2015年4月29日

リリース概要

特発性正常圧水頭症は、脳の中に液体がたまってしまい歩行障害や認知症、尿失禁といった症状を示す、高齢者で発症する病気です。東北大学大学院医学系研究科の森悦朗(もりえつろう)教授、大阪大学大学院医学系研究科の数井裕光(かずいひろあき)講師、順天堂大学医学部の宮嶋雅一(みやじままさかず)先任准教授,洛和会音羽病院正常圧水頭症センター石川正恒(いしかわまさつね)センター長らのグループは、全国20施設と共同で、特発性正常圧水頭症に対する腰部くも膜下腔腹腔脳脊髄液短絡術※1 (L-Pシャント術)の有用性を、多施設共同臨床試験により世界で初めて立証しました。従来、特発性正常圧水頭症の治療には脳室-腹腔シャント術(V-Pシャント術)が主流でしたが、脳の中にチューブを挿入するため脳を傷つけてしまう可能性がありました。本研究は、脳を傷つけない治療法であるL-Pシャント術の有用性を世界で初めて明確にした重要な報告です。

本研究結果は、4月29日午前0時(イギリス時間、日本時間4月29日午前8時)のLancet Neurology誌(電子版)に掲載されました。本研究は、ジョンソン・エンド・ジョンソンと日本メジフィジックスの支援を受けて日本正常圧水頭症学会の研究プロジェクトとして行われました。

研究内容

水頭症とは、頭の中に存在する体液(脳脊髄液)が何らかの原因で吸収が悪くなり、過剰な脳脊髄液が頭の中に溜まることで脳を圧迫してしまうために症状でてくる病気です(図1)。水頭症の中で、脳脊髄液の圧力が正常範囲の病態を、特に正常圧水頭症と呼びます。さらに高齢者において、先行する疾患が無くゆっくりと徐々に進行する正常圧水頭症を、特発性正常圧水頭症(iNPH)と呼びます。iNPHは我が国で行われた疫学研究の結果、地域在住の高齢者の1.1%に存在することが明らかになり、頻度の多い疾患であることがわかってきました。しかしiNPHに対する啓発が十分なされているとはいえず、見逃されている患者さんも多数存在すると考えられています。iNPHでは、歩行障害、認知症、尿失禁を有することが多く、これを3徴と呼びます(図2)。1965年に正常圧水頭症が初めて報告された時からシャント術(図3)によって3徴が改善するとされていましたが、実際に改善するのか否かを、信頼性の高い研究で検証されたことはありませんでした。

2010年3月から2012年12月まで日本正常圧水頭症学会の事業として、医師主導多施設共同研究SINPHONI-2が我が国の20施設で行われてきました。本研究は、iNPHに対する腰部くも膜下腔腹腔脳脊髄液短絡術(L-Pシャント術)の有用性を、多施設共同臨床試験で調べたものです。93名のiNPHの患者さんを登録した後、すぐにL-Pシャント術を受ける群(早期群49名)とプログラムに沿った体操をしていただきながら3ヶ月間手術を待った後にL-Pシャント術を受ける群(待機群44名)の2つにランダムに分けました。そして3ヶ月後(早期群はシャント術後に、待機群はシャント術前にあたります)、登録時点からの症状の変化を早期群と待機群で比較しました(図4)。その結果、日常生活活動の自立度に改善を認めた患者さんの割合は、早期群で49名中32名(65%)、待機群で44名中2名(5%)でした。また、早期群にのみiNPHの症状(歩行障害,認知症,尿失禁)の改善も認められ、両群間に大きな差を認めました。以上よりiNPHにL-Pシャント術が有効であることが証明されました。さらに、シャント術後12ヶ月間の改善についても両群間で比較したところ、ほとんど差がなくなり、以前行われた研究で示されたV-Pシャント術の効果と同等でした。シャント術と関連する重篤な有害事象は、手術後12ヶ月の間に87例中10例(11%)に認められ、多くはシャントチューブの問題でした。本研究によって、脳を傷つけない治療法であるL-Pシャント術の有用性が世界で初めて明確に示されました。

本研究は、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社と日本メジフィジックス株式会社によって支援を受けて行われました。

発表論文

Lumboperitoneal shunt surgery for idiopathic normal pressure hydrocephalus (SINPHONI-2): an open-label randomised trial
邦訳:特発性正常圧水頭症に対する腰椎-腹腔シャント手術(SINPHONI-2):非盲検無作為化試験
著者:数井裕光、宮嶋雅一、森 悦朗、石川正恒、他SINPHONI-2の研究者

参考図

図1 脳脊髄液の流れと水頭症患者における脳室の拡大

図2 iNPHの3つの徴候(3徴)

図3 iNPHに対する治療法

図4 iNPHに対するL-Pシャントの効果

用語説明

※1 腰部くも膜下腔腹腔脳脊髄液短絡術
腰椎-腹腔シャント(L-Pシャント)術とも呼ぶ。脳室と脊髄はつながっており、腰椎部分のくも膜下腔から腹腔(ふくこう/ふくくう)へ脳脊髄液を短絡させることで、脳室内の圧力を下げることができる。直接脳室から腹腔へ脳脊髄液を短絡させる治療法を、脳室-腹腔シャント術(V-Pシャント)術と呼ぶ。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科精神医学分野神経心理研究室HP
http://nposakau.web.fc2.com/

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