2016年2月25日

本研究成果のポイント

・超音波が水中に作る小さな気泡がアルツハイマー病の原因物質の生成工場となることを発見
・音色を調整することにより、原因タンパク質が毒性物質へと変遷する反応速度を従来の1000倍に高めることに成功
・アルツハイマー病の早期診断や創薬への応用や、治療や診断における超音波のリスク低減に期待できる技術

リリース概要

大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程の中島吉太郎、同研究科の荻博次准教授、蛋白質研究所の後藤祐児教授らは、最適な音色を持つ超音波により、アルツハイマー病の原因タンパク質が毒性物質へと変遷する反応の速度定数を、従来の1000倍にまで高めることに成功しました。溶液中に超音波を照射した際に、マイクロバブル(50ミクロン程度の小さな気泡)が生成・圧壊を繰り返すことがあります。これらマイクロバブルが溶液内に分散している無害のタンパク質をかき集め、圧壊とともに毒性物質を次々と生成していく、というメカニズムを発見しました。また、超音波の周波数が約30キロヘルツのときにこの現象が特に顕著となることも発見しました。

近年、超音波を照射することにより、様々なタンパク質の凝集反応が加速することが分かってきましたが、そのメカニズムが解明されておらず、どのような超音波を用いれば凝集加速を効率良く行うことができるのかは不明でした。

この技術はアルツハイマー病の早期診断技術への応用が可能であると同時に、現在行われている超音波を用いた様々な診断や治療におけるリスク低減のための条件を示しています。

本研究成果は、英国時間2月25日(木)に英国科学雑誌「サイエンティフィック リポーツ」オンライン版で公開されました。

図1 超音波により生成・圧壊を繰り返すマイクロバブルによるタンパク凝集体の生成メカニズム
(a)タンパク質が分散している溶液に数十キロヘルツの超音波を照射するとバブルが発生し、成長する。(b)タンパク質は気液界面を好むため、バブル表面に吸着しバブルと運動をともにする。バブルは直径50μmほどまで成長する。(c)その後、バブルはタンパク質を吸着したまま急速に収縮し圧壊する。圧壊時に体積は1000分の1程度となり、タンパク質が局所的に濃縮される。(d)また、圧壊までの時間は数億分の1秒と極めて短く、ほぼ断熱圧縮過程となり、バブル内の温度は数千度にまで上昇する。この結果、濃縮されたタンパク質が瞬間的に加熱され、凝集体へと変遷する。(a)から(d)の過程は超音波の周期に応じて、溶液のいたるところで1秒間に数万回繰り返され、凝集体を量産してゆく。

研究の背景

アルツハイマー病は、アミロイドβ※1 と呼ばれるタンパク質が脳内で凝集して神経細胞毒性を発することにより発症すると考えられています。健常者にもアミロイドβは体内に存在しています。これらがどのような機構により毒性の高い凝集体へと変遷するかは今なお未解明な部分が多く、このことが、アルツハイマー病の根本的な予防や治療に支障をきたしています。

毒性の高い凝集体の特定・作成とそれを標的とした薬剤候補の探索が創薬において重要ですが、これは容易ではありません。なぜならば、アミロイドβは、本来、凝集体を作りにくいタンパク質であり、凝集反応にはかなりの長時間を要するからです。アルツハイマー病の発症が高齢者に多いこともこれを裏付けています。このため、生理濃度の何十万倍という高濃度のアミロイドβ溶液を使用して凝集反応の加速が行われています(この高濃度の条件をもってしても、凝集反応の完了には数日を要することがあります)。しかし、このような高濃度の環境において形成される凝集体は、体内で形成されるものとはサイズも毒性も大きく異なることが危惧されます。したがって、低濃度においても凝集反応を飛躍的に加速する技術が熱望されていました。

アミロイドβの凝集反応の加速は、創薬だけでなく診断においても重要です。失われた神経細胞が元に戻ることは難しいため、認知症がある程度進行してからの治療において、根治は困難です。したがって、早期の発見が重要ですが、これには、アミロイドβの凝集能力を評価することが有効です。アミロイドβが凝集しやすい体内環境を有する人は、それだけ発症リスクを抱えていることになります。しかし、体内に存在する微量なアミロイドβを凝集させることは困難なため、凝集加速技術が必要となります。

近年、超音波を照射することにより、様々なタンパク質の凝集反応が加速することが分かってきました。しかし、そのメカニズムが解明されておらず、どのような超音波を用いれば凝集加速を効率良く行うことができるのかは不明でした。

本研究では、自作の超音波照射反応装置を用いて、溶液内の超音波の音圧と周波数を独立かつ正確に変化させ、アミロイドβの凝集を加速するための条件を探索しました。その結果、30キロヘルツという周波数において音圧を最適化することにより、凝集反応の速度定数を1000倍程度にまで高めることに成功しました。

さらに、この加速現象が、超音波の周期とともに生成・圧壊するマイクロバブルによってもたらされていることをつきとめ(図1)、この現象を理論的に再現することに成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

超高齢化社会に直面している我が国において、アルツハイマー病の早期診断は極めて重要な課題です。

本研究の成果により、周波数と音圧を最適に調整した超音波を用いれば、劇的にアミロイドβの凝集反応を進行させることができることが分かりました。これにより、未発症者や若年層においても、アミロイドβの凝集リスクの評価、つまり、アルツハイマー病の発症リスクの評価の可能性が出てきました。

また、超音波の条件を変化させることにより、様々な形態の凝集体を作れることもわかってきました。短時間に多様な凝集体を作成し、個々に対して毒性評価を行うことにより、標的の特定および創薬への貢献が期待されます。

さらに、現在、超音波は診断や治療において幅広く使用されていますが、診断・治療目的の超音波が、アルツハイマー病の発症リスクを持つことも示唆されました。ただし、不適切な周波数の使用を避けることにより、このリスクはかなり低減することが分かりました。

特記事項

本研究成果は、英国時間2月25日(木)に英国科学雑誌「サイエンティフィック リポーツ」オンライン版で公開されました。

論文名: Nucleus factory on cavitation bubble for amyloid β fibril.
著者: K. Nakajima, H. Ogi, K. Adachi, K. Noi, M. Hirao, H. Yagi, and Y. Goto

用語説明

※1 アミロイドβ
分子量が約4500のタンパク質。疎水性の強いアミノ酸配列を含むため、それらの相互作用により凝集し、線維状の凝集体を含む様々な凝集体を形成することがある。これらが神経細胞内外に沈着し、アルツハイマー病を発症すると考えられる。

参考URL

研究内容(大阪大学基礎工学研究科機能創成専攻 平尾研究室HPより)
【日本語】
http://www-ndc.me.es.osaka-u.ac.jp/pmwiki/index.php?n=Main.Research
【英語】
http://www-ndc.me.es.osaka-u.ac.jp/pmwiki_e/index.php?n=Main.Research

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