効率(PCE)は、太陽電池の陽極と陰極を電線でつないだ状態の電流値である「短絡電流(Jsc)」と電線を外した状態の電圧値である「開放電圧(Voc)」および電力(電流×電圧)を最大にする電流・電圧値から計算される「フィルファクター(FF)」の掛け算を、入射太陽光エネルギー(P)で割って求められる(PCE=Jsc×Voc×FF/P)。

※4 マイクロ波
ラジオ波、赤外線、可視光、X線、γ線と同じく電磁波の一種で波長はマイクロメートルからミリメートルの範囲。スマートフォンなどの通信や電子レンジには、1~3GHzの周波数のマイクロ波が用いられている。今回測定に用いたマイクロ波は9GHz(波長約4cm)程度。

※5 データ科学的統計法
非常に多くのデータを基に、回帰分析、機械学習、人工知能といった方法で傾向や特徴量を抽出する手法。

※6 マテリアルズ・インフォマティクス
計算科学・実験科学・データ科学を融合させ、帰納的あるいは演繹的な材料設計を通じて、求める機能・性能を満たす材料を効率的に探索する学問分野。

※7 印刷・低温プロセス
インクジェットのような印刷技術を用い、ロール紙印刷のように大量に生産する技術。基板には軽くて折り曲げられる高分子フィルムを使うため、高分子が損傷しない低温でのプロセスが必要になる。

※8 マイクロ波伝導度法
時間分解マイクロ波伝導度法。光や放射線パルスを有機物に照射すると短寿命の電荷が生じ、その電荷がマイクロ波と相互作用してマイクロ波のパワーが減少する。この現象を観察し電荷の時間挙動やナノスケールの電荷キャリアの局所的な振動速度を評価する手法。

※9 ナノ秒~マイクロ秒
ナノは10-9、マイクロは10-6を示し、1ナノ秒は10億分の1秒、1マイクロ秒は100万分の1秒。ペロブスカイトから正孔輸送層への正孔移動は、この時間領域内で起きている。

※10 正孔移動効率
ペロブスカイト層で生成した正孔のうち、正孔輸送層へ移動した割合。すべて移動した場合、100%となる。

※11 添加剤
正孔輸送層はそのままでは電気を流す電荷キャリアがほとんど存在しないため、添加剤を加えることで電荷キャリアを注入することができる。それにより導電性が向上し、電気を流しやすくなる。

※12 ヒステリシス
印加電圧のように外部から制御する変数を横軸、流れる電流を縦軸にとったとき、ある印加電圧から正の方向に上げた時と、そこからもとの電圧に下げた時とで、電流値が異なる現象。つまり、行きと帰りでグラフ上の経路が異なる現象を指す。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 物質機能化学コース 物性化学領域HP
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~saeki/cmpc/index.html

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