2015年8月31日

本研究成果のポイント

・原子核のスピン振動の精密測定により、原子核中のスピン整列状態の存在を初めて観測
・原子核中の「パイ粒子による力」の痕跡が発見されたことが、最新の理論計算により裏付けられた
・原子核の性質を決める基礎物理研究や、超新星爆発・マグネターなどの天体現象の解明に結びつくと期待

リリース概要

大阪大学核物理研究センター 民井淳准教授などからなる研究グループは、陽子ビーム※1 を用いた超精密測定技術により、原子核の中の陽子と中性子の自転方向を反転させるスピン振動※2 を系統的に測定した結果、自転方向がわずかに整列していることを初めて実験的に示しました。

原子核の中では、自転方向がそれぞれ右回転と左回転の2つの陽子(または中性子)がとても強く結びついているため、これらが同じ方向に自転するスピン整列状態できることはほとんどないと考えられ、実験でも観測されていませんでした。しかし、湯川秀樹博士が提唱した「パイ粒子※3 による力」(パイ粒子交換力)が陽子と中性子の間に働くとスピン整列状態ができるかもしれないということは予測されていました。

実験結果は、湯川秀樹博士の予測した「パイ粒子による力」を取り入れた最新の理論計算による予測と一致しました。原子核を結びつける力の根源的理解のための基礎物理研究や、超新星爆発・マグネターなどの天体現象の解明に結びつく成果と期待されます。

本研究成果は、『Physical Review Letters』誌に2015年9月1日に論文掲載されます。

研究の背景

原子の中心には原子の1万分の1程度の大きさの原子核があり、陽子、中性子と呼ばれる二種類の粒子からできています。それぞれの粒子は地球や月と同じ様に自転運動をしています。これをスピンと呼びます。地球が北極と南極を極とする磁石の性質を持つ様に、陽子と中性子も自転方向に対応した磁石の性質を持ちます。

地球と月は同じ方向に自転しています。このようなペアをスピン整列状態と呼びます。逆に、回転方向が互いに逆になっているペアをスピン相殺状態と呼びます。原子核の中では、右回転と左回転の2つの陽子(または2つの中性子)がとても強く結びついてペアとなるため、地球と月の様なスピン整列状態ができることはほとんどないと考えられ、実験でも観測されていませんでした。しかし、湯川秀樹博士が提唱した「パイ粒子による力」(パイ粒子交換力)には強いスピン間力※4 があるため、これが陽子のスピンと中性子のスピンの間に働くと、陽子と中性子が同じ方向に回転するスピン整列状態ができるかもしれないということは予測されていました。

図1 陽子・中性子スピン整列量の実験結果と従来の理論計算
縦軸はスピン整列量で、ゼロはスピン相殺を表す。最新の理論計算結果は実験結果と同じく整列状態を予測する。

研究の手法と成果

同研究グループは、大阪大学核物理研究センターのサイクロトロン実験施設において、ケイ素28※5 など陽子と中性子が偶数個ずつある原子核を対象として、陽子ビームを使った超精密測定技術を用いて原子核の中で陽子や中性子の回転方向を反転させるスピン振動を発生させ、その強さを高精度で測定しました。その結果、陽子と中性子が同時に振動するスピン振動が、互いに逆に振動するスピン振動よりも40%大きいということを初めて観測しました。この結果から、スピン振動を起こす前の状態の原子核の中に、陽子と中性子が同方向に回転しているスピン整列状態が10%程度存在するということが明らかになりました。この様な状態は湯川博士が予言したパイ粒子交換力が原子核内の陽子と中性子の間に働いたとする解釈と一致します。従来の理論計算で予想されるスピン整列状態はほぼゼロでしたが、パイ粒子交換力をより正確に取り入れた最新の精密理論計算を行ったところ、実験結果と同程度のスピン整列状態が予想されることが分かり、パイ粒子交換力の痕跡が発見されたことが改めて裏付けられました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

原子核中でのパイ粒子の力の痕跡が発見されたことで、原子核の性質を研究するためには、パイ粒子交換力を正確に取り入れることが極めて重要であることを明らかにしました。すでにいくつかの最新の理論計算はその方向に進み始めています。本研究の成果は、今後の原子核の基礎的な性質の理解に大きな影響を与えると考えられます。

また、原子核中にスピン整列状態があることが発見されたことから、外から加えられた磁場の中で原子核が微小な磁石となる能力(磁化率)が、従来の理解よりも格段に大きくなることになります。原子核の磁化率は、超新星爆発中のニュートリノの透過率や、マグネターと呼ばれる極めて強い磁場を持つ謎の天体の性質を決める重要な量であり、これらの天体現象の解明に近づくと期待されます。

特記事項

本研究成果は、『Physical Review Letters』誌に2015年9月1日に論文掲載されます。
タイトル:「Nonquenched Isoscalar Spin-M1 Excitations in sd-Shell Nuclei」 H. Matsubara, A. Tamii, H. Nakada 他著。

用語解説

※1 陽子ビーム
水素から電子を取り除くことによって得られる陽子(水素の原子核)を、加速器を用いて高速に加速したビームのこと。

※2 スピン振動
原子核の中にある陽子や中性子の自転方向(スピン)が反転することで起きる振動状態。

※3 パイ粒子
陽子や中性子を結びつけて原子核を形成する力のもととなる粒子。湯川秀樹博士が1935年に理論的に予言し、1947年の実験でその存在が実証されました。湯川博士はこの業績により1949年にノーベル物理学賞を受賞しました。

※4 スピン間力
2粒子の配置と自転方向の関係によって強さが変わる力。テンソル力とも呼ばれる。

※5 ケイ素28
原子核の1種で、陽子14個と中性子14個から構成されます。本研究では他にマグネシウム24(陽子12個、中性子12個)、硫黄32(16個、16個)、アルゴン36(18個、18個)の原子核を調べています。

参考URL

核物理研究センターHP
http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/

研究者総覧(民井淳)
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/view?l=ja&u=7652

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