2015年8月20日

本研究成果のポイント

・金属ガラスの緩和状態を比較的低温の熱処理で回復させる仕組みを明らかにした
・金属ガラスを成型、加工した際に危惧される脆化現象を回避し、実用特性を向上・安定させることが可能
・次世代のスマートフォン等の小型電子端末分野における精密機械部品への応用が期待される

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科 譯田真人助教、尾方成信教授、東北大学学際科学フロンティア研究所 才田淳治教授および米国マサチューセッツ工科大学(MIT) Ju Li教授らの国際共同研究グループは、金属ガラス※1 において、無秩序の程度(緩和※2 状態)を低温の熱処理と再冷却によって回復・制御させる「構造若返り現象※3 」を理論的に解明することに成功しました。このことによって金属ガラスを成型、加工した際に危惧される脆化現象を回避し、実用特性を向上・安定させることが可能となり、スマートフォン等の小型電子端末分野等における応用などが一層期待されるようになります。

本研究成果は科学誌Scientific Reports (Nature Publishing Group、平成27年5月26日号)に掲載されました。

図1 構造若返りによる金属ガラスモデルの変形特性の変化
構造若返りが起きた右のモデルでは変形がより均一に生じるようになる。

研究の背景

金属ガラスは長周期規則構造(原子が規則的にならんだ結晶構造)をもたないランダム原子配列構造を有する金属材料で、高強度、高硬度で広い弾性変形領域と極めてたわみやすい性質をもった特異な金属材料です。また200~400℃程度の比較的低温で水飴のように粘性流動を示すことから、原子レベルでの平滑性をもった精密成形加工が可能であるという特徴も有しています。このような優れた特性から、次世代のスマートフォン等の小型電子端末分野等のケーシング、タッチセンサー、スイッチング、特殊ネジ材料などに適用すべく研究開発中であることが報じられています。

しかしながら、このようなガラス構造では、低温での熱履歴や成型加工等によってばらばらに配列した原子が一部再配列してわずかに規則化する(構造緩和※2 と呼ばれます)ことで脆化するということが問題となっていました。この構造緩和現象はエネルギー的に安定な方向になるため、一旦緩和して脆化した金属ガラスはそのままでは元に戻すことはできず、再溶解して一から作り直すしかないと考えられていました。また構造緩和は脆化等の劇的な変化をもたらすにもかかわらず、目視はもとより一般的な構造解析(X線回折等)や超音波探傷でも検知することができない微細な現象でした。

研究の内容

研究グループでは、一旦緩和させて脆化した金属ガラスをガラス構造特有の粘性流動が発現する温度(ガラス遷移温度※4 とよばれ、通常融点の半分程度の温度)直上で極短時間熱処理した後、再度急冷することによって、そのガラス構造を延性に富んだ未緩和構造に逆戻りさせる現象(これを構造若返り現象と呼びます)を実験的に示しました。そして、その現象が起きる機構と条件を分子動力学シミュレーション※5 によって理論的に説明し、その制御指針を構築することに成功しました。

この研究による特筆すべき成果は、分子動力学シミュレーションを活用してガラスの緩和状態の解析を行い、金属ガラスに与えられた緩和の駆動力となる熱履歴を融点付近の高温ではなく、ガラス遷移温度直上(ガラス遷移温度の1.1~1.2倍程度)の比較的低温域で消去できることを明らかにしたことです。これによって、室温で緩和したガラスを再溶融しなくても、比較的低温に短時間保持することで脆化をもたらす原子配列をもとに戻せることを示したことになります。この場合、最後に冷やした速度がガラスの緩和状態を決定するので、それを変化させることでこれまで不可能と考えられていた緩和状態の制御が可能になることが予想されます。このような考察に基づいて、実際に緩和した金属ガラスを低温熱処理と再急冷させることで未緩和状態の構造若返りが起きることを証明しました(図2) 。またそのような構造若返りによって、外力が集中しておこる不均一変形(脆性的変形)を抑制し、より延性に富んだ均一な変形をもたらすことも明らかにしました(図1)

図2 構造若返りを起こすための熱的プロセスの温度と冷却速度の条件
熱的プロセスの温度が高いほど,加熱後の冷却速度が速いほど若返りが顕著になる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、基礎学理の面では、ランダム原子配列構造の制御という、新しい概念の構築とその可能性を示した画期的なものです。また実用的な面では、優れた機械的特性を示す金属ガラス材料をより安定的に使用する革新的な構造制御法を提案するもので、小型電子端末分野だけでなく、広く機能性機械部材としての応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は科学誌Scientific Reports (Nature Publishing Group、平成27年5月26日号)に掲載されました。

掲載論文
Masato Wakeda, Junji Saida, Ju Li, Shigenobu Ogata: Controlled Rejuvenation of Amorphous Metals with Thermal Processing., Scientific Reports. 5:10545| DOI: 10.1038/srep10545.

用語解説

※1 金属ガラス
金属原子が結晶構造を組まずにランダムな状態で凍結された合金でアモルファス合金とも呼ばれます。近年、非常にゆっくり冷やしてもガラスとして生成する合金が開発されたため、特にそれを金属ガラスと呼称しています。結晶構造に起因する粒界、転位、欠陥がないため、これまでの金属材料にはない特有の優れた特性を示すことが知られています。

※2 緩和(構造緩和)
金属ガラスを低温で熱処理したり、成型加工等によって熱履歴が生じると、ばらばらに配列した原子が一部再配列したり、原子と原子の隙間(自由体積と呼びます)が消滅したりして、わずかに規則化する現象を言います。一般に構造緩和が進行すると脆化したり、磁気特性に大きな変化(一般には優れた特性が失われる)が現れるため、回避することが必要とされます。

※3 構造若返り
金属ガラスの緩和された状態を戻して、弾性変形特性に優れたような性質に戻すことを言います。未緩和状態に戻すことは作製時の性質に戻すことを意味しているので、構造若返り(英語ではRejuvenation)と呼ばれます。

※4 ガラス遷移温度
金属ガラスのようなガラス構造をもった物質は、温度を上げていくと融点よりずっと低い温度で水飴のような状態になること(粘性流動)が知られており、この現象をガラス遷移と呼びます。このガラス遷移を起こす温度をガラス遷移温度と定義しています。金属ガラスの場合、融点(絶対温度)の半分程度の温度になることが多いです。なおガラス遷移直上の温度では、ガラス材料は内部的には粘性が下がった状態になりますが、一般にその形状は維持されています。

※5 分子動力学シミュレーション
原子の間に働く力をモデル化し、運動方程式を基に個々の原子の運動を追跡する原子シミュレーション手法です。分子動力学シミュレーションを用いることで金属ガラスのランダムな構造においてどのように構造若返りが生じるのかを原子レベルで調べることが可能となります。

参考URL

大阪大学大学院基礎工学研究科尾方研究室
http://tsme.me.es.osaka-u.ac.jp/jp/

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