2016年5月6日

本研究成果のポイント

・C型肝炎ウイルス(HCV)の増殖を抑制し、肝病態を改善できるメカニズムを発見
・SPP※1 という酵素を阻害すると、HCVの粒子産生が減少し、肝病態が改善することをマウスモデルで確認
・SPP活性阻害剤を利用した、新たなC型肝炎治療薬開発に期待

概要

大阪大学微生物病研究所の岡本徹助教と松浦善治教授らの研究グループは、我が国の肝癌の7割を占めるウイルス性肝癌の主要な原因ウイルスである、C型肝炎ウイルスの増殖を抑制し、肝病態を改善できる新しい薬剤標的を同定し、その薬効を発見しました。

本研究成果は、Nature Communications (電子版) 2016年5月4日(水)(英国時間)に掲載されました。

研究の背景

全世界では約2億人がC型肝炎ウイルス(HCV)に感染しており、このウイルスに感染すると、脂肪肝、肝線維化、そして肝癌を発症します。最近、HCVの複製酵素を標的とした非常に有効な薬剤が開発され、HCVを駆除できるようになりましたが、耐性ウイルスの出現や、ウイルス排除後の肝癌の発症等の多くの問題が残されています。HCV粒子を形成するコア蛋白質が、感染した宿主細胞のシグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)という酵素で切断されることが、ウイルス粒子の形成や肝病態の発症に重要であることが知られていましたが、その詳細は不明でした。

本研究成果

本研究グループは、アルツハイマー病の治療薬として開発中のガンマセクレターゼ阻害剤※2 の中から、SPPを阻害する化合物を見つけました。これらの薬剤や遺伝子編集技術を応用した検討から、SPPで切断されない未成熟なコア蛋白質は、TRC8※3 という酵素によって認識され、速やかに分解されることを発見しました。この分解経路を抑制すると、小胞体ストレス(ERストレス)※4 によって細胞障害が強く誘導されることから、この分解経路は新しい蛋白質の品質管理機構であると考えられます。また、SPPの活性を阻害すると、HCVの粒子産生が著しく減少し、インスリン抵抗性や脂肪肝等の肝病態が改善することをマウスモデルで確認しました。

実験の手順

本研究では、培養細胞を使ってHCVコア蛋白質の切断を阻害する化合物を探索し、ガンマセクレターゼ阻害剤の中から、SPPを阻害できる化合物を見いだしました。この化合物をHCVに感染した細胞に添加すると、ウイルスの増殖が顕著に抑制されました。また、SPPで切断されなかった未成熟なコア蛋白質は、TRC8という酵素によって認識されて速やかに分解されました。

HCVのコア蛋白質を発現する遺伝子改変マウスは、慢性C型肝炎の患者にも観察される、インスリン抵抗性や脂肪肝といった脂質代謝異常を示します。このマウスにSPPの阻害剤を投与すると、これらの脂質代謝異常が改善されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回の研究により、SPP阻害剤が新しいC型肝炎治療薬となりうることが示されました。これまでに世界中の企業で開発されてきた、多くのガンマセクレターゼ阻害剤の中には、SPPの活性を特異的に抑制できるものが含まれており、これらをリード化合物としたSPP阻害剤の開発が考えられます。また、今回同定されたSPP/TRC8を介した小胞体の蛋白質の品質機構は、他の疾患への関与も考えられるため、幅広い疾患の治療薬開発にも期待されます。

特記事項

本研究成果は、Nature Communications (電子版) 2016年5月4日(水)(英国時間)に掲載されました。

掲載論文

[論文タイトル]:TRC8-dependent degradation of hepatitis C virus immature core protein regulates viral propagation and pathogenesis.
[著者]:Sayaka Aizawa*, Toru Okamoto*, Yukari Sugiyama, Takahisa Kouwaki, Ayano Ito, Tatsuya Suzuki, Chikako Ono, Takasuke Fukuhara, Masahiro Yamamoto, Masayasu Okochi, Nobuhiko Hiraga, Michio Imamura, Kazuaki Chayama, Ryosuke Suzuki, Ikuo Shoji, Kohji Moriishi, Kyoji Moriya, Kazuhiko Koike and Yoshiharu Matsuura
*These authors equally contributed to this work.

用語解説

※1 SPP(シグナルペプチドペプチダーゼ)
小胞体膜に存在する蛋白質で、基質となる蛋白質の膜貫通領域で切断する機能を持つ酵素。プロラクチンやMHCクラスIなどが基質として知られている。

※2 ガンマセクレターゼ阻害剤
SPPと活性中心が良く保存されている蛋白質分解酵素の一つ。アミロイド前駆体蛋白質を切断し、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβを産生する。したがって、多くの製薬会社からガンマセクレターゼ阻害剤が開発されたが、アルツハイマー病への薬効が確認できず、現在は使用されていない。

※3 TRC8
特定の蛋白質を認識し、ユビキチンと呼ばれる小さな蛋白質を共有結合で付加する酵素。ユビキチンを付加された多くの蛋白質は分解される。

※4 小胞体ストレス(ERストレス)
小胞体で合成された蛋白質が正しく折畳められなくて蓄積して、細胞へ障害を及ぼすこと。

図内 プロテアソーム
複数の蛋白質からなる複合体で、不要となった蛋白質を分解する。

図内 ユビキチン化
蛋白質にユビキチンが共有結合すること。ユビキチン化された蛋白質は分解されるか、他の分子に情報を伝える等の新たな機能が付与される。

参考URL

論文掲載先(Nature Communications)
http://www.nature.com/ncomms/2016/160504/ncomms11379/full/ncomms11379.html

大阪大学微生物病研究所 分子ウイルス分野
http://www-yoshi.biken.osaka-u.ac.jp/

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