2015年7月24日

概要

九州工業大学の田中啓文教授(大学院生命体工学研究科)の研究グループは、大阪大学の小川琢治教授、小林慶裕教授、北海道大学の葛西誠也教授、千葉大学の山田豊和准教授の研究グループと共同で①2層カーボンナノチューブをアンジップして半金属性単層グラフェンナノリボン(sGNR)を安定的に得る方法を確立し、②得られたsGNRに平面分子ナノ粒子吸着し、吸着部分の周辺のみが半導体化することを明らかにしました。「ムーアの法則」でも知られる通り、ナノ構造の微細化は物理限界近くに到達しています。今回解明した現象により、将来グラフェンナノ配線の一部を半導体化しデバイスとする、ナノ配線ナノデバイス一体構造の実現が期待され、現状のCPUなどのナノデバイス回路のサイズを変えずにデバイスの性能を向上させられる可能性があります。結果は英科学オープンアクセス誌サイエンティフィック・リポーツ(ネイチャー・パブリッシング・グループ)に英国時間 7月24日(金)午前10時、日本時間 7月24日(金)午後6時に発表されました。
http://www.nature.com/srep/index.html

はじめに

グラフェン(=黒鉛の剥離構造で一原子層からなる物質)は電子・ホールのキャリア移動度が既存の半導体材料に比べ格段に高いことが知られており、非常に多くの研究者がその研究に携わっています。その重要性から発見者がノーベル賞を受賞したことは記憶に新しいです。しかしながら、グラフェンは半金属性※1 であり、そのままではトランジスタなどの半導体材料の代替にはなりませんでした。そこで研究者は血眼になりグラフェンを半導体にする手法を探索してきました。一方、私たちは、目覚ましいダウンサイジングが進む電子回路の中で、今後、ナノ電気配線の一部がナノデバイスになっている配線とデバイスが一体になった電子回路の重要性が増してくると考え、sGNRを利用すること、および、平面有機分子をsGNRに吸着させることにより半導体性を簡単に引き出すことができるかということに注目してきました。特に有機分子を用いてsGNRの電気特性を変化させる取り組みは、これまで大きな成功はありませんでした。私たちはアンジップ法※2 を2層カーボンナノチューブ(DWNT)に施すことにより(図1) 、これまでないクオリティの高いsGNRを得ました(図2) 。さらに、得られたsGNRにナノ粒子を吸着させることによる電気物性の変化を調べたところ、sGNRの一部に有機平面分子のナノ粒子を吸着させ、その周辺のみが半導体化することを明らかにしました。これを利用することにより、将来、グラフェンナノ配線の一部を半導体化しデバイスとする、ナノ配線ナノデバイス一体構造の実現に道が開かれ、現状のCPUなどのナノデバイス回路のサイズを変えずにデバイスの性能を向上が期待されます。

分子吸着による伝導特性変化

単層GNRの電流‐電圧(I-V)測定により、DWNTより得られたGNRは半金属性であることが分かっています。GNRをまずSi基板上に置き、キャスト法※3 によりナフタレンジイミド(図3(a) 、C15-NDI、以下NDI)分子溶液を滴下し、分子からなるナノ粒子をGNRに吸着させました(図3(b))。各つぶつぶ一つがNDI分子3~10個でなるナノ粒子です。

トランジスタ測定の結果、分子吸着後のGNRはp型半導体特性を有することが分かりました(図3(c))。NDIナノ粒子はグラフェン中の電子伝導を阻害するので、吸着時にはGNR中の電流の通り道が狭まり(図3(d))、グラフェンナノメッシュ※5 と同じネック効果(グラフェンが細くなるところで半導体化)が表れると考えられます。以上、本研究で得られたGNRの電気特性の有機分子による制御テクニックは、金属性GNRの一部(ナノ粒子吸着部分付近)のみを半導体化できることから、将来ナノ配線デバイス一体構造を作製する上で非常に有用な手法になると期待されます。

特記事項

本研究は科学研究費補助金、稲盛研究助成金の支援を受け遂行されたものです。

掲載論文

【タイトル】
Method for Controlling Electric Properties of Single-Layer Graphene Nanoribbons via Adsorbed Planar Molecular Nanoparticles

【著者】
Hirofumi Tanaka, Ryo Arima, Minoru Fukumori, Daisuke Tanaka, Ryota Negishi, Yoshihiro Kobayashi, Seiya Kasai, Toyo Kazu Yamada, Takuji Ogawa

【掲載雑誌】
Scientific Reports(英国科学雑誌、ネイチャー・パブリッシング・グループ)5巻, 12341 (2015).

参考図

図1 2層カーボンナノチューブ(DWNT)から単層グラフェンナノリボン(sGNR)を作製する方法。
赤・青部分がそれぞれ炭素原子層一枚で構成される。 (a) アニールで欠陥を作製 (b) 超音波でアンジップ。欠陥から開き始める (c) DWNTが完全にアンジップされ、(d) 平坦な2層グラフェンナノリボン(dGNR)が得られる。(e) さらに超音波処理を進めると2層のGNRが剥がれはじめ、(f) 2枚の単層グラフェンナノリボン(sGNR)が得られる。外側のCNTから得られたsGNR(赤)は内側からのもの(青)よりやや幅が広い。

図2 AFM 像※4
(a) 出発物質のDWNT (b) アンジップで得られたdGNR (c) 2枚のGNRが剥がれて別々のsGNRになろうとしている領域。(d) 得られたsGNR. 各々のスケールバーは50nm。(e) (c)中のdGNRのラインプロファイル。(e) (c)中のdGNRのラインプロファイル。(a), (b), (d)中のラインプロファイルは図中の線に沿って得られた。(a)-(d)は別の試料で得られた結果である。

図3 (a) NDIの分子構造 (b) NDIナノ粒子吸着後のsGNRのAFM像 (c) GNR/NDI複合体のFET構造のゲート特性。
NDIナノ粒子吸着後sGNRはp型半導体特性を示した。挿絵はバックゲートの構造 (d)NDI粒子によるホール注入およびネック構造(細い部分)形成の様子

用語解説

※1 半金属性
グラフェンの電気伝導はゼロギャップ半導体という特殊な半導体(半金属とよばれる)で、室温では金属性伝導を示す。GNRの場合、幅10nmまで半金属性を保ち、それより細くなると徐々にバンドギャップが大きくなる。今回の研究では配線は金属、デバイスは半導体という構造を目指すため、DWNTから作製した幅15nm-50nmのGNRを用いた。SWNTから作製したGNRは幅が10nm以下になり、半導体性が現れるため今回は用いなかった。

※2 アンジップ法
カーボンナノチューブ(CNT)をあたかもファスナーを開くように長軸に平行に開きグラフェンナノリボン(GNR)を得る方法。GNRの幅は元のCNTの約3倍。
参考文献:Liying Jiao, Xinran Wang, Georgi Diankov, Hailiang Wang and Hongjie Dai, Nat. Nanotechnol. 5, 321 (2010).

※3 キャスト法
溶液を一滴から数滴基板に滴らすこと。溶媒が揮発すると溶質(今回の場合NDI分子)が基板上に残存する。

※4 原子間力顕微鏡(AFM)
表面を鋭い針でなぞることでナノサイズを観察できる顕微鏡。

※5 グラフェンナノメッシュ
グラフェンに等間隔に穴をあけると電流の通り道(電流パス)は細くなり(=ネック)、グラフェンの端部からの電気的な影響を受ける(=ネック効果)。グラフェンは一般に幅10nmを切ると半導体的振る舞いが優勢になる。

参考URL

大阪大学大学院理学研究科化学専攻 小川研究室
http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/ogawa/

九州工業大学生命体工学研究科人間知能システム工学専攻 知能創発ナノシステム研究室
http://www.brain.kyutech.ac.jp/~tanaka/index.html

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