2015年6月9日

本研究成果のポイント

・5ミリ秒の時間分解能を有する“その場”X線ナノビーム回折法を開発
・X線誘起化学反応により結晶が回転し、格子が変形する様子を世界で初めて可視化
・物質科学、物理、化学およびナノサイエンス分野など幅広い分野への応用に期待

概要

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のJianwei Miao(ジャンウェイ ミャオ)教授、ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲンのTim Salditt(ティム サルディット)教授、大阪大学大学院工学研究科精密科学・応用物理学専攻の高橋幸生准教授、鈴木明大氏(博士後期課程3年・日本学術振興会特別研究員)らの共同研究グループは、5ミリ秒の時間分解能を有する“その場”X線ナノビーム回折法を開発しました。また、この手法を用いてX線誘起化学反応により多結晶中の結晶粒が回転し、結晶格子が変形する様子をその場観察することに成功しました。

本研究成果は、平成27年6月8日(月)16時(英国時間)〔日本時間:9日(火)午前0時〕に英国Nature Publishing GroupのNature Materials誌に公開されました。

5ミリ秒の時間分解能を有するX線ナノビーム回折法の概念図

研究の背景

多くの物質は結晶方位の異なる多くの結晶粒から構成される多結晶体であり、結晶粒および結晶粒界の構造・ダイナミクスが物質の特性と深く関わっていることが知られています。結晶粒や結晶粒界の構造評価には、一般に透過電子顕微鏡法やX線回折法が用いられています。透過電子顕微鏡法は原子レベルの観察が可能ですが、短時間での観察が乏しいという問題がありました。一方、X線回折法は短時間での測定が可能で試料環境を選ばないという点において優れていますが、小さなものを観ることができないため、多結晶体ではいくつかの結晶粒の足しあわされた構造情報しか得られないという問題がありました。

本研究では、従来のX線回折法の問題点を解決するために、ドイツの放射光施設PETRAⅢ※1 においてKB全反射集光鏡※2 を用いて高強度なX線ナノビームを形成し、最先端のX線検出器(ピクセルアレイ検出器PILATUS 1M or 6M) ※3 を駆使することで、一つの結晶粒からのX線回折強度パターンを5ミリ秒の間隔で取得可能なX線ナノビーム回折法を開発しました。

本手法により、コダック社の「リナグラフ」という感光紙を測定したところ、X線照射によって誘起される化学反応によって、臭化銀の結晶粒が一秒間に3.25ラジアン回転し、その結晶格子が0.5オングストローム変形する様子を世界で初めて観測しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

従来のX線回折法では観測できなかった多結晶中の一つの結晶粒の構造・ダイナミクスが評価可能となったことで、X線回折法による構造可視化研究の新境地開拓が期待されます。例えば、触媒材料やエネルギー変換素子等の多結晶機能性材料に応用することで、化学反応中の構造・ダイナミクスを理解し、新たな材料開発に指針を与えることができます。

掲載論文

【題名】Grain rotation and lattice deformation during photoinduced chemical reactions revealed by in situ X-ray nanodiffraction

【著者】Zhifeng Huang, Matthias Bartels, Rui Xu, Markus Osterho, Sebastian Kalbfleisch, Michael Sprung, Akihiro Suzuki, Yukio Takahashi, Thomas N. Blanton, Tim Salditt and Jianwei Miao

【掲載誌】Nature Materials
DOI: 10.1038/nmat4311

用語解説

※1 放射光施設PETRAⅢ
ドイツのハンブルク郊外にある放射光施設。2009年に運用が開始された。現在、世界で最も輝度の高い蓄積リング型のX線源とされる。放射光(シンクロトロン放射光)とは、荷電粒子が磁場の中で曲がる際に放射される光の一種。

※2 KB全反射集光鏡
楕円形状を有する全反射鏡2枚を直交配置した光学系による集光鏡。X線を集光した際、小さな集光スポットと高い集光効率が得られるのが特徴である。KBはKirkpatrick-Baezの略。

※3 ピクセルアレイX線検出器
パルス計数型検出器をアレイ状に並べた二次元検出器。スイスのパウル・シェラー研究所で開発されたピクセルアレイ検出器PILATUSは暗電流や読み出しノイズによるバックグラウンドが生じず、6桁以上のX線光子数のダイナミックレンジが得られるのが特徴である。また、ピクセル毎にX線光子数がデジタル化される為に読み出し時間が3ミリ秒程度で行えるのが特徴である。

参考URL

研究室HP
http://www-up.prec.eng.osaka-u.ac.jp/takahashi

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