2016年5月18日

本研究成果のポイント

・日本人の約1割が抱える慢性腎臓病の病気進展に関与するD-アミノ酸※1 群を同定
・特定のD-アミノ酸の血中濃度によって、腎疾患の進展速度を予測できることが判明
・腎臓病の進行を抑えることで透析導入に至ることを抑制するだけでなく、糖尿病などの生活習慣病や心不全などの循環器疾患の予後改善などにも期待

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(腎臓内科学)猪阪善隆教授、医学部附属病院老年・腎臓内科 木村友則医員(研究当時)、九州大学薬学部 浜瀬健司准教授、三次百合香助教、府立急性期・総合医療センター腎臓・高血圧内科 林晃正主任部長らの研究グループは、これまで有効な方法のなかった慢性腎臓病の予後推定に、血中に微量しか存在しないD-アミノ酸の測定が有効であることを発見しました。

本研究で発見した特定のD-アミノ酸を測定することで、腎臓病の進行を抑制し透析導入に至ることを抑制でき、腎臓病のテイラーメイド治療※2 、新規治療法開発、進展のメカニズムの解明が期待されます。また、腎臓病に合併しやすい糖尿病や高血圧をはじめとする生活習慣病、心不全や心筋梗塞などの循環器疾患の予後改善なども期待されます。

本研究成果は、日本時間5月18日(水)18時に英国科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版で公開されました。

研究の背景

慢性腎臓病は世界的な問題であり、日本においても人口の1割近くが慢性腎臓病であると推定されています。腎臓病が進行すると心不全、心筋梗塞を代表とする循環器疾患など致死的疾患の合併症のリスクが上昇し、合併症の治療も必要となります。また、最終的に血液、腹膜透析療法が必要になりますが、日本の現状として毎年3万人以上の慢性腎臓病患者に透析療法が導入され、32万人の透析患者がいます(図1)。透析療法は患者の生活の質を大きく落とすものであり、また医療費を切迫する問題でもあります。そのため、慢性腎臓病を進展させないことが極めて重要な課題でありますが、現在のところ、慢性腎臓病の予後を推定する有効な方法はありません。

一方で、アミノ酸にはD体とL体のキラル体(鏡像異性体)※3 が存在しますが、我々の体内にはL体しか存在しないと長い間考えられてきました。しかし、近年、分析技術の進歩とともに様々なD-アミノ酸が発見されています。D-アミノ酸は、ごく微量しか存在しませんが、これらをフェントモル(fmol)※4 という感度で測定することが可能となっています(図2)。そこで、この技術を応用して、腎疾患の進展を予測することが出来るのではないかと考え、D-アミノ酸を一斉に測定するメタボローム解析※5 を用いて新たなバイオマーカーの探索を行いました。

図1 増加を続ける透析患者数は社会、医療、経済上の大きな問題となっている。

図2 従来のアミノ酸分析とキラルアミノ酸分析法の違い
D体とL体を分離して測定することで、微量なD体を検出可能となった (九州大学創薬育薬産学官連携分野ホームページより一部抜粋) 。

研究の成果

研究グループは、慢性腎臓病患者の血中のD-アミノ酸を、九州大学薬学部 浜瀬健司准教授らが開発したメタボローム解析装置(2次元HPLCシステム※6 )を利用して測定し、さらに患者の透析開始時期を追跡することにより、腎疾患の進展に関するキラル体を検討しました。その結果、16種類のD-アミノ酸が腎臓病患者の血中から測定されました。中でも、D-セリンとD-アスパラギンの血中濃度によって、腎疾患の進展速度を予測することができることが判明しました(図3)。血中濃度の違いによって、腎疾患進展リスクが2-4倍程度変動するため、これらを組み合わせて測定することで、正確に患者の予後を推定できる可能性があります(図4)

本研究は、これまで有効な予測法がなかった腎疾患の進展を予測することを可能とする画期的な方法です。さらに、腎臓病に合併しやすい糖尿病や高血圧をはじめとする生活習慣病、心不全や心筋梗塞などの循環器疾患などは、慢性腎臓病の重症度により予後が大きく変動するため、これらの疾患領域においても患者の予後を改善する可能性が高いです。また、同定された代謝物をマーカーとして、患者に合わせたテイラーメイド医療を提供すること、新規治療薬の効果判定に利用することも、腎臓病の新たなメカニズムに迫ることも可能です。

図3 血中D-アミノ酸濃度の違いによって、腎臓病患者の透析開始時期が予測できる。

図4 患者血中から検出されたD-アミノ酸

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

慢性腎臓病と透析療法は世界的に社会、医療、経済上の大きな問題となっています。本技術を応用することにより慢性腎臓病の進展を抑制できれば、この問題解決の一助となります。具体的には、腎臓病の進行を抑制し透析導入に至るのを抑制したり、腎臓病のテイラーメイド治療、新規治療法開発、進展のメカニズムの解明が期待されます。また、生活習慣病や循環器疾患等における診療や、新規治療法開発にも利用できます。

特記事項

本研究成果は、日本時間5月18日(水)18時に、英国科学雑誌「Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)」オンライン版に掲載されました。

論文タイトル:Chiral amino acid metabolomics for novel biomarker screening in the prognosis of chronic kidney disease
著者:Tomonori Kimura, Kenji Hamase, Yurika Miyoshi, Ryohei Yamamoto, Keiko Yasuda, Masashi Mita, Hiromi Rakugi, Terumasa Hayashi, and Yoshitaka Isaka

用語説明

※1 D-アミノ酸
アミノ酸はタンパク質の構成要素であり、ほとんどのアミノ酸にはキラル体(鏡像異性体)であるL-アミノ酸、D-アミノ酸が存在する。しかし、自然界に存在するアミノ酸は、ほとんどがL-アミノ酸のみである。最近の技術の進歩により、自然界にもD-アミノ酸がごく微量存在し、様々な生理活性を持つことが分かってきた。今回注目しているD-セリンとD-アスパラギンは各々、L-セリンとL-アスパラギンのキラル体である。

※2 テイラーメイド医療
患者の個人差に合わせて最適な医療を提供すること。多くは遺伝子診断による情報に基づいて行われることを指していたが、体内の代謝物はその時々の体内の状態を反映していることから、メタボロームに基づくテイラーメイド医療は、さらに高度なものになる可能性がある。

※3 キラル体(鏡像異性体)
3次元の物体などが、その鏡像と重ね合わすことが出来ない性質を持つ物質。つまり、鏡に映った際に、違うものとして見える物質のこと。例えば、L-アミノ酸は、鏡に映すと別の物質であるD-アミノ酸として見えるが、L-アミノ酸、D-アミノ酸は、お互いがキラル体である。

※4 フェントモル(fmol)
10-15モルに相当するごく微量の物質量。

※5 メタボローム解析
生体内には代謝によって多数の代謝物質が存在するが、この代謝物の総体をメタボロームと呼び、メタボロームを網羅的に測定することをメタボローム解析と呼ぶ。日本には多数の優れたメタボローム解析技術が存在するが、今後、これを医療応用していくことが重要な課題である。

※6 2次元HPLCシステム
HPLC (high performance liquid chromatography、高速液体クロマトグラフィー)は、ある物質に含まれる成分を成分ごとに分ける装置であるが、アミノ酸をL-体、D-体に分けるには一つのHPLCシステムのみでは不十分であった。そこで2つのHPLCシステムを組み合わせた2次元HPLCシステムが開発され、この分離が可能となった。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(腎臓内科学)HP
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/index.html

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