2015年12月1日

本研究成果のポイント

・パーキンソン病患者の脳内で形成されるレビー小体※1 の蛋白質2次構造レベルの構造解析に世界で初めて成功
・レビー小体について、電子顕微鏡による観察はなされていたが、薬剤の開発に重要な蛋白質レベルの構造情報を得ることはできなかった
・レビー小体の形成解明に寄与し、パーキンソン病の画期的な治療法の開発に重要な手がかりを与えると期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(神経内科学)の望月秀樹教授、荒木克哉医員らの研究グループは、公益財団法人高輝度光科学研究センター (JASRI)の八木直人博士らとの大型放射光施設SPring-8における共同研究で、放射光※2 顕微赤外分光法※3 という手法を用いて、パーキンソン病※4 の患者の脳内で形成される蛋白質異常凝集体:レビー小体について、蛋白質の2次構造レベル※5 の構造解析に世界で初めて成功しました。

これまで、レビー小体がパーキンソン病発症の鍵を握ると考えられ、電子顕微鏡による観察はなされていましたが、薬剤の開発に重要な蛋白質レベルの構造情報を得ることはできませんでした。

近年、この蛋白質異常凝集体の形成を抑制することでパーキンソン病の発症や進行を遅らせるという根本的な治療法が注目されており、同研究グループの研究成果および研究手法がこれらの画期的な治療法の開発に重要な手がかりを与えると期待されます。

なお、本研究成果はScientific Reportsの電子版に12月1日(火)19時(日本時間)に掲載されました。

研究の背景

パーキンソン病はアルツハイマー病についで2番目に多い進行性の神経変性疾患であり、進行を抑制する根本的な治療は存在しません。パーキンソン病の患者の脳内には特徴的な蛋白質異常凝集体であるレビー小体が形成されることはかなり以前からわかっており、これが発症の重要な鍵を握ると考えられてきました。しかしながら、実際のレビー小体に対する構造解析は電子顕微鏡による観察以来ここ20年間はほとんど進歩がなく、電子顕微鏡による観察からは薬剤の開発に重要な蛋白質レベルの構造情報を得ることができませんでした。

望月教授らの研究グループはSPring-8のBL43IR※6 における放射光顕微赤外分光法という手法を用いることで、蛋白質レベルでの構造解析を行い、電子顕微鏡では得られない構造の情報を得ることに成功しました。

今回の実験では、直径10マイクロメートル(1メートルの10万分の1)程度の大きさのレビー小体に、直径数マイクロメートルの赤外線ビームを少しずつ動かしながら照射し測定することが必要とされ、これには世界一明るい光とされるSPring-8の放射光が重要な役割を果たしました。

図 典型的なレビー小体に対する解析結果
蛋白質(左から2番目)と脂質(左から4番目)の量はレビー小体の中心部分で多いことがわかりましたが、これらと対照的にβシート構造の割合(左から3番目)は周辺部分で高いことがわかりました。

研究成果の内容

本研究により、パーキンソン病の患者の脳内に実在するレビー小体はβシート構造※7 を多く有していることがわかりました。これはこれまでの試験管内における研究成果の正当性を支持するものです。また、典型的なレビー小体ではβシート構造の割合が中心部分(コア)よりも周辺部分(ハロー)で高いことや中心部分には脂質が多いこともわかりました。これらの成果はレビー小体の形成過程の謎の解明につながると期待されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究手法はパーキンソン病の発症機序の解明や治療法の開発に有用なツールとして発展することが期待されます。また、アルツハイマー病や多系統萎縮症といった他の神経変性疾患はもちろんとして、悪性腫瘍や膠原病などで侵された臓器の観察にも応用が可能であることから、病理学における画期的な観察ツールとして発展することも期待されます。

特記事項

本研究成果は「Scientific Reports」の電子版に12月1日(火)19時(日本時間)に掲載されました。

【掲載紙】Scientific Reports誌 2015
【論文タイトル】Synchrotron FTIR micro-spectroscopy for structural analysis of Lewy bodies in the brain of Parkinson’s disease patients.
【著者】Araki K, Yagi N, Ikemoto Y, Yagi H, Choong C, Hayakawa H, Beck G, Sumi H, Fujimura H, Moriwaki T, Nagai Y, Goto Y, Mochizuki H.

用語解説

※1 レビー小体
パーキンソン病の患者に見られる特徴的な蛋白質凝集体のことであり、その主成分はαシヌクレインという蛋白質であることがわかっている。

※2 放射光
高エネルギーの電子等の荷電粒子が磁場中でローレンツ力により曲がるときに放射される電磁波(光)のこと。

※3 赤外分光法
物質に赤外光を照射し、透過または反射した光を測定することで試料の構造解析や定量を行う分析手法。

※4 パーキンソン病
振戦(ふるえ)、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)を主な運動症状とする進行性の神経変性疾患。発症は50~65歳に多く60歳以上における有病率は100人に約1人とされ決して稀な疾患ではない。

※5 二次構造
タンパク質や核酸といった生体高分子の主鎖の部分的な立体構造のこと。

※6 BL43IR
顕微赤外分光法が使用できるSPring-8のビームライン。

※7 βシート構造
蛋白質の代表的な2次構造の一つであり、まっすぐに伸びたポリペプチド鎖が平行または逆平行に並び隣り合ったポリペプチド鎖と水素結合によって結びつくことで安定した平面を形成した構造のこと。なお、もう一つの代表的な2次構造としては、らせん構造を形成するαへリックス構造がある。

参考URL

論文掲載先(Scientific Reports)
http://www.nature.com/articles/srep17625

大阪大学大学院医学系研究科神経内科学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/neurol/myweb6/Top.html

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