2016年7月15日

本研究成果のポイント

・ガスセンサ素子を従来の1/10以下の時間で作製し、世界最高性能の呼気センサを短時間かつ低コストで製造することに成功
・原料溶液を単純に塗って焼くだけで、ひげ状のナノ材料を基板に直接成長させる方法を発見
・呼気による健康状態の把握と重大疾患の早期発見に貢献する携帯用呼気センサへの応用に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の菅原徹助教らは、ヘルスケアを目的として、呼気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)※1 を検出するナノ構造のガスセンサ素子(図1a) の製造時間を従来の1/10以下まで短縮して作製しました。

半導体式ガスセンサ※2 は、ガス(分子)が半導体材料の結晶表面につくことで、電気抵抗が下がり、ガスを探知できます。そのため、ガス(呼気)センサには、ナノ材料の大きな比表面積※3 が必要とされます。従来のガスセンサは、複雑な方法で、一旦、ナノ材料を合成し、それを基板に塗ったあと焼いて製造していました。菅原助教らは、それらの複雑な手法を改良し、原料を基板に塗って焼くだけで、ガスセンサを作製することに成功しました。

このガスセンサのセンシング応答特性※4 は、世界中で報告されている研究成果と比較してトップクラスの性能でした。この研究成果は、ガスセンサをこれまでより短時間かつ低コストで製造できることから、呼気による健康検診の研究開発に応用が期待されます。

図1 aガスセンサ素子の外観写真、bガラス基板上に成長したひげ状の酸化モリブデンナノ粒子(走査型電子顕微鏡像).

研究の背景

人の呼気(吐息)に含まれる非常に低い濃度のガスを検出することで、健康診断や重い病気の早期発見・治療につなげる研究が進められています。ナノ材料を使ったガスセンサは、多くの種類のガスを低い濃度でも検出できることから、ヘルスケア関連の電子機器に搭載が期待され、活発に研究開発が進められています。しかし、従来のガスセンサ素子にナノ材料を使うには、ナノ材料の合成→洗浄→均一分散(溶媒)→塗布(基板)→焼結など多くの複雑な手順が必要であり、現状の呼気センサの作製技術は、非常に多くの手間と時間がかかり、製造コストが膨らむことが懸念されています。

研究成果の内容

このような背景から、菅原助教らの研究グループは、ナノ材料の合成とガスセンサ素子の作製を同時に達成する手法を考案し、それを用いたガスセンサを世界で初めて試作することに成功しました。

原料の溶液を基板に塗って焼くと、ひげ状の酸化モリブデン(MoO3)が縦方向に成長したナノ構造(ナノロッドアレイ)を創り出すことができます(図1b) 。そのMoO3ナノロッドアレイは、原料溶液に使う試薬を替えることや、焼く時間を調節する(1-15分)ことで、直径は同じ(約10nm)でも、長さを約20-600nmの間で自在に調整することができます(図2) 。このMoO3ナノロッドアレイを使って、ガスセンサを作製し(図1a) 、センサ特性を評価する装置(図3) で、呼気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)ガスについてセンサ特性を調べました。このMoO3ガスセンサのガス応答性は、20-30秒ほどで、世界のチャンピオンデータと比べて同じ程度の時間でした。さらに、このガスセンサは、4種類のガスを分別する選択性を持っています。

図2 各種長さを制御したMoO3ナノロッドの断面SEM像
a 約70 nm 、b 約200 nm、c 約500 nm、d 約600 nm

図3 MoO3ナノロッドアレイガスセンサ特性測定装置の概略図。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ヘルスケア関連の需要が増加していることから、健康状態や病気を呼気により調べるセンサの研究開発は活発で、飲酒検査機などは既に実用化されています。最近では、癌や糖尿病といった生活習慣病をできるだけ簡単に早く発見するための呼気センサも開発されていますが、それらは大型で高価な装置が多いです。この研究の成果によって、高感度のガスセンサを小型で安く製造できれば、病気を早期に発見できる携帯型呼気センサが私たちの日常に広く普及する可能性が期待できます。

特記事項

【1】本研究成果は、2016年5月27日(金)に、学術雑誌 Advanced Materials Interfaces にオンライン掲載されました(7月22日出版)。また、7月22日発行予定の掲載号で中表紙に選ばれました。
論文タイトル:Diverse Adsorption/Desorption Abilities Originating from the Nanostructural Morphology of VOC Gas Sensing Devices Based on Molybdenum Trioxide Nanorod Arrays
著者名:S. Cong, T. Sugahara, T. Wei, J. Jiu, Y. Hirose, S. Nagao, and K. Suganuma
論文リンク:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/admi.201600252/abstract

【2】関連の研究成果は、2015年7月27日(月)に、学術雑誌Crystal Growth and Design、15巻、9号、4536-4542項に掲載されました。また、この論文で報告した酸化モリブデン(MoO3)ナノロッドのX線回折データは、ICDD国際回折データセンターのXRDデータベースに掲載が決定しています。
論文タイトル:Growth and Extension of One-Step Sol - Gel Derived Molybdenum Trioxide Nanorods via Controlling Citric Acid Decomposition Rate
著者名:S. Cong, T. Sugahara, T. Wei, J. Jiu, Y. Hirose, S. Nagao, and K. Suganuma
論文リンク:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.cgd.5b00790

【3】本研究および関連研究成果は、2016年6月23日(木)に、日本経済産業新聞の8頁に掲載されました。
タイトル:呼気センサー 作成短縮 阪大、半導体製 糖尿病把握など

なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の「研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)」、「科研費 挑戦的萌芽研究(16K13637)」、および文部科学省(MEXT)の「ナノマクロ物質・デバイス・システム創製アライアンス事業」の一環として行われました。

研究者のコメント

本研究は、呼気センサを携帯電話などの様に、「持ち運べるヘルスケア」といった未来があります。ですが、実用化されるためには、センサ装置の安定性、信頼性など多くのハードルが立ちはだかり、その度に研究・開発が要求されるでしょう。今後は、我々だけでなく多くの開発者たちの手を経て、実用化への道を歩むことになると思います。その過程で、採算などの問題から、実用化を断念しなければならない状態になるかもしれません。せっかく発見した実用化の種ですので、開発半ばで断念することのないよう、努力して行きたいと思います。

用語解説

※1 揮発性有機化合物(VOC)
常温常圧で大気中へ容易に揮発する有機物質の総称。例えば、エタノールやメタノール、アセトンなど。

※2 半導体式ガスセンサ
酸化物など材料の酸化還元状態によって、抵抗値が増減する現象を利用したガスセンサの総称。

※3 比表面積
単位重量あたりにしめる表面積。例えば、直径数ミリメートルの鉄球の表面積に比べて、同じ重量の鉄ナノ粒子集合体の合計の表面積は、1000億倍程度広い。

※4 センシング応答特性
ガスを検出するまでの応答時間と検出後元の状態に戻るまでの回復時間。

参考URL

大阪大学産業科学研究所先端実装材料研究分野
http://www.eco.sanken.osaka-u.ac.jp/

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