2015年4月20日

本研究成果のポイント

・光学材料の結晶を用いた光偏向制御技術をOCT※1 イメージングに適用し、従来の100倍以上の速さを実現した計測システムを開発
・OCTを使用した医療診断の計測時間が短縮でき、患者に対する負担を軽減することに繋がる
・高速3次元組織構造計測の利点を生かした皮膚疾患診断のための解析や、眼科医療診断、研究用途など様々な分野への応用に期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科の近江 雅人教授らの開発チームは、光学材料であるタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)結晶※2 の光偏向器としての機能を利用した、高速な鉛直断面光断層干渉計測システム(En face OCT)※3 の開発に成功しました。KTN結晶は日本電信電話株式会社(NTT)がこれまでに開発した、光偏向器や可変焦点レンズへの適応が期待される材料です。

今回、同開発チームは印加電圧に対しレーザー光の出射角度を高速(現在は200kHz程度)制御可能な偏向器としての特性に着目し、光断層干渉計測(OCT)技術に適用することで、従来のタイムドメイン方式OCTでは達成することができなかった大幅な速度の向上(100倍以上)を実現しました。特定の分野を問わず、OCTを使用した医療診断において計測に要する時間を短縮することは、患者に対する負担を軽減することに繋がります。また、OCT技術との融合では、一般的に採用事例の少ない鉛直断面光断層干渉計測を導入することが高速化に繋がりました。

本開発成果により、将来的には、高速な3次元生体組織構造計測の利点を生かすことで発汗に関する皮膚疾患診断のための解析、眼科医療診断、その他研究用途など様々な分野への応用が期待されます。

なお、本開発の内容は、2015年4月22~24日に開催された「OPTICS & PHOTONICS国際会議(OPIC2015)」で発表されます。

開発の背景

現在、最も普及している眼科医療診断向けOCT装置を含め、特定の分野を問わずOCTを使用した医療診断において計測に要する時間を短縮することは、患者に対する負担を軽減することに繋がります。また、OCTの高速化は計測対象の動き(対象そのものや器官や組織の動き)に対して、堅ろう性※4 を向上させる利点があります。3次元計測の場合、1ボリュームの計測に要する時間が計測のベースとなる平面計測(断層面、または鉛直断面)×ピクセルの数(面の数)で効いてくるため、OCT計測の高速化が重要な課題となっています。

NTTが実用化したKTN結晶は、電気光学(EO)効果により高速光偏向器としての特性を持っています。ビームを結晶に入射させ、結晶外側に固定した2つの金属電極の電位差を制御することで、出射ビームの高速走査が行えます(図1) 。この特性に着目することで、OCT計測の高速化実現に向けた開発を行ってきました。

開発の内容

開発したKTN光偏向器を用いたEn face OCTシステム(図2) は、生体組織へ入射させる光(使用波長1300nm帯)の光軸に垂直な面を計測の主体とする鉛直断面光断層干渉計測(En face OCT)を導入します。図3 のように、光軸方向と垂直なEn face平面をスキャンし、それを異なる深さで重ねあわせることによって3次元画像を取得します。X軸方向をガルバノミラー、Y軸方向をKTN光偏向器、Z方向を参照ミラーを載せた微動ステージでスキャンします。これにより、従来のタイムドメイン方式のOCTで、一般的に利用されてきた横軸方向走査デバイスであるガルバノミラーのみによる走査に比べ、画像取得スピードが100倍以上向上しました。鉛直断面像の取得レートは500フレーム/秒(fps)、KTN光偏向器によって横軸方向を200kHzで高速走査し、リファレンスミラーで深さ方向を走査することにより、3次元の生体組織の画像が取得することができました(図4) 。En face OCTの取得レート500fpsは世界最速であり、フーリエドメイン型OCTに匹敵する速度を達成しました。

開発成果が社会に与える影響と今後の展開(本開発成果の意義)

開発グループはOCT計測の新たな医療診断の適用分野として、皮膚科学分野への応用を目指しています。OCT計測の高速化・高密度化によって、非侵襲(低侵襲)で皮膚構造を2次元および3次元で解析する技術は皮膚疾患の新たな診断法として期待されています。また精神性発汗の動態解析については、高速なOCT計測で発汗量の時間変化を追跡することにより、交感神経異常に関わる多汗症やその他の発汗異常症の診断に有効な手法になる可能性があります。この新たに考案されたKTN光偏向器とOCT技術の融合を基盤とし、将来的にKTN光偏向器を含めたOCTプローブの小型化目指すことで、様々な医療診断への応用も期待されます。

特記事項

本開発成果は、JST先端計測分析技術・機器開発プログラムの開発課題「KTN光偏向器を用いたEnface-OCTシステムの開発」によって得られたものです。この開発課題は、平成27年度より日本医療研究開発機構(AMED)が実施する医療分野研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として推進されます。

参考文献:
“A novel high-speed en face optical coherence tomography system using a KTN optical beam deflector” (KTN光偏向器を用いた新たな高速En face OCTシステムの開発)
M. Ohmi, A. Fukuda, J. Miyazu, M. Ueno, S. Toyoda, J. Kobayashi Applied Physics Express, Vol. 8, 027001 (2015).

参考図

図1 KTN光偏向器の概念図

図2 KTN光偏向器を用いた En faceシステムの構成図

図3 KTN光偏向器を用いた En faceスキャン方法と3次元データの取得方法

図4 ヒト指紋部のEn face OCT画像と3Dボリュームレンダリング像
(a)En face OCT像(XY面)と2D-OCT像(XZ面),(b)3D-OCTイメージ

用語解説

※1 タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)
カリウム(K)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)からできた酸化物で、化学式はKTa1-xNbxO3で表されます。電圧をかけると屈折率が変化する現象を「電気光学(EO)効果」と呼びますが、KTNは電気光学効果が非常に大きく、低い電圧で屈折率が大きく変わる光学材料です。

※2 光干渉断層計(OCT)
近赤外光の干渉性(コヒーレンス)を利用して、物体内部の断層構造を撮影する技術です。空間分解能が10ミクロンと非常に高く、微細な組織構造を撮影することができます。

※3 鉛直断面光断層干渉計測システム(En face OCT)
通常のOCTでは、Bスキャン像(対象物体に対して垂直の断面像)の撮影を行っていますが、En Face OCTでは、対象物体に対して水平の断面像を撮影します。生体対象物体の水平軸をx軸、y軸とし、深さ方向をz軸とすると、En Face OCTではx-y面の断面像を撮影します。

※4 堅ろう性
その物がどれくらいしっかりしているかの意味で、画像診断では対象物体の動きによるモーションアーチファクトを軽減することを意味します。

研究室HP

研究室HP
http://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~bio-opt/

この研究に携わるには

Tag Cloud

back to top