脂肪慢性炎症の引き金となる分子を同定

脂肪慢性炎症の引き金となる分子を同定

“肥満と生活習慣病のリンク”を断ち切る画期的な発見!

2015-4-7

概要

この度、大阪大学医学系研究科の前田法一助教(内分泌代謝学)と石井優教授(免疫学)らの研究グループは、独自に開発したバイオイメージング実験系 を用いて、肥満に伴う慢性炎症の過程を詳細に解析した結果、脂肪慢性炎症を引き起こすきっかけとなる分子を発見しました。

過栄養社会が進む近年、肥満の人の割合は増加の一途を辿っています。肥満では単に体重が増えるだけではなく、脂肪組織において軽度の炎症が慢性的に進行することが知られており、この“慢性炎症”が、糖尿病や高血圧・動脈硬化といった生活習慣病を引き起こす元凶であると考えられています。しかしながら、肥満がどうやって脂肪組織での慢性炎症を誘導するのか、その具体的なメカニズムは謎のままでした。

今回の研究では、通常、高カロリーの食事を数週間連続して摂取し続けると、外見的にも肥満になり脂肪細胞も肥大化しますが、バイオイメージングで観察すると、そうなるずっと前(高カロリーの食事を摂取してわずか5日後くらい)、肥満になる前から、脂肪組織内での炎症性マクロファージの動きが活性化していることを突き止めました。さらに解析を進めると、この時期には、脂肪細胞は見た目には変化はありませんが、形質が少し変化してきており、S100A8というマクロファージ遊走・炎症活性化因子 を放出するようになっていることが分かりました。さらには、このS100A8を抑えることで、マクロファージの遊走を抑え、肥満に伴う慢性炎症の進行を抑制することに成功しました。

まとめますと、今回の研究により、肥満に伴う脂肪慢性炎症の、最初期の過程を捉えることに成功し、そのトリガー分子としてS100A8を同定しました。この分子を抑えることで、慢性炎症に伴う様々な生活習慣病の発症を根元から食い止めることができる、新しい画期的な治療法が今後開発されることが強く期待されます。

肥満状態では、脂肪細胞がS100A8を発しマクロファージを呼び込む。その結果、慢性的な炎症状態が形成される。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

食事の欧米化に伴い、近年本邦でも肥満の人の数が増加しています。肥満に続発する生活習慣病(糖尿病や高血圧など)が寿命を縮める要因になっています。この肥満と生活習慣病を繋ぐものが、“慢性炎症”であります。本研究成果は、この慢性炎症を引き起こすトリガーを発見し、これを抑えて“肥満と生活習慣病のリンク”を断ち切ることで、「ある程度太っても健康」な状態を保つことが可能であることを示したもので、大きな意義があります。もちろん、「太らないようにする」ことが一番なのですが、本研究成果を元に、肥満からくる病気を未然に防ぐ治療法が開発されたら、これまでの疾患治療・予防のコンセプトを大きく変える画期的なものと言えます。

特記事項

本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」研究領域(宮坂昌之研究総括)における研究課題「次世代の生体イメージングによる慢性炎症マクロファージの機能的解明」(研究代表者:石井優)の一環として行われました。

掲載論文・雑誌

Ryohei Sekimoto, Shiro Fukuda, Norikazu Maeda*, Yu Tsushima, Keisuke Matsuda, Takuya Mori, Hideaki Nakatsuji, Hitoshi Nishizawa, Ken Kishida, Junichi Kikuta, Yumiko Maijima, Tohru Funahashi, Masaru Ishii*, Iichiro Shimomura. (*corresponding authors)
Visualized macrophage dynamics and significance of S100A8 in obese fat.
Proceedings of the National Academy of Science of the USA (PNAS) (米国科学アカデミー紀要)
2015年 4月7日(火)午前4時(米国東部時間: 4月6日 午後3時)オンライン掲載

参考URL

用語説明

バイオイメージング

生体内の臓器・組織を生きたままで可視化して、その中で動く細胞をリアルタイムで解析する研究手法。

マクロファージ遊走・炎症活性化因子

免疫細胞マクロファージを全身から患部に呼び寄せ、その結果炎症を増加させるタンパク質。