2016年1月19日

本研究成果のポイント

・植物由来ポリフェノール※1 であるシンナムタンニンB-1※2 は、マウス実験において、間葉系幹細胞(MSC)※3 の運動性を活性化し、損傷部位へ集めることで、傷の治癒効果を高めることを発見。
・特定の臓器へ幹細胞の集積を増強するための技術の開発は、細胞療法に必要とされ、これまで様々なアプローチが研究されている。
・アトピー性皮膚炎などの損傷や病変を伴う皮膚疾患を対象とした幹細胞治療法への応用に期待。

リリース概要

大阪大学産学連携本部ピアス皮膚再生技術共同研究部門の藤田 浩祐招へい研究員、前田 明人特任教授らのグループは、植物由来ポリフェノールであるシンナムタンニンB-1がマウス体内にて間葉系幹細胞(MSC)を血流中へ動かし、傷部位に集積させ(図1)、皮膚損傷の治癒効果を高めることを明らかにしました。

また、シンナムタンニン B-1は、MSCの細胞膜周辺にある酵素の活性化を介して運動性を高めている可能性があり、さらにそのしくみには、シンナムタンニンB-1の特殊な構造(図2)が重要であることが分りました。

本研究の成果により、シンナムタンニンB-1がMSCを皮膚損傷部位へ集めて、傷の治癒効果を高めることから、様々な損傷や病変を伴う皮膚疾患を対象とした幹細胞治療法への応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学雑誌「PLOS ONE」電子版に2015年12月11日に掲載されました。

図1 発光するように標識したMSCの皮膚損傷部位への集積

図2 シンナムタンニンB-1は、骨髄や血管周囲に存在するMSCを血流中へ動かし、皮膚の傷部位に集積させることで、傷の治癒を促進する。

研究の背景

MSCは、種々の細胞に分化する能力があり、また体の損傷を修復するタンパク質を分泌します。MSCは、体の損傷時に細胞から分泌される誘引信号に応答し、骨髄や血管周囲から血液中へと放出され、損傷部位へ集積し、修復を促進すると考えられています。よって、損傷部位へMSCの集積を増強することは、さらに治癒過程を促進する可能性があります。また、特定の臓器へ幹細胞の集積を増強するための技術の開発は、細胞療法に必要とされ、様々なアプローチが研究されてきました。

これまでに前田明人特任教授らは、主に東南アジアに自生している植物で、伝統生薬として利用されているクスノハガシワ※4 の樹皮抽出物に、MSCの運動性と傷治癒の促進効果があることを発見し、抽出物の成分分析と細胞機能試験によりMSCの運動性を高める主要な化合物が、シンナムタンニンB-1であることを確認していました。そこで、今回さらにシンナムタンニンB-1の生体内での効果とそのしくみについて解析を進めてきました。

本研究成果の内容

本研究では、マウス血液を用いたフローサイトメトリー解析※5 により、シンナムタンニンB-1を投与したマウスにおいて、骨髄から血液中へMSCが放出されていることが示されました。また生体内イメージング解析※6 により、MSCがシンナムタンニンB-1で処理した損傷部へ集積すること、皮膚損傷の治癒試験によりシンナムタンニンB-1が治癒を増強することが観察されました。これらの結果から、シンナムタンニンB-1は、骨髄や血管周囲に存在するMSCを血流中へ動かし、皮膚の傷部位に集積させることで、傷の治癒を促進することが明らかになりました。

また本研究では、複数の酵素阻害剤を用いた実験を行い、シンナムタンニンB-1はMSCの細胞膜周辺にあるPI3キナーゼ※7 などの酵素の活性化を介して運動性を高めている可能性を示しました。さらに、シンナムタンニンB-1の分子構造に着目し、いくつかの構造単位での活性を評価することで、MSCの運動性の促進作用には2つのカテキンが特定部位で結合した2量体構造を含むことが重要であることを示しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、シンナムタンニンB-1が生体内のMSCを皮膚損傷部へ集積させ、治癒効果を高めることから、アトピー性皮膚炎のような損傷や病変を伴う皮膚疾患を対象とした幹細胞治療法への応用が期待されます。また、シンナムタンニンB-1がMSCの運動性を促進するしくみの一部を解明したことで、現在の幹細胞治療法の有効性向上に役立つと考えられます。

特記事項

本研究成果は、米国科学雑誌「PLOS ONE」電子版に2015年12月11日に掲載されました。なお、本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助金の助成を受け、大阪大学の共同研究講座制度※8 を活用し実施されました。

論文タイトル:Cinnamtannin B-1 Promotes Migration of Mesenchymal Stem Cells and Accelerates Wound Healing in Mice
著者:Kosuke Fujita, Katsunori Kuge, Noriyasu Ozawa, Shunya Sahara, Kaori Zaiki, Koichi Nakaoji, Kazuhiko Hamada, Yukiko Takenaka, Takao Tanahashi, Katsuto Tamai, Yasufumi Kaneda, Akito Maeda
論文掲載先: PLOS ONE Online Edition: 2015/12/11, doi:10.1371/journal.pone.0144166
(URL :http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0144166

用語解説

※1 植物由来ポリフェノール
植物に含まれる天然の有機化合物です。代表的なものに茶の成分であるカテキンや果実の色素成分が含まれます。

※2 シンナムタンニンB-1
3つのカテキンが結合している構造をもつ分子です。桂皮に含まれる成分物質として知られています。

※3 間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells ; MSC)
主に骨髄や脂肪などに存在する中胚葉由来の幹細胞の一種です。骨や血管、軟骨などの細胞に分化する能力をもつことから、再生医療の材料として注目されています。

※4 クスノハガシワ
ネパールやインド、東南アジア、フィリピンなどのアジア地域に生育しています。生育地では、古くからこの樹木の部位を寄生虫駆除や潰瘍の治療薬として利用していました。

※5 フローサイトメトリー解析
専用機器内の流路に蛍光標識した細胞を流し、レーザー光を当てることで、個々の細胞を大きさや形、蛍光の色で検出する解析方法です。

※6 生体内イメージング解析
蛍光や発光の検出により体の内部を観察できる解析方法です。遺伝子やタンパク質に蛍光標識をつける方法や発光酵素をつける方法があります。

※7 PI3キナーゼ(Phosphatidylinositol-3 kinase)
MSCの運動性に関連する脂質リン酸化酵素です。細胞内には、PI3キナーゼを介した信号伝達経路が存在し、MSCの運動性をはじめとする様々な細胞応答を制御しています。

※8 大阪大学共同研究講座制度
民間からの資金によって学内の部局に新たに設置されるオープンイノベーションによる研究組織です。大学の教員と出資企業からの研究者が社会から求められる課題について共同して研究を行うことにより、優れた研究成果が生まれることを促進する制度です。
・制度の詳細について(大阪大学 産学連携本部)
URL :http://www.uic.osaka-u.ac.jp/rules/jointresearch.html
・出資企業について(ピアス株式会社)
URL :http://www.pias.co.jp/

参考URL

大阪大学産学連携本部ピアス(皮膚再生技術)共同研究部門HP
http://pias-cr.casi.osaka-u.ac.jp/

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