2016年7月27日

本研究成果のポイント

・1日に5時間以上テレビを視聴する人は、肺の血管に血栓がつまる肺塞栓症で死亡する確率が高いことを解明
・これまで、長時間のテレビ視聴と肺塞栓症で死亡することの因果関係とリスクを定量的に評価した研究はなかった
・長時間のテレビ視聴時には、1時間に1回程度立ち上がったりフットマッサージすることで、肺塞栓症を予防し肺塞栓症死亡リスクを低下させることが期待できる

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座(公衆衛生学)の磯博康教授らの研究グループは、長時間のテレビ視聴が肺塞栓症の死亡リスクの上昇と関連することを世界で初めて明らかにしました。

これまで長時間のテレビ視聴後に肺塞栓症を発症した例はいくつか報告されていますが、社会の集団の中でこの関連を定量的に調査した研究はありませんでした。

今回、磯博康教授らの研究グループは、JACC研究(Japan Collaborative Cohort Study)※1 の対象者のうちおよそ8万6千人を20年間追跡調査したデータを解析することでこの関連を示しました(図)。このことから、長時間のテレビ視聴時に1時間に1回程度立ち上がったりフットマッサージするように注意喚起することで、肺塞栓症の予防に繋がり、肺塞栓症死亡の低下が期待されます。

本研究成果は、米国心臓病学会の学術雑誌「Circulation」に、7月27日(水)に公開されました。

研究の背景

肺塞栓症という病気は下肢や骨盤内の血管に血液がうっ滞することで固まって血の塊である血栓を形成し、これが血流に乗って肺に運ばれ、肺動脈という血管を閉塞することで生じます。呼吸困難や胸痛など症状はさまざまですが、場合によっては致死的になります。飛行機の長時間フライト後に起こる肺塞栓症はエコノミークラス症候群として知られています。

肺塞栓症の発症率は日本では欧米に比べて低いとされていますが、近年は増加しているとの報告があります。日本では体を動かさない生活習慣が広がってきており、このことが増加の一因となっている可能性があります。長時間の座位でのパーソナルコンピュータの使用後に肺塞栓症で死亡した例の報告もあります。

研究の内容

今回の調査ではJACC研究の参加者のうち、1988年から1990年の間に日本全国45地域の40-79歳の86,024名を対象にアンケート調査し、1日あたりの平均テレビ視聴時間ほか生活習慣に関する情報を収集しました。その後、およそ20年間にわたって参加者の死亡状況を追跡調査し、2009年末までで59名の肺塞栓症による死亡を確認しました。

これらのデータを解析し、テレビ視聴時間が1日あたり2.5時間未満の人に比べて、2.5~4.9時間の人では肺塞栓症による死亡リスクが1.7倍であり、5時間以上では2.5倍になるという結果が得られました(図)。また、テレビ視聴時間2時間につき40%の肺塞栓症死亡リスクの増加を認めました。これらの関連は、参加者の生活習慣や健康状況を統計学的に考慮した後の数値です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回の調査結果は、テレビを見ているときに足を動かしていないことが主な原因であると考えられます。したがって、肺塞栓症の予防にはエコノミークラス症候群と同様の方法が推奨されます。長時間にわたってテレビ視聴等の足を動かさない状況が続くときは、1時間に1回は立って、5分程度歩いたり、ふくらはぎをマッサージしたりするとよいでしょう。水分摂取を行って脱水を予防することも肝心です。今回の調査結果から、テレビの長時間視聴時に無意識のうちに下肢が動かずに血流がうっ滞していることがあるということを注意喚起することによって、死亡リスクの低下が期待できます。

今回の研究で解析されたデータは、昨今のようにパーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット端末の利用が盛んになる前のものです。したがって、これらの新しいテクノロジーの利用状況や肺塞栓症との関連の調査も必要です。

特記事項

本研究成果は、2016年7月27日(水)に米国科学誌「Circulation」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:Watching Television and Risk of Mortality From Pulmonary Embolism Among Japanese Men and Women: The JACC (Japan Collaborative Cohort) Study
著者名:Toru Shirakawa, Hiroyasu Iso, Kazumasa Yamagishi, Hiroshi Yatsuya, Naohito Tanabe,Satoyo Ikehara, Shigekazu Ukawa, Akiko Tamakoshi

なお、本研究はJACC研究の一環として行われました。JACC研究は文部科学省(当時文部省)の科学研究費の助成を受け、青木國雄名古屋大学教授(当時)を中心に多機関が協力して開始されました。

研究者のコメント

今回の研究で解析されたデータは、昨今のようにパーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット端末の利用が盛んになる前のものです。したがって、これらの新しいテクノロジーの利用状況や肺塞栓症との関連の調査も必要です。今回の調査結果から、われわれはテレビの長時間視聴時に意識せずに下肢が動かずに血流がうっ滞していることがあるということの、国民への注意喚起が必要であると考えます。

用語解説

※1 JACC研究(Japan Collaborative Cohort Study)
JACC研究は1988年に開始された大規模な医学研究です。約12万人の一般の方々の協力を得て、日本人の生活習慣が疾病とどのように関連しているかを明らかにすることを目的としています。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座(公衆衛生学)HP
http://www.pbhel.med.osaka-u.ac.jp/

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