2015年4月16日

本研究成果のポイント

・胎生期のマウス唾液腺から体内時計の調整や若返りホルモンとして注目の高いメラトニンとメラトニン受容体を発見。
・メラトニンは上皮細胞の形態と接着を変化させ、臓器の大きさをコントロールしている。
・毒性・副作用の少ないメラトニンを用いた臓器の大きさの調節方法により、再生医療研究への貢献に期待。

リリース概要

大阪大学大学院歯学研究科の阪井丘芳教授らの研究チームは、マウス胎児の唾液腺からメラトニン※1 とメラトニン受容体※2 を発見しました。脳の松果体※3 が発現していると考えられていたメラトニンを胎児の唾液腺も発現しており、腺房上皮先端に発現するメラトニン受容体を介して、唾液腺形成の大きさを調整していることを明らかにしました(図1)

比較的毒性の少ないメラトニンを用いた臓器の大きさの調節方法は、再生医療の研究において大きな貢献が期待されます。

さらに、メラトニンには、生物時計の同調作用、睡眠誘導作用だけでなく、抗酸化作用、抗がん作用、骨誘導作用なども報告され、最近では若返りホルモンとしても注目が高く、さまざまな分野の研究への応用が期待されています。

本研究成果は、「Melatonin inhibits embryonic salivary gland branching morphogenesis by regulating both epithelial cell adhesion and morphology」というタイトルでPLoSONE(4月15日(月)(米国東部時間午後2時))のオンライン版で掲載されました。

研究の背景

胎生期において、肺、腎臓、前立腺、唾液腺、涙腺などの臓器は上皮組織が枝分かれを繰り返して、複雑な三次元構造をつくります。枝分かれ現象(分枝形態形成)は肺のガス交換、腎臓のろ過、唾液や涙液の分泌を効率的に行うための形態をつくる上で重要な過程です。すでに唾液腺には、EGF※4 やNGF※5 をはじめ、さまざまな重要な成分が発見されていて、他にも有効な成分が含まれていることが予測されていました。

もともとメラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、血流を介して様々な組織に運ばれ、体内時計を調節していると考えられていました。最近の研究では、松果体だけでなく、網膜や腸管も分泌していることが示され、松果体からのメラトニンが全身に移動するのではなく、個別臓器からの分泌も示唆されるようになってきました。

メラトニンを唾液腺の器官培養に加えると唾液腺の発達が抑制されます。そこにメラトニンの受容体を阻害するルジンドールを添加すると、メラトニンの唾液腺発達を抑制する効果が打ち消されます。

また、メラトニンは時差ぼけをコントロールするための睡眠薬としても用いられていますが、毒性や副作用が少ないことが知られています。本研究では、メラトニンの臓器発達を抑制する作用が細胞増殖の阻害や細胞死を誘導することはありませんでした。唾液腺上皮細胞の形を変え、細胞接着を変化させることにより、臓器の大きさをコントロールしていることが示唆されました。幹細胞を用いた再生医療の研究では、組織を修復した後の肥大化や腫瘍化をコントロールする方法が模索されています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

唾液には、身体の健康を維持するための重要な成分が多く含まれています。その中で、1986年のノーベル医学・生理学賞で注目されたEGFやNGFは、創傷治癒、再生、神経栄養に重要な役割をしていることが知られています。今回は、体内時計の同調や睡眠に重要なホルモンであるメラトニンが唾液中に含まれることと、唾液腺自体がメラトニンを分泌していて、臓器形成に関与していることを報告しました。これらの分子生物学的な解析は、口腔の健康維持だけでなく、最近注目されている口腔ケアから全身への健康維持への大きな裏付けとなる報告です。特に臓器の大きさに対する調整作用は、再生医療への臨床応用が期待されます。

特記事項

本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業、基盤研究(B)の助成によりなされたものです。 また、本研究成果は、PLoSONE(4月15日(月)(米国東部時間午後2時))のオンライン版で掲載されました。

参考図

図1 胎生期の唾液腺の腺房におけるメラトニン受容体の発現
左:唾液腺(胎生16日齢)の顕微鏡像、中央:メラトニン受容体の発現(全体像)、右:メラトニン受容体の発現(腺房拡大像)

用語説明

※1 メラトニン(Melatonin)
体内時計を調節するためのホルモンで、メラトニンに作用する薬は不眠症の治療薬となります。メラトニンは催眠・生体リズムの調整作用だけでなく、抗酸化作用、抗癌作用、骨形成作用などがあり、様々な機能に注目されています。朝に太陽の光を浴びると、メラトニンの分泌が抑制されます。その後、14から16時間後の夜になるとメラトニンが分泌され始めます。これによって、体温を下げるなど睡眠を行うための状態へと調節すると考えられています。

※2 メラトニン受容体(Melatonin receptor)
メラトニンはメラトニン受容体に作用します。これによって、体内時計を調節する作用を得ることができるようになります。

※3 松果体
脳にある小さな内分泌器を示し、概日リズムを調節するホルモン、メラトニンを分泌することで知られています。

※4 EG
Epidermal Growth Factor (EGF)は上皮成長因子のことで、細胞の成長と増殖の調節を行うタンパク質です。1962年、マウス新生児に投与すると成長を促進する物質として、唾液腺から発見されました。

※5 NGF
Nerve Growth Factor(NGF)は神経成長因子のことで、神経軸策の伸長及び神経伝達物質の合成促進作用、神経細胞の維持作用、細胞損傷時の修復作用、脳神経の機能回復を促し老化を防止する作用等を持ち合わせた重要なタンパク質です。特に、樹状突起の機能低下を防ぐ働きがアルツハイマー病や痴呆症の予防・治療に有効であると注目されています。EGFとNGFの発見は、1986年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

参考URL

研究内容紹介
http://www.dent.osaka-u.ac.jp/admission/admission_000311.html

研究室HP
http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~ofdord/index.html

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