2015年3月24日

本研究成果のポイント

・肉眼やスマートフォンでも観察が可能な、従来の約20倍明るく光る高光度発光タンパク質の開発に成功
・万能細胞(ES細胞)の3つの遺伝子を同時に観察することができ、再生医療研究への貢献に期待
・細胞内カルシウムを検出出来る発光指示薬の開発にも成功、脳のメカニズムの研究への応用が期待

概要

大阪大学産業科学研究所の永井健治教授、理化学研究所生命システム研究センターの岡田康志チームリーダーらの研究チームは、2012年に開発した黄緑色の超高光度発光タンパク質Nano-lantern(ナノ・ランタン※1 )を改良して、さらに明るく光る青緑(シアン)色およびオレンジ色の超高光度発光タンパク質の開発に成功しました。いずれも従来の発光タンパク質の20倍程度明るく光るため、特殊な超高感度カメラを使わなくとも、肉眼やスマートフォンのカメラでその発光を観察することが出来ます。

また、3色の色違いのナノ・ランタンが完成したことにより、細胞内の微細な構造の動態や遺伝子の発現を複数同時に計測することが初めて可能となり、万能細胞(ES細胞)の万能性維持に重要な3つの遺伝子の発現の様子を同時に観察することに世界で初めて成功しました。万能細胞の研究では、蛍光タンパク質を用いる際の自家蛍光※2 や光毒性※3 の影響が問題となっていました。ナノ・ランタンは、外部からの励起光を必要としないため、自家蛍光や光毒性の影響を全く受けません。従って、再生医療の研究において大きな貢献が期待されます。

さらに、ナノ・ランタンを改変して細胞内カルシウムを検出できるシアンおよびオレンジ色の発光指示薬の開発に成功しました。これらの発光指示薬は、外部からの照明光を必要とせず自ら発光するため、光で細胞の活動やタンパク質の機能を制御する光遺伝学的技術※4 との組み合わせが容易です。神経活動の操作と計測を同時に行うことが可能となり、脳のメカニズムの研究への応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS))(3月23日(月)(米国東部時間))のオンライン版で掲載されました。

ナノ・ランタン波長変異体とそれらを用いた発光イメージングによる遺伝子発現解析。スケールバーは100μm

研究の背景

蛍光タンパク質を利用した蛍光イメージング技術については、2008年ノーベル化学賞受賞で知られる下村脩博士らの蛍光タンパク質の開発・実用化や、2014年ノーベル化学賞受賞で知られる超解像度蛍光顕微鏡の開発など、広く用いられており、2012年ノーベル医学・生理学賞の山中伸弥博士によるiPS細胞の研究でも重要な役割を果たしました。しかし、蛍光イメージングでは、試料を強い光で照射する必要があります。その強度は、真夏の直射日光に匹敵します。このような強烈な照明光は、細胞によっては毒性を示したり、生理的応答を示したりするため、細胞本来の様子を観測できません。また、蛍光タンパク質以外の細胞内の成分が示す自家蛍光を蛍光タンパク質からの信号だと誤判定してしまう危険もあります。

一方、「蛍の光」で知られるホタルや夜光虫などの生物発光は、外部からの照明光なしに、細胞内の酵素タンパク質ルシフェラーゼ※5 が発光物質ルシフェリン※6 を酸化するという化学反応のエネルギーを利用して光を出します。従って、生物発光を利用したイメージングが出来れば、蛍光タンパク質では不可避な強い照明光の副作用を一切排除することが出来るはずですが、生物発光は蛍光タンパク質の1000分の1の明るさしかなく、その応用は困難でした。

2012年に永井教授らは発光タンパク質と蛍光タンパク質をハイブリッド化することで、肉眼で確認できるほど明るく黄緑色に光る発光タンパク質ナノ・ランタンの開発に成功しました。しかし、複雑な生命現象の研究のためには、複数の遺伝子・活動状態の同時計測が必須で、ナノ・ランタンの多色化が期待されていました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

蛍光タンパク質は、最初の緑色から、青緑色、続いてオレンジ~赤色と3色揃うことで急速に応用が拡大しました。蛍光タンパク質に比肩しうる明るさで光る超高光度発光タンパク質ナノ・ランタンが青緑色、黄緑色、オレンジ色と3色揃ったことで、同様に利活用が進展するものと期待されます。特に、光毒性の影響のない長時間観察や、自家蛍光の影響を受けない定量性は、万能細胞の観測など再生医療の基礎研究を支えるツールとして極めて有効です。また、光で神経細胞の活動を制御する光遺伝学的技術との組み合わせも容易であるため、脳研究への応用も期待されます。

特記事項

本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「少数性生物学」、「蛍光生体イメージング」、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業・個人型研究(さきがけ)「ナノサイズ高輝度バイオ光源と生命機能計測への応用」などの助成によりなされたものです。

また、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS))(3月23日(月)(米国東部時間))のオンライン版で掲載されました。

用語解説

※1 ナノ・ランタン
今回発表する超高輝度発光タンパク質の総称。タンパク質の大きさはナノ・メートル(100万分の一ミリ・メートル)程度であることから、ナノ・メートル程度の大きさの提灯という意味でナノ・ランタンと名付けられた。

※2 自家蛍光
蛍光顕微鏡観察では、通常、蛍光色素あるいは蛍光タンパク質を細胞に導入して、その蛍光を観察する。これ以外に、細胞内外の生物学的構造も、ある程度の蛍光を発する。これを自家蛍光と呼ぶ。傷んだ細胞など一部の細胞や細胞内構造は強い自家蛍光を発することが知られており、蛍光シグナル検出の妨げとなる。

※3 光毒性
強力な光を細胞に照射すると、細胞内で活性酸素などが発生し細胞が傷害される。これを光毒性と呼んでいる。

※4 光遺伝学
遺伝的手法を利用して実験動物体内の目的の細胞にだけ、光で細胞活動を制御するタンパク質を発現させる実験手法。標的細胞の活動を外部からの光照射により特異的に制御することが出来る。

※5,6 ルシフェラーゼ、ルシフェリン
生物発光では、酵素タンパク質が発光物質の化学反応を促進し、その化学反応のエネルギーが光へと変換される。このときの発光物質の総称がルシフェリンで、酵素タンパク質の総称がルシフェラーゼである。従って、ルシフェリン、ルシフェラーゼの実体は、生物種によって異なっている。

参考URL

研究室HP
http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/bse/

この研究に携わるには

Tag Cloud

back to top