2016年1月19日

本研究成果のポイント

・統合失調症において、大脳皮質下領域構造※1 のひとつである淡蒼球※2 の体積が健常者に比べて大きいことは既に知られていたが、その健常者との差に、左側優位の非対称性が存在することを新たに発見した。
・大脳皮質下領域における統合失調症の病態メカニズム解明の一助となる。
・動機づけや意欲の障害に悩まれている当事者の方の病態理解や、治療法開発への一歩となる。
・本研究は国内37研究機関によるオールジャパン体制で取り組まれたものであり、今後のさまざまな多施設共同研究の推進に大きく寄与するものと期待される。

リリース概要

大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野の岡田直大大学院生、笠井清登教授らの研究グループは、統合失調症において、大脳皮質下領域に存在する大脳基底核のひとつである淡蒼球(図1)の体積が健常者に比べて大きいという既知の報告を再現するとともに、その健常者との差に左側優位の非対称性が存在することを、新たに見出しました。

本研究成果は、統合失調症における神経回路の左右差の異常を示唆し、統合失調症の病態解明の一助となることが期待されます。また、大脳基底核は動機づけや意欲などに関わるとされ、そうした障害により社会生活が困難となり苦しまれている当事者の方の病態理解や、治療開発への一歩となります。さらに、この発見は日本の37研究機関からなる認知ゲノム共同研究機構(COCORO)による多施設共同の成果として得られたもので、今後のさまざまな多施設共同研究の推進に大きく寄与するものと期待されます。

なお、本研究成果は国際的な精神医学雑誌Molecular Psychiatryの電子版に1月19日(火)午前4時(米国東部標準時)に掲載されました。

図1 大脳皮質下領域構造のMRI前頭断

研究の背景

統合失調症は約100人に1人が発症する精神障害です。思春期青年期の発症が多く、幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状、認知機能障害等が認められ、多くは慢性・再発性の経過をたどります。社会的機能の低下を生じ、働くことが困難で自宅で闘病する患者も多く、日本の長期入院患者の約70%が統合失調症です。大脳皮質下領域は、運動制御や注意・感情といった原始的な機能のみならず、前頭前野※3 と連携して抑制の制御や作動記憶といった高次の機能にも寄与する、重要な脳部位です。しかしながら、大脳皮質下領域における統合失調症の病態のメカニズム解明にあたり、小規模の研究例が散見されるものの結果が一定していないため、大規模な研究による報告が待ち望まれていました。

橋本亮太准教授は、大阪大学医学部附属病院神経科・精神科統合失調症専門外来において、認知機能検査、脳神経画像検査、神経生理学的検査など詳細な評価を行ってその診断と治療に従事するとともに、そのデータを用いた研究を行ってきました。また、その研究を発展させてCOCOROを組織し、日本を代表する精神医学や神経科学等の研究機関が同機構に参加するオールジャパンの研究体制を確立しました。

このたび、COCOROに参加する11の研究機関から収集した1680名の健常者と884名の統合失調症患者のMRI※4 脳構造画像を比較解析し、統合失調症における大脳皮質下領域構造の体積やその左右差の変化を研究しました。統合失調症では、両側の海馬、扁桃体、視床、側坐核の体積および頭蓋内容積が健常者より小さく、両側の尾状核、被殻、淡蒼球、側脳室の体積が健常者より大きく、先行して発表されていたvan Erpらによる海外の多施設共同研究(ENIGMA-SZ)の結果を再現しました(図2)

さらに、すべてのデータを解析センターに集積し同一データ処理を行うことにより、海外の先行研究よりも誤差の少ない高い解析精度を実現し、各構造の左右差についての検討も行いました。その結果、健常群では視床、側脳室、尾状核、被殻で左側優位、海馬、扁桃体で右側優位であり、淡蒼球、側坐核では非対称性を認めませんでした。統合失調症群でもほぼ同様の傾向でしたが、淡蒼球体積については、統合失調症における左側優位の非対称性が存在することを、新たに見出しました(図3)

図2 各皮質下領域における体積差の効果量d±標準誤差
先行発表された海外の多施設共同研究(ENIGMA-SZ)の結果を再現

図3 各群における左右差の指標の効果量d±標準誤差
淡蒼球体積について、統合失調症に特異的な左側優位を見出し

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究の結果は、統合失調症における脳内の神経回路の左右差の異常を示唆し、統合失調症の病態解明の一助となることが期待されます。また、ヒトの疾患で変化する神経回路に関する知見は、基礎脳科学や精神疾患の動物モデルの作出にも有用な情報を与えます。本研究は、国内の多数の研究機関によるオールジャパン体制で取り組まれたものであり、今後のさまざまな多施設共同研究の推進に大きく寄与するものと期待できます。ひいては、統合失調症のみならずさまざまな精神障害の診断や治療の技術の向上につながり、精神疾患を有する患者さん本人やご家族等の当事者のQOL(生活の質)の向上に大きく貢献すると考えられます。

特記事項

本研究は、COCOROに参加する多数の研究機関による多施設共同研究です(図4)。COCOROは、国内37研究機関で構成されており、精神医学領域の認知機能、脳神経画像、神経生理機能などの中間表現型※5 と遺伝子解析を組み合わせた臨床研究を中心に行い、さらに基礎神経分野とのトランスレーショナル・リサーチを推進し、精神疾患の病因・病態を解明することにより、精神医療へ還元することを目指しています。精神医学研究領域において、このような多施設共同研究体制が整ったことから、今後の研究のさらなる発展が期待されます。

図4 COCORO概要図

用語解説

※1 大脳皮質下領域構造
大脳の深部にある構造で、海馬、扁桃体、視床、側坐核、尾状核、被殻、淡蒼球などが含まれ、系統発生的に古いとされる領域です。運動機能や記憶・情動・意欲などに関与するとされています。

※2 淡蒼球
大脳皮質下領域にある大脳基底核の一つで、運動機能や、動機付け、意欲、欲求が満たされる感覚に関与するとされます。

※3 前頭前野
ヒトで最も発達した脳領域である大脳皮質の一部であり、実行機能や意思決定等の多彩な機能に関係します。

※4 MRI
Magnetic Resonance Imagingの略で、核磁気共鳴画像法と言います。磁気を利用して体内を撮像し、放射線被曝がなく安全な検査装置であり、医療現場で広く利用されています。

※5 中間表現型
精神疾患に特徴的な神経生物学的な表現型であり、認知機能、脳神経画像、神経生理機能などがあり、脳構造もその一つです。

研究支援

この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(平成27年度より文部科学省から移管)と障害者対策総合研究事業(精神障害分野) (平成27年度より厚生労働省から移管)、日本学術振興会の科学研究費補助金と新学術研究領域「包括型脳科学研究推進支援ネットワーク」の支援により行われました。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室分子精神医学研究グループHP
http://www.sp-web.sakura.ne.jp/lab/index.html

論文掲載先(Molecular Psychiatry)
http://www.nature.com/mp/journal/vaop/ncurrent/full/mp2015209a.html

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