2015年5月18日

本研究成果のポイント

・脊椎動物のワカレオタマボヤを用いて、ウイルス等の外来DNAから細胞を守る仕組み(DNAi)を発見
・この現象は植物や古細菌等の一部の生物でしか確認されておらず、多細胞動物では世界初の発見
・動物の外来遺伝子に対する防御システムの進化に新しい視点が開かれ、また従来よりも容易に遺伝子機能の解析が可能になり、様々な発生現象の研究の加速につながることに期待

リリース概要

大阪大学大学院理学研究科の表迫竜也研究員、小沼健助教、西田宏記教授の研究チームは、脊索動物※1 ワカレオタマボヤ※2 (図1)にDNAの断片配列を導入することによりウイルス等から細胞を守るために、導入された遺伝子の働きを特異的に抑える仕組みを発見しました。この現象はDNA interference (DNAi)と呼ばれ、今まで植物や古細菌等の一部の生物でしか確認されておらず、多細胞動物では研究が行われていなかったため、その仕組みは全く分かっていませんでした。

今回、多細胞動物において初となるDNAiの例を発見したことにより、生物がウイルス等の侵入からどのように守っているのかというような、動物の外来遺伝子に対する防御システムの進化に新しい視点が開かれることが期待されます。また、DNAi法を利用することにより、容易に遺伝子の機能を解析することが可能となり、様々な発生現象の研究の加速に繋がることも期待されます。

なお、本研究成果は5月22日に英国生物学専門誌「Proceedings of the Royal Society of London B」に掲載されました。(オンライン版については4月22日(水)に掲載されております)

研究の背景

生物はウイルスの感染等から細胞を守る為の制御システムを備えており、良く知られた現象としてRNAinterference※3 (RNAi)があります。このRNAiという現象は、細胞内に二重鎖RNA(dsRNA)(一部のウイルス等が持つ、相補的な配列をもつRNAが結合して二本鎖の構造をとるRNA)が侵入することで引き起こされ、この侵入したdsRNAの配列に基づいて細胞内で特異的な遺伝子の働きが抑制されます。この現象は線虫を用いた研究で初めて報告され、その後の研究によりショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウス等、広い生物種で保存されたシステムであることが明らかになりました。この発見により、アンドリュー・ファイアー教授、クレイグ・メロー教授は2006年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

一方で、一部の生物ではDNAiという現象が知られており、細胞内に遺伝子の断片を導入することでRNAiと同様に特異的な機能阻害が引き起こされることが確認されています。しかしながら、DNAiはRNAiと異なり、これまでに一部の植物、高度好熱菌、単細胞動物であるゾウリムシでしかその現象が報告されておらず、多細胞動物では研究が行われていなかったため、その仕組みも全く分かっていませんでした。

研究内容と成果

これまでの研究で、ヒトやマウスと同じ脊索動物に属するワカレオタマボヤにおいて、RNAi法を用いた遺伝子機能抑制法が確立されていました。しかし、今回の研究では、このワカレオタマボヤにおけるDNAiによる遺伝子機能阻害システムの発見に成功しました。ワカレオタマボヤにBrachyury(ブラキウリ)遺伝子※4 のDNA断片を導入すると、ワカレオタマボヤの細胞内で働いているBrachyury遺伝子の機能が阻害されて、尾が短く収縮した異常を示す個体が得られることを見つけました(図2①③)。すなわち、ワカレオタマボヤにおいてDNAの断片配列を導入することにより、配列特異的な機能阻害が引き起こされるということです。また、この注入するDNAの断片はRNAに転写される領域だけでなく、RNAにならない遺伝子周辺の領域を用いても、機能阻害が引き起こされることが分かりました(図2②④)。このことから、この機能阻害は遺伝子からRNAに転写する段階を阻害することによって引き起こされると考えられます。また蛍光タンパク質をコードするRNAを用いて機能阻害の効果を調べた結果(図3)、この阻害は転写だけでなくmRNA(RNAの内タンパク質に翻訳されるもの)の分解も同時に引き起こすことが示されました。今回の発見は、DNAiが多細胞動物でも保存されていることを示した世界で初めての例です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

DNAi法を利用することにより、これまでの手法に比べ容易に遺伝子の機能を解析することが可能になります。これにより卵から我々の体がつくられる過程でどのような遺伝子が働いているのかという、様々な発生現象の研究の加速に繋がることが期待されます。またRNAiの研究では線虫でその現象が見つかったことがきっかけで多くの多細胞動物でRNAiが保存されていることが明らかになりました。今回DNAiという現象が多細胞動物で初めて発見されたことにより、生物がウイルス等の侵入からどのように守っているかというような、動物の外来遺伝子に対する防御システムの進化に新しい視点が開かれることが期待されます。

特記事項

本研究成果は5月22日に英国生物学専門誌「ProceedingsoftheRoyalSocietyofLondonB」に掲載されました。(オンライン版については4月22日(水)に掲載されております)

参考図

図1 ワカレオタマボヤの成体

図2 様々な領域のBrachyury遺伝子断片を導入した結果、同様に尾部の短縮した表現型が得られた。

図3 蛍光タンパク質EGFPに対するDNAiの効果
蛍光タンパク質mCherryとEGFPのmRNAと共にEGFPに対するDNA断片を導入したところ、EGFPの緑色の蛍光のみ特異的に抑制された。

用語解説

※1 脊索動物
動物分類群の一つで、ヒト、マウス、魚など背骨を持つ脊椎動物と、それに近縁なナメクジウオやホヤなどを含む原索動物を合わせたものです。これらは共に脊索をもつという特徴をもち、脊椎動物では脊索が発生過程で背骨に置き換わるのに対し、原索動物では背骨にならずに脊索を保持し続けます。

※2 ワカレオタマボヤ
ワカレオタマボヤは脊索動物に属する海洋性のプランクトンです。ワカレオタマボヤは我々ヒトと同じ脊索動物に属しているにも関わらず非常に少ない細胞の数しか持ちません。このことからマウス等では解析が困難な生命現象を非常にシンプルな系で解析することが可能であり、新しいモデル生物として利用可能であると期待されています。

※3 RNAinterference
外部から細胞内にdsRNAが侵入すると、このdsRNAの働きを抑える防御反応を示します。まず侵入してきたdsRNAは短い二重鎖RNA(siRNA)に切断され、さらにこのsiRNAをもとにこの配列に対応するmRNAの分解を引き起こします。このとき導入する生物のDNA配列をもとにdsRNAを人工的に作成し導入を行うと、このdsRNAに由来するsiRNAが導入された生物の中に存在するmRNAを特異的に分解し、その遺伝子の機能を阻害します。このことを利用することで遺伝子の機能を調べることが可能です。

※4 Brachyury遺伝子
脊索動物に共通の特徴である脊索を形成するのに重要な遺伝子です。この遺伝子の働きをRNAiを用いて抑えると、尾部が収縮した表現型が得られることが知られていました。

参考URL

研究室HP
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/nishida/index.html

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