2015年5月21日

本研究成果のポイント

・これまで制御できていなかった液晶薄膜におけるトポロジカル欠陥※1 の本数と形状を制御する技術を開発し、微小物質の空間配置を2V以下の電圧で可逆的に制御できることを証明
・トポロジカル欠陥※1 の導入による自己修復能を持つゲル材料の作製実現などが知られるが、その形状制御は困難だった
・液晶TVや防弾チョッキに使われる機能性高分子素材など「液晶」状態を示す材料は多く、幅広い分野への応用に期待

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻の吉田浩之助教、朝倉啓太氏(2014年度同大工学研究科博士前期課程修了)、尾崎雅則教授、および産業技術総合研究所機能化学研究部門動的機能材料グループの福田順一主任研究員は、ネマティック液晶※2 薄膜におけるトポロジカル欠陥の数と形状を制御する技術を開発しました。また、作製したトポロジカル欠陥を用いることで、大きさ数ミクロンの微小物質を2V以下の小さな電圧で可逆的に動かせることを示しました。

ネマティック液晶とは棒状分子が一様に配向した固体と液体の中間相※3 であり、ディスプレイにも応用される、最も一般的な液晶材料です。液晶におけるトポロジカル欠陥は自己修復機能を持つゲルの作製や光渦と呼ばれる特殊な光波の生成など、ディスプレイ以外の応用を拓くものとして注目されていますが、これまでその数や形状を制御することは容易ではありませんでした。

社会的にはテレビの代名詞となっている「液晶」ですが、防弾チョッキに使われる機能性高分子素材や太陽電池などに応用される有機半導体、DNAに代表される生体試料など、実は多くの材料系が「液晶」状態を示します。今回開発したトポロジカル欠陥の数と形状を制御する技術は、材料系を選ばないため、幅広い分野への応用に貢献することが期待されます(図1)

本研究成果は、平成27年5月21日(英国時間)に英国 Nature Publishing GroupのNature Communications誌に公開されました。

研究の背景

ネマティック液晶とは棒状分子が一様に配向した固体と液体の中間相であり、ディスプレイにも応用される、最も一般的な液晶材料です。ディスプレイにおいて液晶の分子は一様配向していますが、近年、分子の配向が一意に定義できない特異点、すなわちトポロジカル欠陥が注目を集めています(図2)

液晶のトポロジカル欠陥は3次元空間では点または線として存在し、一様配向した液晶とは異なる振る舞いを示します。例えば、トポロジカル欠陥の導入により、液晶の粘弾性的な性質が変わり、自己修復能を持つゲル材料を実現できることが知られています。他にも、光渦と呼ばれる、レーザー加工に用いられる特異な光波を生成できることが知られています。

しかしながら、これまでの研究では偶然生成されたトポロジカル欠陥、あるいは特殊な形状を持つ基板を用いて生成されたトポロジカル欠陥が利用されることが多く、その形状を任意に制御することは容易ではありませんでした。 本研究では、液晶を保持する基板の界面に特異点を有する配向容易軸※4 をパターニング※5 することで、液晶ディスプレイと同じサンドイッチ型の素子において、任意の数と形状のトポロジカル欠陥を生成できることを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

液晶のトポロジカル欠陥は従来制御することが難しく、理学的な興味から研究されることが殆どでした。本研究成果はトポロジカル欠陥の数や形状を制御することを可能とするため、トポロジカル欠陥を活用した新しい液晶の応用が拓けることが期待されます。例えば、液晶中に金属のナノ物質を添加し、トポロジカル欠陥によってその配置を制御することができれば、特性可変なメタマテリアル※6 への応用が期待されます。また、多数のトポロジカル欠陥を網目状に生成することによって、高速な電界応答性から最近注目されるフラストレート相※7 を人工的に誘発できる可能性があります。

特記事項

本研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(さきがけ)プロジェクト、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金の支援によって得られた成果です。

詳細な説明

実験では、光配向法※8 を用いて液晶を保持する2枚の基板の界面に図3に示すような配向容易軸をパターニングしました。パターニングした配向容易軸はそれぞれ特異点を持ち、かつ異なる欠陥強度※9 を持つため、偏光顕微鏡※10 で観察すると特徴的な模様が見えます。パターニングを行った2枚の基板を、その特異点が若干ずれるように配置すると、特異点を結ぶようにトポロジカル欠陥が生成されることが見出されました。図4に示すように、誘起されるトポロジカル欠陥の本数は配向容易軸パターンの欠陥強度の2倍となり、その形状は特異点周りの液晶の配向に支配されることが明らかとなりました。この性質を利用し、基板界面の配向容易軸パターンを変えることで、2枚のガラスに挟まれた液晶薄膜中に様々な形状のトポロジカル欠陥を誘起することに成功しました。

また、トポロジカル欠陥は微小物質を捕捉する性質があるため、直径3ミクロンの粒子を液晶に添加した場合には、トポロジカル欠陥の形状を模倣した3次元的な空間配置が得られることが明らかとなりました。更に、2V以下の低い電圧印加によってトポロジカル欠陥は3次元的に形状を変化させ、それに伴って微小物質の空間配置が可逆的に制御できることが明らかとなりました(図5)。このように、これまで制御がほとんどなされていなかった、液晶のトポロジカル欠陥の数と形状を制御することに成功しました。

参考図

図1 形状制御したトポロジカル欠陥の生成
液晶を挟む2枚のガラス基板を、パターンの特異点がずれるように離して設置すると、2枚の基板の特異点を結ぶ様に トポロジカル欠陥が誘起され、細い線状の組織として観察される。その本数は特異点の欠陥強度によって決まり、形状は 特異点周りの配向分布によって決まる。

図2 一様配向した液晶とトポロジカル欠陥を含む液晶の模式図
トポロジカル欠陥は分子の配向方向が一意に定まらない特異点であり、3次元空間では点また線として存在する。

図3 基板界面にパターニングした配向容易軸分布の模式図と実験で得られた偏光顕微鏡像
上段の模式図において、液晶分子は流線に沿って配向する。また、下段の偏光顕微鏡像において、液晶は同じパターンを有する2枚のガラス基板に挟まれている。二つの基板の特異点の位置が一致している場合、パターンを反映した明暗の模様が観察される。

図4 形状制御したトポロジカル欠陥の生成
液晶を挟む2枚のガラス基板を、パターンの特異点がずれるように離して設置すると、2枚の基板の特異点を結ぶ様にトポロジカル欠陥が誘起され、細い線状の組織として観察される。その本数は特異点の欠陥強度によって決まり、形状は特異点周りの配向分布によって決まる。

図5 トポロジカル欠陥を利用した微小物質の空間配置と電圧制御
液晶に添加された直径3マイクロメートルの粒子は、トポロジカル欠陥に捕捉され、その形状どおりの空間配置をとる。トポロジカル欠陥の形状は2V以下の低い電圧によって変形し、それに伴って粒子の位置も変化する。

用語説明

※1 トポロジカル欠陥
一様ではない液晶の配向分布について、空間内の各位置において配向の方向をいかに連続的に変化させても、一様な配向状態を得ることができない場合、その配向分布はトポロジカル欠陥を含むといわれる。例えば、図2右側の配向分布について、各位置における液晶の配向方向をどのように連続的に変化させても、特異点は除去できない。

※2 ネマティック液晶
液晶は構成分子の並び方によって異なる呼び名がつけられている。ネマティック液晶では棒状の分子が集団として一つの方向に並んだ状態をとっており、ディスプレイにも応用されている最も基本的な液晶の種類である。顕微鏡で観察すると糸に似た組織が見られることから、ギリシャ語で「糸状」を意味する(ήματος)を語源としている。

※3 中間相
物質の3態として固体・液体・気体が知られているが、液晶は固体(結晶)と液体の中間的な性質を持つ。即ち、個々の分子の重心は液体のようにランダムであるが、その向きは結晶のように一方向に揃っている。このように、固体と液体の中間的な物質の状態を中間相と呼ぶ。

※4 配向容易軸
液晶は流動性を有するため、一般的に2枚のガラス基板を数マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの千分の一)の空隙を隔てて設置したサンドイッチ型の素子に封入される。配向容易軸は液晶を保持する基板の界面で液晶分子が並びやすい方向を指す。通常は基板に配向膜と呼ばれる薄膜が成膜され、ラビング法や光配向法などにより配向方向が定義される。

※5 パターニング
基板上に特定のパターン(pattern)を形成する処理のこと。ここでは、空間的に変化する配向容易軸の分布を形成することを指す。

※6 メタマテリアル
人工的に作製した、光の波長よりも細かな構造と光との相互作用を利用することで、巨視的な光学特性を人工的に操作した媒質。天然に存在する物質では得られない屈折率を実現できることから、光を自由に操ることのできる技術として注目を集めている。

※7 フラストレート相
トポロジカル欠陥において配向方向が一意に定まらないとは、欠陥の中央でどのような配向方向を考えても、隣接する液晶分子全てとは連続的につながることができないことを表す。このように、複数の安定状態が拮抗した結果、最安定な状態が一意に定まらない状況をフラストレート(frustrate)しているという。フラストレート相と呼ばれる一部の液晶は、フラストレーションを媒質の至るところに抱えた相であり、高速な電界応答を示すなど、特異な性質を示すことから注目されている。本研究で開発した技術は任意の数と形状のトポロジカル欠陥を生成することができるため、未知のフラストレート相を人工的に誘発できる可能性がある。

※8 光配向法
偏光を用いて液晶分子の配向方向を制御する技術。本研究では照射した偏光と垂直方向に配向容易軸が規定される配向膜を用いて実験を行った。非接触であり、パターニングが容易という特徴がある。

※9 欠陥強度
ネマティック液晶は頭尾の区別をもたないため、特異点周りを周回するごとに分子の配向方向が360°の半整数倍回転すれば、連続性は保たれる。この時、360°を基準とした倍数を欠陥強度と呼ぶ。例えば図3に示したパターンの場合、左から欠陥強度は+1,+2,+3である。

※10 偏光顕微鏡
偏光子と呼ばれる光学素子を搭載することで液晶分子の配向方向を観察可能とした光学顕微鏡。偏光子は軸を持っており、ネマティック液晶の配向方向が偏光子の軸と一致する場合には暗く、軸が一致しない場合には明るく観察される。

参考URL

研究室HP
http://opal.eei.eng.osaka-u.ac.jp/

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