2016年3月18日

本研究成果のポイント

・重度の精神運動発達の遅れ・難治性てんかんの原因遺伝子PIGG※1 を発見
・PIGGは近年注目の疾患“先天性GPI欠損症※2 ”の原因遺伝子のうちの一つで、脳神経系の発達に極めて重要
・原因不明の精神運動発達障がいがPIGG欠損症と診断される可能性が広がることに期待

リリース概要

大阪大学微生物病研究所の村上良子准教授らは、ジュネーブ大学(スイス)・リーズ大学(英国)・山形大学・横浜市立大学の研究グループとの共同研究により、重度の精神・運動発達の遅れとてんかんを呈する患者の家族、3家系5名を解析した結果、共通の遺伝子PIGGの変異が病気の原因であることを明らかにしました。PIGGはGPIアンカー※3 という糖脂質の合成過程で働く酵素の一つですが、今回の研究でPIGGが脳神経系の発達に極めて重要であることが明らかになりました。

難治性てんかんや精神運動発達の遅れを来している病気の中には未だに原因がわからない疾患が多くあります。その原因の一つとしてPIGG遺伝子の変異が発見されたので、いままで診断がついていなかった疾患がPIGG欠損症と診断される可能性があります。またこの研究成果によって、多くの医療関係者や患者の方の家族に、先天性GPI欠損症(IGD)という疾患を知っていただき検査を受けていただくきっかけになることが期待されます。

本研究成果は米国科学誌American Journal of Human Geneticsの電子版に2016年3月17日(木)12時(米国東部時)に公開されました。

研究の背景

2006年に村上准教授らがイギリスのグループとの共同研究で最初の先天性GPI欠損症(IGD, Inherited GPI Deficiency)、PIGM欠損症を発表した後、次世代シークエンサーを使った解析により2010年以降次々と報告され、IGDは発達の遅れとてんかんを来す新しい遺伝性疾患として脚光を浴びています。

GPIアンカーはタンパク質を細胞表面につなぎとめる、すなわちアンカーする糖脂質で、細胞内で多くのステップを経て合成され、タンパク質に付加されます(図1)。付加された後も様々な修飾を受けて細胞表面に運ばれます。このような形のタンパク質のグループをGPIアンカー型タンパク質と呼んでいますが、ほ乳類では150種以上知られています。肝機能検査で測定されるアルカリホスファターゼや腸がんや膵がんのマーカーとして使われるCEAもこのグループのタンパク質です。GPIアンカーの生合成や修飾に関わる遺伝子は27個あり、これらの遺伝子に変異が起こって全身の細胞でGPIアンカーが合成されないと、150種もの重要なタンパク質が欠損することになり、生きることができません。今までに27種の遺伝子のうち13種の遺伝子の変異によるIGDが報告されてきましたが、これらはいずれも完全欠損ではなく変異によって機能が低下した部分欠損症で、変異によって神経細胞表面に運ばれる様々なGPIアンカー型タンパク質が減ることによって症状が起こります。今回の報告はIGDの14個目の遺伝子としてPIGGの欠損症が見つかったというものです。今までの13種の遺伝子と異なり、培養細胞においてはPIGGの機能がなくてもGPIアンカー型タンパク質は正常に細胞表面に運ばれるので、PIGGの存在意義が不明でした。しかしながら今回PIGGの変異によって重度の脳神経の障がいを来すことがわかったので、実際の脳神経系の発達においては非常に重要な機能を担っていることがわかりました。さらに機能の解析を進める手がかりになると考えます。

図1 GPIアンカー型タンパク質の構造
細胞内でホスファチジルイノシトール※4 に順に糖鎖が付加されGPIアンカーが完成し、別々に合成されたタンパク質に付加された後、様々な修飾を受けて細胞表面に運ばれる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

難治性てんかんや精神運動発達の遅れを来している病気の中には未だに原因がわからない疾患が多くあります。その原因の一つとしてPIGG遺伝子の変異が発見されたので、いままで診断がついていなかった疾患がPIGG欠損症と診断される可能性があります。またこの研究成果によって、多くの医療関係者や患者の方の家族に、IGDという疾患を知っていただき検査を受けていただくきっかけになることが期待されます。

特記事項

本研究成果はAmerican Journal of Human Genetics(電子版)に、2016年3月17日(木)12時(米国東部時間)に掲載されました。

論文タイトル:Pathogenic variants in PIGG cause intellectual disability with seizures and hypotonia
著者:Periklis Makrythanasis, Mitsuhiro Kato, Maha Zaki, Hirotomo Saitsu, Kazuyuki Nakamura, Federico Santoni, Satoko Miyatake, Mitsuko Nakashima, Mahmoud Y Issa, Michel Guipponi, Audrey Letourneau, Clare Logan, Nicola Roberts, David A Parry, Colin A Johnson, Naomichi Matsumoto, Hanan Hamamy, Eamonn Sheridan, Taroh Kinoshita, Stylianos E Antonarakis, Yoshiko Murakami

用語説明

※1 遺伝子PIGG
GPIアンカー合成の第10ステップで、2番目のマンノースにエタノールアミンを付加する酵素。

※2 先天性GPI欠損症(IGD)
GPIアンカー型タンパク質の合成や修飾に関わる遺伝子の変異により細胞表面の発現が低下したり異常な構造で発現することによりおこる疾患で、精神運動発達の遅れとてんかんを主症状とする。IGDの多くは血液のフローサイトメトリーという検査で診断することができ、けいれん発作にビタミンB6の補充療法による治療が効く症例もあります。詳しくは疾患ホームページをご覧ください(http://igd.biken.osaka-u.ac.jp/)。

※3 GPIアンカー
種々のタンパク質を細胞表面につなぎとめる糖脂質で図1にその構造を示す。

※4 ホスファチジルイノシトール
イノシトールリン酸、細胞に広く存在するリン脂質で細胞膜等の膜成分を構成する。

参考URL

先天性GPI欠損症(IGD)解説
http://igd.biken.osaka-u.ac.jp/

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