2015年12月2日

本研究成果のポイント

●創薬からデバイス開発まで幅広い産業分野で利用されているラマン散乱顕微鏡※1 の解像力を約2倍向上
●ラマン散乱は非常に微弱な効果であるため、解像力向上は困難だった
●幅広い製品の品質向上・高機能化に役立ち、顕微観察技術の進展にも貢献する成果

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の藤田克昌准教授、河田聡教授、同大学院薬学研究科の橋本均教授らの研究グループは、創薬からデバイス開発まで幅広い科学・産業分野で利用されているラマン散乱顕微鏡の解像力を、従来の約2倍向上させることに成功しました。ラマン散乱は非常に微弱な効果であるため、その解像力を向上することは困難とされていました。しかし、試料を点線状の光で照明※2 することによって高い空間分解能で計測が可能となり、伝搬光※3 を用いたものとしてはこれまでで最高の解像力を達成しました。

本研究成果によって、従来よりも詳細に薬剤やデバイス材料の空間分布を画像として観察することが可能となり、製品の品質向上や高機能化に役立つと期待されます。また、従来の超解像顕微鏡※4 は、試料が色素により染色されていることを必要としていましたが、本手法は試料の染色を必要とせず、顕微観察技術の進展において重要なマイルストーンとなります。

本研究成果は12月2日(水)(日本時間)にNature Communicationsのオンライン版で掲載されました。

図 グラフェンのラマン散乱像。点線状照明の場合(右)では、従来の顕微鏡(左)より、明瞭・細やかな観察が可能。

研究の背景と結果

ラマン散乱顕微鏡は、試料に含まれる分子や結晶格子の振動を検出でき、生体試料から半導体、カーボン材料等まで、様々なタイプの試料の分析観察に用いられてきました。しかし、ラマン散乱は非常に微弱な効果であるため、その解像力を向上することは困難とされていました。

本研究グループは、点線状照明という特殊な照明方法(図1)を用いたラマン散乱顕微鏡を開発し、従来手法の限界を超えた解像力を達成しました。 また、開発した顕微鏡を用いて、CVDグラフェン※5 (図2)、マウス脳切片(図3)の高い解像力での観察に成功しました。

図1 従来の高速ラマン散乱顕微鏡の照明法(ライン状照明:左図)と、開発した顕微鏡による点線状照明法(右図)

図2 CVDグラフェンのラマン散乱像
赤、青、緑はグラフェンのD、G、および2Dバンドのラマン散乱強度を示している。点線状照明により空間分解能が向上し、試料中の単層/複層グラフェン、グラファイト、欠陥が豊富な箇所が、より明確に観察できる。右下のグラフは図中の矢印間のラマン散乱強度(Dバンド)を比較しており点線状照明では、より細かい構造が見られる。

図3 無染色マウス脳切片の散乱像
赤、緑はそれぞれ、ペプチド結合のアミドI振動モード(タンパク質に豊富)、およびCH結合の伸縮振動(脂質に豊富)のラマン散乱を示す。CH結合に由来する3つの波長でラマン散乱強度の分布を比較すると、点線状照明の観察では、脂質の分布がより明確に観察されていることが分かる(右下グラフ。分布は図中矢印間)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ラマン散乱顕微鏡は、物質分析の能力を有する顕微鏡であり、創薬からデバイス開発まで幅広い産業分野で利用されています。ラマン散乱顕微鏡の解像力の向上は、より詳細に薬剤やデバイス材料の空間分布を画像として観察することを可能とし、製品の品質向上や高機能化に役立つと期待されます。また、従来の超解像顕微鏡は、試料が色素により染色されていることを必要としていましたが、開発した手法は試料の染色を必要としないため、本研究成果は顕微観察技術の進展において重要なマイルストーンとなりました。

掲載論文

Kozue Watanabe, Almar F. Palonpon, Nicholas I. Smith, Liang-da Chiu, Atsushi Kasai, Hitoshi Hashimoto, Satoshi Kawata & Katsumasa Fujita, "Structured line illumination Raman microscopy," Nat. Commun. 10.1038/NCOMMS10095

用語説明

※1 ラマン散乱顕微鏡
試料からの散乱光の波長を取得することで、試料中の分子や結晶格子の振動状態の分析や、その分布の観察をおこなう手法。

※2 点線状の光照明
超解像顕微鏡に用いられる構造化照明を、同研究グループが開発した高速ラマン散乱顕微鏡に適するよう改変したもので、様々な試料のラマン散乱スペクトル(物質情報を含む)を高い空間分解能で計測できる。点線状の光は、2つの線状の光を干渉させてつくる。

※3 伝搬光
空間中を伝搬する光のこと。これまで、金属先端に局在する近接場光を用いた超解像ラマン顕微鏡は実現していたが、本研究により伝搬光を用いた高解像度観察が可能になったことで、液体中の生体試料や大面積の試料のラマン観察が容易に行えるようになった。

※4 超解像顕微鏡
従来の光学顕微鏡の限界を超えた高い解像度で、試料を観察できる顕微鏡手法。超解像顕微鏡の手法のひとつであるSTED, PALMといった手法は2014年のノーベル化学賞を受賞しており、新しい観察手法として注目を浴びている。

※5 CVDグラフェン
化学蒸着(CVD: chamical vapor deposition)法を用いて作成された、薄膜のグラフェン。デバイス材料に必要な大面積のグラフェンを作成できる手法として期待されている。

参考URL

研究室HP(大阪大学大学院工学研究科 応用物理学専攻河田研究室(LaSIE))
http://lasie.ap.eng.osaka-u.ac.jp/home_j.html

藤田克昌 准教授(研究室HP内)
http://lasie.ap.eng.osaka-u.ac.jp/ap1g1kat/index_j.html

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