2016年4月26日

本研究成果のポイント

・病原微生物の中には、免疫細胞が作る抗体の機能を無効化し、免疫から逃れるものの存在が知られていた
・今回、病原微生物に壊された抗体を認識し、病原微生物を退治する新たな生体防御システムを発見
・本研究成果によりマイコプラズマやインフルエンザなど、様々な感染症の治療・予防法開発に貢献することに期待

概要

大阪大学 免疫学フロンティア研究センター/微生物病研究所の平安恒幸助教と荒瀬尚教授らの研究グループは、病原微生物の侵入を検知する新規のヒトレセプター(受容体)を発見し、ヒトの生体防御に働くことを世界で初めて突き止めました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

感染症は未だに人類にとって脅威でありますが、感染症を引き起こす病原微生物に対する生体防御については十分にわかっていませんでした。免疫は生体内に入ってきた病原微生物を排除する生体防御システムですが、その分子メカニズムの一つとして病原微生物を認識する抗体※1があります。ところが、ある種の病原微生物は、抗体を切断して抗体の機能を無効にすることで免疫から逃れていることがわかりました。このような病原微生物の免疫逃避機構に対して生体防御システムはどのような対抗手段をとっているのかは、これまで明らかではありませんでした。

本研究では、マイコプラズマ菌※2、レジオネラ菌※3、肺炎球菌※4、インフルエンザ菌※5、カンジダ※6等の病原微生物が壊した抗体を認識する新規のレセプター※7LILRA2を発見し、それが生体防御に働くことを世界で初めて明らかにしました(下図) 。実際に、LILRA2が壊れた抗体を認識することで細菌の増殖が抑えられることが判明しました。さらに、中耳炎※8、炎症性粉瘤※9、蜂窩織炎等※10のヒトの細菌感染局所において破壊された抗体がLILRA2を介して免疫システムを活性化させることがわかりました。これらの結果から、LILRA2を介した生体防御システムは、病原微生物により壊された抗体を認識して病原微生物を退治していることが明らかとなりました。

本研究の成果により、LILRA2をコントロールすることで感染症の治療・予防法開発に貢献することが期待されます。

研究の詳細な説明

1.背景

病原微生物は、様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています。その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断・分解することが知られております。抗体が切断・分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります。このような病原微生物の免疫逃避機構に対して、宿主がどのような対抗手段をとっているのかはこれまで明らかになっていませんでした。ところが、本研究では、切断・分解された抗体を認識するこれまでに知られていなかったレセプターが宿主に存在していることがわかり、宿主は病原微生物の免疫逃避機構に対抗していることが判明しました。

2.研究の手法と成果

免疫細胞が病原微生物をどのように認識して生体防御に関わっているかを調べるために、マイコプラズマ菌を感染させたヒト細胞株を病原微生物感染モデルとして使用して解析した結果、今まで機能未知の免疫活性化レセプターであるLILRA2がマイコプラズマ菌感染細胞を認識することを発見しました。さらに、マイコプラズマ感染細胞上でLILRA2に認識される分子を解析したところ、LILRA2はマイコプラズマ菌が産生するタンパク質分解酵素で切断された抗体を認識することがわかりました(図1) 。マイコプラズマ菌以外でもレジオネラ菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、カンジダもタンパク質分解酵素を産生して抗体を切断しました(図2)。また、レジオネラは免疫細胞に感染して細胞内で増殖しますが、免疫細胞に発現するLILRA2が切断された抗体を認識すると細胞内においてレジオネラ菌の増殖が阻害されることが判明しました(図3)。さらに、中耳炎、炎症性粉瘤、蜂窩織炎等のヒトの細菌感染局所では抗体がタンパク質分解酵素で切断され、LILRA2発現細胞を活性化させるということが明らかとなりました(図4)

以上のように、本研究ではLILRA2が病原微生物によって切断された抗体を認識して生体防御に働いているということを世界で初めて発見しました。つまり、病原微生物が抗体を切断・分解するという免疫逃避機構は、LILRA2を介した宿主の生体防御システムによって攻略されていることが考えられます(図5)

3.今後の期待

本研究により、今まで機能が不明であったLILRA2という免疫レセプターが病原微生物に対する生体防御に働いていることが明らかとなりました。従って、LILRA2の機能をコントロールする薬剤等を開発することができれば、感染症において効果的な免疫応答を誘導し治療に役立つことが考えられます。また、LILRA2の機能を活性化させる薬剤は、感染症を予防するための効果的なワクチン開発にも役立つと思われます。今後、様々な感染症におけるLILRA2の役割について研究を進めることによって、感染症の治療・予防法開発に貢献することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Microbiology』(日本時間4月26日(火)午前0時)にオンライン掲載されました。
【論文タイトル】Microbially cleaved immunoglobulins are sensed by the innate immune receptor LILRA2.
【著者】Kouyuki Hirayasu, Fumiji Saito, Tadahiro Suenaga, Kyoko Shida, Noriko Arase, Keita Oikawa,Toshifumi Yamaoka, Hiroyuki Murota, Hiroji Chibana, Ichiro Nakagawa, Tomoko Kubori, Hiroki Nagai, Yuji Nakamaru, Ichiro Katayama, Marco Colonna, Hisashi Arase

本研究は、大阪大学、千葉大学、京都大学、北海道大学、ワシントン大学医学部との共同で行ったものです。

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)は、日本が科学技術の力で世界をリードしていくため「目に見える世界的研究拠点」の形成を目指す文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI) に採択されています。

参考図

図1 LILRA2は細菌によって切断された免疫グロブリンを認識する
LILRA2のFc融合タンパク質がマイコプラズマ感染B細胞株に結合した。免疫沈降および質量分析を行ったところ、LILRA2が認識するマイコプラズマ感染B細胞上のリガンドは免疫グロブリン(IgM)であることが明らかとなった。マイコプラズマ感染B細胞の免疫グロブリンは切断されていた。

図2 様々な病原微生物が免疫グロブリンを切断する
レジオネラとカンジダは強く、インフルエンザ菌と肺炎球菌は弱いながら免疫グロブリン(IgM)を切断した。

図3 LILRA2はリガンドを認識してレジオネラの増殖を抑制する
単球に感染したレジオネラは、単球に発現するLILRA2がリガンドを認識して活性化することにより増殖抑制される。

図4 ヒトの細菌感染局所において切断された免疫グロブリンはLILRA2発現細胞を活性化する。
(a) 肺炎球菌が感染した中耳炎や黄色ブドウ球菌が感染した蜂窩織炎などの患者さんの膿汁における免疫グロブリン(IgMとIgG)は、切断されていた。
(b) 免疫グロブリンが切断された患者さんの膿汁はLILRA2の発現細胞(LILRA2レポーター細胞)を活性化した。LILRA2のレポーター細胞はリガンドを認識すると活性化し、GFPを発現する。

図5 本研究により明らかとなった病原微生物に対する生体防御システム
本来、抗体は病原微生物に対する生体防御として働いているが、病原微生物はこの抗体免疫から逃れるために、抗体を分解する酵素を進化させたことが考えられる。一方で、宿主側はこの病原微生物の免疫逃避機構に対抗するためにLILRA2を進化させて壊れた抗体を認識することで生体防御に働いていることが明らかとなった。

用語解説

※1 抗体
病原微生物の分子に特異的に結合する免疫グロブリンというタンパク質。抗体は病原微生物に結合することで目印となって、様々な免疫応答が起きる。免疫グロブリンの種類としてはIgM, IgG, IgAなどが知られている。

※2 マイコプラズマ菌語
細胞壁を持たない非常に小さな細菌。マイコプラズマ肺炎を引き起こす細菌もある。

※3 レジオネラ菌
レジオネラ症と呼ばれる肺炎を引き起こす細胞内寄生細菌。環境中に存在しており、エアロゾルを介して感染する。

※4 肺炎球菌
肺炎や中耳炎などを引き起こす細菌。細菌性髄膜炎など重篤な病気を引き起こすこともある。

※5 インフルエンザ菌
肺炎や中耳炎などを引き起こす細菌であり、インフルエンザウィルスとは異なる。細菌性髄膜炎など重篤な病気を引き起こすこともある。

※6 カンジダ
カンジダ症を引き起こす真菌の一つ。口腔内や膣内等に常在しており、免疫機能が低下している時などにカンジダ症を発症する。

※7 レセプター(受容体)
細胞内外の情報を受け取るために細胞が発現させているタンパク質。レセプターがリガンド(レセプターに結合する分子)を認識することで細胞は活性化もしくは抑制されるなど様々な反応をする。

※8 中耳炎
感染等によって中耳に炎症が起こる疾患。起炎菌として肺炎球菌やインフルエンザ菌が多い。

※9 炎症性粉瘤
感染等によって炎症が生じた皮膚のできものの一種。

※10 蜂窩織炎
細菌が皮膚の深い所に感染して炎症がびまん性に広がる化膿性の病気。

参考URL

大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫化学研究室
http://immchem.biken.osaka-u.ac.jp/

論文掲載先(Nature Microbiology)
http://www.nature.com/articles/nmicrobiol201654

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