2015年5月8日

本研究成果のポイント

・動脈血管から分泌されるアペリンペプチドが、静脈血管に発現するAPJ受容体に作用することで、静脈が動脈側に引き寄せられ、並走性が構築されることを発見
・動脈と静脈の並走性が体温の維持に関わっていることが実証され、血管の新たな機能を解明
・アペリンを制御することで、環境に合わせて体温を調整できる血管ネットワークの再生が可能となることに期待

概要

大阪大学微生物病研究所の高倉伸幸教授、木戸屋浩康助教らの研究グループは、動脈血管と静脈血管から構成される血管パターニングの新たな制御機構を明らかにしました。生体内をめぐる血管には動脈、静脈があり、恒温動物ではこれらの血管は並走していますが、どのような仕組みで並走し、そして並走することがどういう意義があるのかはこれまで不明でした。本研究では、動脈から産生される生理活性ペプチドであるアペリンが、静脈に発現するAPJ受容体※1 に作用することにより、静脈が動脈側に引き寄せられることで、血管の並走性が構築されることを明らかにしました。また、血管が並走しないマウスでは、動脈と静脈の間で熱交換を行う事ができず、周囲の温度変化への対応力が低下したことから、動脈と静脈の並走性が体温の維持に関わっていることが実証され、血管の新たな機能を解き明かしました。血管の形成誘導は、iPS細胞などを用いた再生医療の実現化にも大きな課題となっていますが、アペリンを制御することで機能的な循環系を有する血管ネットワークの再生が可能になり、組織再生研究の発展に寄与することが期待できます。

なお、本研究成果は、2015年4月24日に「Developmental Cell」のオンライン版で公開されました。

図 アペリン系による動脈と静脈の並走性の制御
動脈血管から分泌されるアペリンペプチドが、静脈血管に発現するAPJ受容体に作用することで、静脈が動脈側に引き寄せられるように移動することが明らかになりました(左図)。その結果、動脈血管(白)と静脈血管(赤)の綺麗な並走性が構築されます(右写真)。

研究の背景

全身に張り巡らされた血管は、各組織に酸素や栄養分を送り届ける役割を担っており、生体機能の維持に重要な役割を果たしています。血管は、機能や形態から動脈、静脈、毛細血管の大きく3種に分類することができます。動脈は心臓から末梢組織へと酸素や栄養を運ぶ経路であり、静脈は炭酸ガスや老廃物を心臓へ戻すときに通る経路です。恒温動物では動脈と静脈のネットワークパターンが綺麗な並走性を示すことは古くから知られておりましたが、どのような分子機構によって並走性が決定しているのかは明らかになっていませんでした。また、動脈と静脈が隣接した走行性を示すことが、生理的にどのような意義があるのかは不明でした。

研究の成果

本研究では動脈血管から産生されたアペリンが、静脈血管内皮細胞に発現するAPJ受容体に作用することが、動脈と静脈のパターン形成に重要であることを明らかにしました。血管が生体内で形成される過程では、まず毛細血管の一様な網状構造が作られます。その後に一部の毛細血管が太くなる事で動脈や静脈が形成されていきますが、形成された直後の動脈と静脈は離れた場所に位置しています。アペリンが静脈血管に作用すると、血管を構成する内皮細胞が活性化されて運動能が高まります。加えて、静脈の周囲に単球細胞※2 が集められ、静脈を固定している細胞外基質の分解が促進されます。その結果、静脈血管はスライドするように動脈血管の方向へと移動していると考えられます。静脈と動脈の間では互いに「反発する力」が存在する事が知られておりましたが、アペリンはAPJ受容体に作用することによって「引き寄せる力」を生み出します。このように相反する力が巧妙なバランスを生み出すことによって、動脈と静脈の並走したパターニングが作られることを明らかにしました。

また、アペリンやAPJの遺伝子を欠失させることにより、動脈と静脈が離れた走行性を示すマウスを作成して生理機能への影響を解析しました。実験の結果、このようなマウスでは、動脈と静脈の間で熱交換を行うことができず、周囲の温度変化への対応力が低下していることが判明しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

iPS細胞等の万能細胞から樹立された組織を用いた再生医療の実現化が社会的に望まれていますが、そのためには移植した再生組織へ酸素や栄養分を届けるための血管の再生も重要な問題となります。本研究成果は、恒温動物における動静脈の並走性が体温維持に必須であることを解明し、血管再生にあたり整然とした動脈・静脈ネットワークを形成させることの重要性を示しました。さらには、動静脈の並走性がアペリン系によって制御されていることが明らかになったことで、アペリンを用いてより機能的な血管再生を誘導しうる可能性を示し、再生医療の実現化に寄与できるものと期待されます。

特記事項

本研究成果は4月24日に「Developmental Cell」のオンライン版で公開されました。

[論文タイトル]
APJ Regulates Parallel Alignment of Arteries and Veins in the Skin

[著者]
Hiroyasu Kidoya, Hisamichi Naito, Fumitaka Muramatsu, Daishi Yamakawa, Weizhen Jia,1 Masahito Ikawa, Takashi Sonobe, Hirotsugu Tsuchimochi, Mikiyasu Shirai, Ralf H. Adams, Akiyoshi Fukamizu, and Nobuyuki Takakura

用語解説

※1 APJ受容体
細胞膜に存在するタンパク質で、アペリンペプチドに特異的に結合し、細胞の反応を開始させる。

※2 単球細胞
血液中に含まれる白血球の一種で、単核の遊走細胞。生体防御反応に重要であることが知られているが、近年ではその他にも様々な役割を果たすことが明らかになりつつある。

参考URL

研究室HP
http://st.biken.osaka-u.ac.jp/

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