2016年2月26日

本研究成果のポイント

・日本人特有の食道扁平上皮がん※1 144例を対象に過去最大規模の遺伝子解析を実施
・食道扁平上皮がんの原因となる遺伝子変異※2 と、 お酒に弱い人(もともとアルコール代謝酵素が弱い人)の食道がんで起こりやすい遺伝子変異のパターンを発見
・食道扁平上皮がんを標的とした副作用の少ない新たな治療法の開発やオーダーメイドの薬剤治療の提供に期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科外科学講座(消化器外科学)森正樹 教授、堺市立総合医療センター外科澤田元太医師、九州大学病院別府病院外科三森功士 教授、東京大学医科学研究所付属ヒトゲノム解析センター宮野悟 教授らの共同研究チームは144例の日本人食道扁平上皮がん患者を対象として、詳細な生活習慣の調査とスーパーコンピューターを用いた過去最大規模の遺伝子解析を行い、その遺伝子異常の全体像を明らかにしました。その結果、日本人扁平上皮がんで特に重要と思われる15個の遺伝子を同定しました。さらに遺伝子的にアルコール代謝酵素の活性が低い人がかかる食道がんで特徴的にみられる遺伝子変異のパターンを同定しました。

食道がんには大きく腺がんと扁平上皮がんがあり、欧米では腺ガンが中心ですが、日本では90%以上が扁平上皮がんです。このため日本人に多い食道がんの原因究明が急務とされてきました。

本研究成果により、日本人の食道扁平上皮がんで起きている遺伝子の異常が明らかとなったため、これを標的とした新たな治療法の開発が期待できます。また、お酒に弱い人(もともとアルコール代謝酵素が弱い人)がなりやすい食道がんのパターンも判明したことから、近い将来、これらの人に特によく効く薬をオーダーメイドで提供できる可能性があります。

なお、本研究成果は、米国の科学誌「Gastroenterology」の電子版に2016年2月9日に掲載されました。

研究の背景

欧米と東アジアでは食道がんの性質も異なり、また同じアジアの中でも中国と日本は違います。人種の違いの他にもアルコール代謝酵素が遺伝的に弱い人が食道がんになり易い上、喫煙や飲酒の生活習慣も発がんに影響してきます。今回の解析では、日本人のみを対象とした初めての大型研究で、遺伝的な要因や生活習慣も同時に調べることで、よりきめ細かな解析を実現することができ、新たな発見につながりました。

研究の内容

本研究の遺伝子変異解析、染色体解析から、食道扁平上皮がんにおけるゲノム異常の全体像が明らかになりました(図1) 。すなわち、15個の変異頻度が高い遺伝子を同定した他、がん抑制遺伝子として有名なTP53遺伝子はこれまでの報告よりもはるかに多い頻度で遺伝子異常が発生していることがわかりました。

図1 日本人食道扁平上皮癌における遺伝子異常

また、食道扁平上皮がんは遺伝子変異の状態から3つのグループに分類されることがわかりました(図2) 。飲酒・喫煙の両方のリスクがある患者さんはグループ1のタイプの食道がん、飲酒のみの場合はグループ2、どちらのリスクも少ない人はグループ3のタイプの食道がんになりやすいことが示されました。特にアルコール代謝酵素に関する遺伝的要因という日本人特有のリスク因子と、食道がんのDNAの変異状態が関係していることがわかったことは重要な発見です。つまり、食道がん遺伝子変異のパターンが環境因子(お酒やタバコ)、遺伝因子(アルコール代謝酵素の状態など)によって影響を受けることがわかりました。

図2 食道扁平上皮がんを遺伝子変異にもとづいて3グループに分類

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

日本人の食道扁平上皮がんで起きている遺伝子の異常が明らかとなったため、これを標的とした治療への道筋ができます。これまでの抗がん剤はやみくもに細胞を攻撃していたために、時として重い副作用を引き起こしましたが、がんの異常な遺伝子だけを標的とする治療が開発されれば、効率よくがんだけを治療できるようになる可能性があります。また、アルコール分解酵素が遺伝的に弱い人がなりやすい食道がんのパターンもわかったことから、近い将来、これらの人に特によく効く薬をオーダーメイドで提供できる可能性があります。

特記事項

本研究成果は、米国の科学誌「Gastroenterology」の電子版に2016年2月9日に掲載されました。

論文タイトル:Genomic Landscape of Esophageal Squamous Cell Carcinoma in a Japanese Population

著者: Genta Sawada, Atsushi Niida, Ryutaro Uchi, Hidenari Hirata, Teppei Shimamura, Yutaka Suzuki, Yuichi Shiraishi, Kenichi Chiba, Seiya Imoto, Yusuke Takahashi, Takeshi Iwaya, Tomoya Sudo, Tomoatsu Hayashi, Hiroki Takai, Yoshihiro Kawasaki, Takashi Matsukawa, Hidetoshi Eguchi, Keishi Sugimachi, Fumiaki Tanaka, Hiromichi Suzuki, Ken Yamamoto, Hideshi Ishii, Makiko Shimizu, Hiroshi Yamazaki, Makoto Yamazaki, Yuji Tachimori, Yoshiaki Kajiyama, Shoji Natsugoe, Hiromasa Fujita, Kenichi Mafune, Yoichi Tanaka, David P. Kelsell, Claire A. Scott, Shoji Tsuji, Shinichi Yachida, Tatsuhiro Shibata, Sumio Sugano, Yuichiro Doki, Tetsu Akiyama, Hiroyuki Aburatani, Seishi Ogawa, Satoru Miyano, Masaki Mor, Koshi Mimori

本研究成果は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(S)(研究課題番号:21229015)、先端研究助成基金助成金(最先端・次世代研究開発支援プログラム)(課題番号:LS094)、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究 (複合領域:4201)および HPCI 戦略プログラム分野1「予測する生命科学・医療および創薬基盤」の支援により得られました。

用語解説

※1 食道扁平上皮がん
食道の内側を覆っている粘膜表面にある扁平上皮細胞から発生する悪性腫瘍

※2 遺伝子変異
細胞の中にある遺伝子のDNAの一部が何らかの原因で損傷し、DNAの配列が一部変わってしまうこと。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科外科学講座(消化器外科学)
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gesurg/

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