2015年3月23日

本研究成果のポイント

・液体レンズを取り付けることで、フォーカス調整が実用上ほとんど必要ないプロジェクタの開発に成功。
・通常のプロジェクタの構成を大幅に変える必要なく、被写界深度(ボケない距離)を4倍近く拡大。
・ピンボケを気にすることなく使用できることから、今後、会議でのプレゼンテーションやプロジェクションマッピングなど、幅広い分野での応用に期待。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の佐藤宏介教授、岩井大輔准教授らの研究グループは、プロジェクタのレンズの前に、フォーカスを高速駆動できる液体レンズ を取り付けるだけで、焦点が合う範囲が大幅に広がり、フォーカス調整が実用上ほとんど必要ないプロジェクタを開発しました。

本研究では、人の目では知覚できないほど高速に、フォーカスの合う位置を投影シーン中で周期的に移動させることで、移動範囲内ではピンボケしない映像投影が可能であることを発見しました。また、立体物への投影(プロジェクションマッピング)については、今回開発したプロジェクタを用いることで、通常では複数台のプロジェクタを使って焦点を合わせるところ、1台だけで対象面すべてでフォーカスの合う映像投影に成功しました。

本研究成果によって今後、プレゼンテーションやサイネージ(電子看板)、アート・エンターテインメント、形状計測など幅広い分野での応用が期待されます。

本研究の成果は、3月23日より開催されたバーチャルリアリティ(仮想現実感)に関する国際会議IEEE Virtual Reality 2015にて発表されました。


試作システムを使って距離の違う2平面に映像投影した結果。提案技法のみ、遠方・近法の両方の面で画像がくっきりと表示されていることが確認できる。

研究の背景

プロジェクタは大画面のディスプレイを簡易に構成できることから、プレゼンテーションなどで頻繁に利用されています。しかしながら、プロジェクタは一般的にカメラと比べて極端にボケやすい構造になっており、使用するときには毎回フォーカス調整を強いられます。また最近では、身近な立体物(例えば建物など)に映像を投影するプロジェクションマッピングと呼ばれる映像表現の方法が関心を集めていますが、映像を投射する面が平らでは無いため、必ずどこかに焦点の合わない箇所がでてきてしまいます。複数台のプロジェクタを同時に使い、投射したい面ごとに焦点の合っているプロジェクタを選択する方法でこの問題を解決することができますが、多くのプロジェクタをあらかじめ用意する必要があり、プロジェクションマッピングを個人で楽しむためには導入コストが高くハードルとなっていました。

今回、佐藤教授の研究グループでは、長年取り組んできたプロジェクタ応用工学の研究にもとづき、フォーカスを投影シーン中で周期的に移動させるとその範囲内ではボケが広がらないという知見を応用して、フォーカスの合う範囲(被写界深度)を通常の4倍程度にまで広げることのできる技術を開発しました。

この技術を適用すれば、プレゼンテーションを行う際にプロジェクタを設置した後、従来は必要だったフォーカス調整が不要になります。さらに、プロジェクションマッピングのような立体物に映像を投影する際に、プロジェクタ1台だけで対象面全てでフォーカスの合う映像投影を行うことにも成功しました(下図)。


非平面への映像投影結果。提案プロジェクタは全体的にフォーカスが合っている。
一方、通常のプロジェクタでは、プロジェクタ側に近いほうがボケてしまっている。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果を適用することで、広い範囲でボケない映像を投影表示できるようになります。これまで暗黙・明示的に行われてきたフォーカス調整の制約を取り払うことで、多くの分野で活用できると考えています。

(1)プレゼンテーションへの応用

プロジェクタを設置する度に行われていた煩わしいフォーカス合わせの作業が不要になり、プレゼンテーションの内容に集中することができます。

(2)アート・エンターテインメント分野への応用

メディアアートやテーマパークで広く利用されているプロジェクションマッピング技術に本研究成果を適用することで、これまでプロジェクタの設置位置や台数の制約で実現できなかった高い自由度での表現が可能となります。

(3)形状計測への応用

プロジェクタから投射された光をカメラで撮影して三角測量の原理を用いて立体物の形を計測する形状計測の技術が、FA (Factory Automation, 工場自動化)などでのロボットの視覚や、貴重な文化財をデジタル保存する現場で利用されています。これまでは暗黙的にプロジェクタのフォーカスが合う範囲でのみ計測が行われていましたが、本研究成果を適用することで、これまでのシステムでは対応不可能だった広い範囲の形状計測が可能となり、より柔軟性の高いシステム設計が可能になります(図1)

技術のポイント

プロジェクタのレンズの前に液体レンズを取り付けて、人の目で知覚できないほど高速にフォーカス位置を周期移動させます。これにより、移動範囲内ではボケが広がらず、常に一定のボケ量が維持されます。このことで、通常のプロジェクタよりもボケにくい映像投影が実現できます。

【ボケにくい理由】
フォーカス位置を高速に周期移動させると、移動範囲内では、フォーカスが合うときと合わなくなるときが繰り返されます。人の目はある短い時間の光の情報を足しあわせたものを知覚するので、フォーカスが合った状態と合わない状態全てを足しあわせたものを観察することになります。実は、この足しあわされたものが、移動範囲内で一定になることを世界ではじめて数式的・実験的に確かめました(図2)

ボケの量がわかっていれば、それに合わせてあらかじめ映像を補正(細かな情報を強調)することでくっきりとした映像として投影されます。従来、ボケを補正する技術では、ボケの量を最初に計測した後、実際のコンテンツを投影する必要がありましたが、本研究成果では常に一定のボケ量であることが保証されているので、この計測が不要になります。

特記事項

本研究の成果は、3月23日より開催されたバーチャルリアリティ(仮想現実感)に関する国際会議IEEE Virtual Reality 2015にて発表されました。
Daisuke Iwai, Shoichiro Mihara, and Kosuke Sato, "Extended Depth-of-Field Projector by Fast Focal Sweep Projection," IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics (Proceedings of IEEE Virtual Reality 2015), Vol. 21, No. 4, 2015.

また、動画でも紹介しています(https://www.youtube.com/watch?v=GWo2XmIFC0c)。 ※英語のみ

参考図

図1 形状計測結果
(左下)従来のプロジェクタではボケの影響で計測形状にノイズが入っている、(右)提案プロジェクタの方がノイズが少なく投影パターンがくっきりと観測できる。

図2 点パターンを投影した時のボケの広がり方
(左)通常のプロジェクタではボケの広がり方は位置に依存するが、(右)本研究提案のプロジェクタでは依存しない。

用語解説

※ 液体レンズ
水溶液と油の境界で光を屈折させて集光するレンズ。水に電圧を加える事で、境界面を変化させて焦点距離を変えることができる。また、一般に通常の機械式のレンズと加えて極めて高速に焦点距離を変えることができる。

参考URL

研究室HP
http://www-sens.sys.es.osaka-u.ac.jp/

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