心臓ホルモンによるがん転移予防効果のメカニズムの解明、並びに多施設臨床研究開始のお知らせ

心臓ホルモンによるがん転移予防効果のメカニズムの解明、並びに多施設臨床研究開始のお知らせ

国家戦略特区内における保険外併用療養の特例を活用した全国初の案件

2015-2-24

概要

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:橋本信夫、略称:国循)研究所の野尻崇(生化学部ペプチド創薬研究室長)、細田洋司(組織再生研究室長)、徳留健(情報伝達研究室長)、寒川賢治(研究所長)らの研究グループは、大阪大学大学院医学系研究科呼吸器外科奥村明之進教授らとの共同研究で、心臓から分泌されるホルモンである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が、血管を保護することによって、様々な種類のがんの転移を予防・抑制できること、そしてその詳細なメカニズムについて明らかにしました。

本研究の成果により、肺がん手術(500症例)を対象とした全国規模での多施設臨床研究(JANP study;国循が主導)を開始する予定となっています。本試験は、国家戦略特区における保険外併用療養の特例(先進医療B)を活用した全国初の案件です。参加予定施設は、大阪大学、東京大学、北海道大学、山形大学、神戸大学、国立病院機構刀根山病院、大阪府立成人病センター、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター、山形県立中央病院の9施設であり、厚生労働省の先進医療Bへの申請・承認後、開始予定となっています。

※ANPは、1984年に寒川賢治、松尾壽之(当センター研究所名誉所長)らによって発見された心臓ホルモンであり、現在心不全に対する治療薬として臨床で使用されています。

研究の背景

これまでに我々は、肺がん手術の際、術前に心不全の診断マーカーとなっているBNPが高値である症例群(BNP≧30 pg/ml)において術後不整脈の発生が有意に高くなることを報告し、このような高リスク症例に対して周術期ANP 投与のプラセボ対照無作為化比較試験を行い、術中より3日間ANPを低用量持続投与することによって術後不整脈の発生を有意に抑制できること、さらには高齢者や閉塞性肺疾患を合併する肺がん患者では心肺合併症を予防することを報告しました。今回、これまでに行われた非ランダム化前向き臨床研究によって、手術+ANP群は、手術単独群(対照群)と比較して術後2年無再発生存率が良好な成績であったことが示され、ANPの再発予防の機序について基礎的見地から解明を進めてきました。

※手術+hANP群は、手術単独群(対照群)と比較して術後2年無再発生存率が良好な成績であったことが示唆されました(下図)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

非小細胞肺がん完全切除例に対する手術療法は既に確立された治療法ですが、根治手術を施行できても術後再発率は依然として高いのが現状です。周術期に転移再発予防を講じる治療法は確立されていませんが、本研究からANPが術後転移抑制に有望な薬剤であることが予想されます。ANPは内在性ペプチドであることから、これまでに本邦で数十万人使用されても、低血圧以外の重篤な副作用は稀にしか報告されておらず、安全性に優れた薬剤であると言えます。すでに心不全治療に使用されているANPを使用することで、肺がん術後の再発を抑制できれば、肺がんの手術成績は飛躍的に向上する可能性があります。以上より、肺癌周術期ANP補充療法が術後再発抑制効果を発揮すると考えられ、全国規模での多施設臨床研究を行い、実際の臨床の場でANPの肺がん術後再発抑制効果について検討して参ります。

特記事項

本研究の成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America』オンライン版に2月24日(日本時間)に掲載されました。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科呼吸器外科
http://www.thoracic.med.osaka-u.ac.jp/jp/